「売上を上げてきたのに、利益がほとんど変わらない。」「同じルールの下で同じ商売をしているのに、ものすごく儲かっている会社と倒産していく会社があるのはなぜか?」…このように考える中小企業の経営者やスタートアップの代表は多いでしょう。27才で売上高1億5千万円、自己資本比率15%の電気工事会社を父から引き継ぎ、その後、売上22億円、経常利益2億円、従業員240人の会社にまで成長させた株式会社九昭ホールディングス代表取締役・池上秀一氏の著書『資金繰りの不安がなくなり、自己資本比率が上がる! 付加価値額の教科書』(イースト・プレス)より、池上氏の経験に基づき導き出された経営メソッドを、一部抜粋して紹介します。

全国400万社以上の中小・零細企業が“半分”になる

「売上が100億円くらいないと企業は生き残れない」と本書でお伝えしていますが、根拠なく言っているわけではありません。私なりに感じているものがあります。

現在、日本には約420万社の企業があり、そのうち99.7%が中小・零細企業(個人事業者も含む)と言われています。私はこの数は“多すぎる”と考えています。そして、それを国は淘汰しようと考えているとも思います。

菅政権時代だった2020年12月8日ダイヤモンド・オンラインの記事で、「菅内閣は『中小企業つぶし』という日本経済つぶしを押し進めている」というものがありました。

総務庁(現・総務省)の元官僚で政策コンサルタントの室伏謙一氏による記事には、当時の菅内閣が経済・産業対策として進めていた中小企業再編策の内容は「再編」の名をかたった淘汰=中小企業潰しに他ならないと書かれていました。

国は直接「淘汰」とは口にしませんが、押し進めようとはしているわけです。

ここからは私の推測に過ぎませんが、個人的には400万社以上ある中小・零細企業を半分の200万社程度にまで縮小しようとしているのだと考えています。少子高齢化と人口減少によって労働人口が減っていく日本では、このような施策を打たないと日本全体が生き残れないと考えています。

ではそのときにどんな会社から淘汰されるのでしょうか?

当然ですが利益を考えられていない小さな会社から淘汰されるでしょう。強い者が生き残り、弱い者が淘汰されるのが自然の摂理だからです。淘汰されないためには、それに見合う規模になることが必要です。 企業で言えば売上高が高いところが生き残るわけで、私なりの指標が売上100億円です。もちろん売上がすべてではありませんが、少なくとも世間は売上で会社の規模を見ています。

現実の話をすると、私の会社にも毎日のようにM&Aの話が来ます。要するに「あなたのグループを売ってください」ということです。これは同じように危機感を抱いた企業が規模を大きくしようとしている証左だと私は思います。2分の1の確率で淘汰されるのだとしたら私の会社は「大丈夫」ではありません。その危機感をこれからの経営者は新たに持って経営に臨んでいかなければいけないと私は思います。

下請け体質から脱却するには

売上を上げ、会社の規模を大きくしていくためには、本書で詳しく述べている付加価値額経営を導入して付加価値額から逆算で売上高を高めていくことが先決です。まずは自社の仕事の付加価値額と付加価値率を算出し、儲かる仕事とそうでない仕事を仕分けするところから始めてください。

そして、その中で「最もお金が残る仕事」を見つけましょう。それは経営者にしかできない仕事です。そして「やる仕事」と「やらない仕事」を決め、優先順位をつけていくのが第一歩です。

私の会社の場合は最も儲かる=付加価値率の高い仕事が信号機の元請け工事で、逆に最も儲からない=付加価値率の低い仕事は建設会社の下請け工事でした。ですから、下請け仕事はしない方向に舵を切ったのです。父親の借金が残っていましたから、正直、当時は切羽詰まっていました。

もちろん、それによって売上は下がりました。それでもその穴は経営者である私が埋めました。方法はすでにお伝えしましたが、民間の仕事を100万円の小さなものでもいいから取っていくことをしたのです。

具体的には、目標の付加価値率を30%に定め、帝国データバンクや商工リサーチに連絡をして、福岡県内で2,000万円以上の利益を出している企業のデータを購入し、新規営業をかけました。

もちろん、アポ取りをしても会ってもらえるのは10件に1件もあればいい方でした。この時期は正直、しんどかったです。しかし、この“しんどい仕事”は経営者がやるべき仕事だと考えていたので私が行いました。

そして、付加価値額経営での営業スタイルを確立できてからは、社員教育によって営業社員が私と同じことをできるようにしていきました。

最初は私が営業をかけ、地ならしができたら社員に任せる。見積書は必ず「控え」に付加価値額と付加価値率が入る仕様に変えて、受注できそうな仕事の付加価値率が何パーセントかを見える化できるようにしました。

このような付加価値額経営での営業スタイルで仕事を行っていくと、自然と付加価値額を高めていくことができます。付加価値額経営が浸透することによって、営業社員が客先で判断する基準を持つことができるようになるからです。

見積書をベースに会社で定めた基準を下回るようであれば断り、上回るようであれば受注する。仮に将来性があって今回だけ下回る場合は、「今回は一発目なので低いですが、今後はこうなります」というプレゼンテーションを社員が経営者にしてくるようになります。

現場でも付加価値額経営が頭に入っている営業社員であれば、ある程度の推測から電卓を叩いて「やらせてもらいます」「持ち帰ります」「断ります」の判断がその場でできるようになります。

すべては付加価値額が基準です。会社の規模を大きくしていくためにも、経営者が付加価値額経営をインストールし、全社に浸透させていくことが下請け体質からの脱却につながるのです。

(株)九昭ホールディングス代表取締役

池上 秀一

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