日本で最初の空港連絡特急は、京成電鉄の「スカイライナー」です。それから約半世紀。空港連絡特急は各地へ拡大し、JRのみならず私鉄でも運行されています。現在まで続く歴史を振り返ってみましょう。

空港連絡特急の歴史は46年

鉄道と航空機は競争関係であることも多いですが、協力関係にあるのが「空港連絡特急」です。都市部から空港駅までを高速かつ快適に結ぶために、専用特急車両で運行されます。

なぜ「専用」車両かといえば、空港連絡特急には大荷物を持つ旅行客が乗車するからです。このため大型の荷物置場など、旅行客に対応した設備が求められます。また、海外からの旅行者が最初に乗る列車でもあり、「日本の顔」として高品位なデザインも求められます。

では、空港連絡特急の歴史を振り返ってみましょう。

日本で最初の空港連絡特急は、1978(昭和53)年に運行開始した京成電鉄の「スカイライナー」です。京成上野成田空港(当初は現在の東成田駅)間を結ぶ列車として、2024年で46年になります。成田空港は都心部から遠く、速達性の高い列車が必要でした。なお「スカイライナー」は列車種別でもあるので厳密には“特急”列車ではありませんが、この記事では「専用車両で運行される有料速達列車」の総称として「空港連絡特急」とみなします。

スカイライナー」のスタートは順風満帆ではありませんでした。空港建設に反対する過激派に、専用車両だったAE形電車が放火されるなどの妨害もありました。空港駅も「成田新幹線ができる予定」だったため、京成の成田空港駅は空港ターミナルビルから離れた位置に設置するしかなく、連絡バスへの乗り継ぎが必要でした。

そんな悪条件の中ですが、初代「スカイライナー」のAE形に設けられた大型荷物置き場は、荷物といえば「側窓上の荷物棚」に置く時代としては斬新でした。座席は当初転換式クロスシートでしたが、リニューアル時に回転式リクライニングシートに換装されています。

AE100形、なぜ貫通扉がある?

その後1991(平成3)年に、現在の成田空港駅が開業します。成田新幹線計画が中止されたため、新幹線向けだった成田空港駅の用地に、JRと京成電鉄が乗り入れたのです。

JRは特急「成田エクスプレス」(新宿・東京~成田空港間など)用として、特急形253系電車を投入しました。253系は高いグレードを誇り、VIP用に4人用グリーン個室を備えたほか、開放客室も1+1列で回転式リクライニングシートが並ぶ豪華仕様でした。

普通車にも座り心地が良い、フランス製のボックスシートを採用。これは座席間に荷物スペースを増やす考えゆえでしたが、「特急なのにボックスシート」と不評で、増備車の一部には回転式リクライニングシートが採用されました。253系は現在でも長野電鉄2100系として使われており、個室、ボックスシート、回転式リクライニングシートの全てが利用できます。

JR東日本成田空港乗り入れに対抗した京成は、AE100形電車「ニュー・スカイライナー」を投入しました。座席間隔はAE形より6cm広い回転式リクライニングシートで、フットレストもある豪華仕様。フリースペースも設けられました。都営地下鉄浅草線を介して京急電鉄羽田空港駅乗り入れも検討され、前頭部に貫通扉も設けられましたが、こちらは実現しませんでした。

やがて空港連絡特急は成田だけでなく、大都市近郊の各空港を結ぶ路線でも運行を開始しました。

1994(平成6)年に関西国際空港が開港すると、JR西日本南海電気鉄道もそれぞれ空港連絡特急を運行開始します。JRは特急「はるか」(京都~関西空港間など)、南海は特急「ラピート」(難波~関西空港)です。

斬新なデザイン南海「ラピート」

「はるか」には281系電車が投入されました。デザインは和風テイスト。荷物室も備えられ、列車に積み込んだ荷物をそのまま航空機に搭載できるサービスも行われましたが、これは終了しています。

設備は1+2列のグリーン車と、2+2列の普通車です。乗車時間を反映してテーブルが小さいなど、長距離特急とはやや異なる仕様でしたが、快適な設備です。なお、2020年より新型271系電車も投入されています。

ラピート」には50000系電車が投入されました。建築家の若林広幸氏がデザインを担当し、流線型の前頭部に丸い窓という斬新な車両です。最速29分の列車ながら、スーパーシート(1+2列)とレギュラーシート(2+2列)の2クラスが設置され、近年も座席が交換されるなど、高いサービスレベルを維持しています。

2004(平成16)年10月には、中部国際空港へのアクセス路線として、名古屋鉄道空港線が開業します。当初は空港関係者限定で、3か月後の2005(平成17)年1月に一般旅客も利用可能となった際、空港連絡特急用として投入されたのが2000系電車です。車両愛称は「ミュースカイ」。2008(平成20)年より列車種別にもなっています。

2000系は空港への所要時間を短縮するため、曲線通過速度を上げる車体傾斜装置を装備。側扉は大型荷物を考慮して、幅広の両開き扉としています。多客期の併結を考慮して、先頭車は貫通構造です。足元空間を広げるために、座席ヒーターの小型化も行われました。また、名鉄特急伝統の前面展望を実現すべく、運転室にカメラが設置され、その様子は車内の液晶ディスプレイで放映されます。

「成田エクスプレス」へ新型車両が導入

2009(平成21)年、JR東日本は特急「成田エクスプレス」へ新型E259系電車を投入します。E259系は、個室や1+1グリーン席といった豪華設備こそ廃止しましたが、普通車でも全座席へコンセントと枕、通路上方の液晶ディスプレイが設置されました。これは時代を先取りするものでした。

2010(平成22)年に成田スカイアクセス線が開業すると、京成「スカイライナー」が最高速度160km/h運転を開始します。この在来線最速運転を実現するために投入されたのが、AE形(2代目)です。ファッションデザイナーの山本寛斎氏がデザインを担当し、スタイリッシュかつ日本の伝統造形も取り入れられました。

車内には明るいドーム型天井や、営業用鉄道車両としては最大級となる26インチ液晶ディスプレイを搭載。運転台のカメラでの前面展望も放映されています。座席も幅やシートピッチAE100形より拡大したほか、個別にコンセントも設けられました。

特に旅行者にとっては、その街の“顔”となり得る空港連絡特急。時代ごとの最先端技術を取り入れ進化してきており、今後の発展も期待されます。

京成電鉄の「ニュー・スカイライナー」に使われたAE100形電車(2007年2月、安藤昌季撮影)。