私道といえば、自宅の近くにあるちょっとした道路をイメージする人がほとんどかもしれませんが、日本国内には途方もない規模で作られた私道が存在します。

企業が作った規模の大きい私道

私道といえば、自宅の近くにあるちょっとした道路をイメージする人がほとんどかもしれません。しかし日本国内には、企業が所有する私道というものも存在します。ここではそうした企業が持つ、とてつもない規模の私道を紹介します。

地図でマツダ専用と注記される「東洋大橋」

広島市東部を流れる猿猴(えんこう)川の際下流には、有料道路である海田大橋が架かっていますが、そのひとつ上流に架かるのが、長さ560m、高低差25mに及ぶ「東洋大橋」です。

しかし、この橋はネット地図では表記されないこともあり、表示されていたとしても「mapion」では橋名に続いて「(マツダ専用)」との注釈がついています。

この橋は、猿猴川の両岸に広がるマツダの工場を結んでおり、一般車が通ることはまずありません。マツダの通勤バス、業務バス、物流トラック、各種工事車両、取引業者の車両、社用車、完成車などが行きかう専用道路となっています。

マツダの工場は、猿猴川東岸に本社地区が、西岸の工作機械工場のある宇品西地区があり、その両地区を橋が結んでいます。これが完成以降は、敷地の長さにして7kmにも及ぶマツダ広島工場内を、公道や船を使わず効率よく移動できるようになったりました。なお、マツダによると、完成当時は世界で最大規模の企業が所有する橋だったとのことです。

約30kmの私道!? 鉱山と臨海部を結ぶ宇部伊佐専用道路

前述したマツダ所有の「東洋大橋」よりもさらに大きく、世界最大の私有の橋ともいわれる全長1020mの「興産大橋」を所有するのが、UBE三菱セメントMUCC)です。ただ、この橋はMUCCが使用している私道「宇部伊佐専用道路」の一区画でしかありません。

この道路は山口県宇部市の臨海部を起点として美祢市の山間部まで道路が伸びており、その長さは31.94km、日本で一番長い私道ともいわれています。

MUCCの前身である宇部興産(UBE)が、美祢市石灰石鉱山に隣接する伊佐セメント工場で加工したセメントの中間製品「クリンカー」などを、臨海部の宇部セメント工場に運ぶための道路として、1968年から建設を開始。14年の歳月をかけ1982年に全区間が開通しました。

この道路を走行するには、同社に入社し社内で講習を受けてライセンスを取得する必要があります。私道とはいえ、70km/hの制限速度をはじめとするルールは細部まで厳格に定められており、パトロール業務の担当者が常時、取り締まりを行っているそうです。

なお、セメントの材料を大量輸送する関係から、宇部伊佐専用道路では、1台のトレーラーヘッドが44t積みトレーラーを2両連結して牽引するダブルストレーラーが運用されています。私道ならではのビッグな車両です。

秘密基地の入口?「いえ、海底トンネルの私道です!」

川崎市の臨海部、水江町地区と京浜運河の向こうの埋立地「東扇島」を結ぶ「JFEスチール海底トンネル」は、その名の通り、JFEスチールが所有する私道となっています。

JFEスチールが位置しているのは、東扇島の西隣の扇島で、この海底トンネルを含む扇島へのルートは関係者しか通れません。この扇島自体が、SOLAS条約(海上における人命の安全のための国際条約)に基づいて、一般人の立ち入りを厳格に禁止する場所となっています。

なお扇島にはJFEスチール東日本製鉄所のほか、ENEOS風力発電所、東京ガスのLNG(液化天然ガス)基地、火力発電所、石油基地などがあり、他企業はそれぞれJFEスチールから通行許可を得ています。

ただ、JFEスチールは鉄鋼事業の環境変化を理由に、東日本製鉄所(京浜地区)の上工程と呼ばれる高炉設備を2023年9月に休止。川崎市は跡地を、「日本のカーボンニュートラルを先導」し、多目的なオープンスペースなどを備え「首都圏の強靭化を実現する」エリアとするというビジョンを打ち立てており、扇島は一般開放される見込みです。

他地域から扇島へのアクセス整備のため、まず島内を横断する首都高湾岸線に新たな出入口を設けることが計画されていますが、海底トンネルの一般開放については明らかになっていません。

マツダが工場間の移動用に建設した「東洋大橋」(画像:マツダ)。