昨年75歳以上の人口が2,000万人を超える超高齢社会の到来にともなって、複数の疾患を抱える高齢患者が増加しています。こうしたなか、なくてはならない職業が「看護師」「准看護師」です。しかし、実務の内容にほとんど差がない2つの職業について、とその給与額には大きな格差があると、医師の秋谷進氏はいいます。今回は准看護師について、看護師との違いやその懐事情について、秋谷氏が解説します。

准看護師と看護師…一見して見分けがつく人は少ない

昼夜問わず私達の健康を支えてくれる「看護師」。病気になった時、ケガをして入院した時、手術や重い病気で心も体も辛くなった時……看護師という存在に救われた人も多いのではないでしょうか。

実は、そんな看護師ですが「准看護師」と「看護師」に分かれているのをご存じでしょうか。普通に接しているだけではどちらか見分けがつかない人がほとんどだと思います。

見分けもつきづらく、また実際の業務も一見ほぼ同じ。にもかかわらず、准看護師のほうが看護師よりも給料も低いのです。それはなぜなのでしょうか?

「准看護師」とは?

そもそも、准看護師についてあまり知らない人も多いでしょう。制服を色分けしている病棟もありますが、ほとんど区別がない病院も少なくありません。

保健師助産師看護師法によると、准看護師の定義は以下のとおりです。

都道府県知事の免許を受けて、医師、歯科医師又は看護師の指示を受けて、前条に規定することを行うことを業とする者

ちなみに、「前条」とは、看護師の定義の記載、〈傷病者もしくはじょく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者〉となります。

※じょく婦:分娩終了後母体が正常に回復するまでの期間(おおよそ6週間)における婦人をいう。厚生労働省

つまり、かいつまんで言うと、准看護師の特徴は「看護師とほとんど同じ仕事ではあるが、看護師や医師・歯科医師の指示を受ける必要がある職業」ということになりますね。

業務自体は同じですが、いわゆる看護師の仕事をさらにサポートする業務ということになります。それだと看護師だけでもよさそうなものですが……どうして「準看護師」という職業が生まれたのでしょうか。

日本で「准看護師」が生まれた背景

「准看護師」が誕生した由来は、第二次世界大戦までさかのぼります。

第二次世界大戦後、日本は敗戦を迎え、多くの人が傷つき疲弊した状態となりました。そのため急速な病院増設が急務であり、それに伴う看護師の需要が急増しました。しかし、当時の女子高校進学率は低く、十分な数の看護師を確保することが困難だったのです。

このような背景から、中学卒業を最低要件として、看護師を補助する資格として准看護師制度が発足されました。

実際、准看護師制度は、看護師不足を補う暫定措置として、昭和26年1951年)に議員立法により創設されています。この制度は、中学卒業者でも看護師資格の取得が可能となり、看護師へのハードルを低減させることで、医療現場の人手不足を解消しようという狙いがあったのですね。

その後、時代が進むにつれて医療の高度化や複雑化が進みました。また、高齢化にともなって複数の疾患を持つ高齢患者が増加しています。そのため、これらの変化に対応すべく、自律的に判断し行動できる能力が看護職に求められるようになってきており、准看護師にとって「転換期」を迎えているといえるのです。

看護師と准看護師、いったいなにが違うのか

このような背景もあって、実は准看護師看護師も「実務能力」としてはほとんど同じです。法令上の制限はあるものの、実際の現場では准看護師看護師とほぼ同じ業務を担当しています。

たとえば、患者のバイタルチェックや入浴介助や食事支援など、日常的な看護業務はもちろんのこと、採血や点滴、注射などの人の体に影響を与える行為も「准看護師」の資格があれば可能です。

しかし、看護師と准看護師のもっとも大きな違いはなにか。それは一言でいうと「責任」です。

人の命を扱うのですから、どんな行為にも大きな責任が伴います。

通常、医師が大まかな方針を決定して看護師は医師の判断にしたがうことが多いです。しかし、医師は細かい部分まで伝えきれません。

そのため、看護師にも細かい部分での医療的な判断能力が求められますし、自律的な医療活動が求められます。

たとえば、入院中の患者に夜中トラブルが起きたとして、どの段階で医師を呼ぶのか。その間の応急処置はどうするのか。すべて医師に事前に聞いていくわけにはいかないので、看護師が自分の判断で動かなければなりません。

また緊急でなくても、日常の業務がスムーズに行われるために、何時までにどんなデータが必要で患者の普段のケアはどうすべきかなど、「細かいけれど大切な医療的な判断」を問われるのが、看護師の主な役割なのです。

一方で准看護師は、実務能力は与えられているものの「判断」の部分で看護師の指示に従っている……この点は非常に大きいのではないでしょうか。

看護師と准看護師の給与格差

このように看護師と准看護師では「医療的な判断能力の有無」の差で業務での大きな違いではありますが、それを反映してか給与面でも大きな違いがあります。

まず、准看護師の給与状況を見てみましょう。

厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、准看護師の平均年収は約418万円となっています。

平均年齢51.2歳と一般労働者よりも高齢で、勤続年数も長く12.2年。

月収ベースで考えると約29.6万円でボーナス約62.7万円という内訳になっています。

一方、看護師の平均年収についてはどうでしょうか。

同じく「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、看護師の平均年収は508万1,300円となっています。准看護師と比べると90万円近くも高くなっていますね。

しかも平均年齢は40.7歳と准看護師よりも10歳も若く、勤続年数も9.1年と准看護師よりも3年も少なくなっています。ちなみに月収ベースで考えると約35.1万円となっており、ボーナスは約86.2万円という内訳です。

やっている「実務」は同じなのに、「責任」の部分でこれだけ給与に差が出てしまうのです。

「准看護師」の未来

当然ですが、医療的な判断ができることは非常に大切です。

しかし、昨今では慢性的な人手不足もあり、准看護師のような「実務」ができることも、非常に大切です。

実際、看護師不足が続くなか、地方では看護師の確保が難しく、准看護師の求人もたくさんある状況です。一方、日本看護協会を中心に、准看護師であっても看護に関して自律的な判断できるよう、制度緩和の取り組みがすすめられています。

医療人的資源不足の解消を願うのか、それぞれが自律的な判断ができる看護師一本化を目指すのか。今後「看護のあり方」そのものが問われていくことになるでしょう。

秋谷 進

医師

(※写真はイメージです/PIXTA)