不確実性が高まるなか、未来予測に基づくビジネスがますます困難を極める現在。一方で、世界は地球温暖化や人口問題、エネルギー問題、国際秩序の変容といったさまざまな難題に直面しており、そこには間違いなく未来を拓く「商機」が潜んでいる。本連載では『グローバル メガトレンド10――社会課題にビジネスチャンスを探る105の視点』(岸本義之著/BOW&PARTNERS発行)から、内容の一部を抜粋・再編集。起業や新規事業の創出につながる洞察を得るべく、社会課題の現状を俯瞰・分析する。 

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 第3回目は、世界のエネルギー消費が増え続けるなか、バイオマスや水素、アンモニアといった新エネルギーの長所と短所を解説する。

<連載ラインアップ>
第1回 なぜ「未来予測」は当たらないのか? 「メガトレンド」と社会課題の関係
第2回 日本が連続受賞した「化石賞」とは? 脱炭素社会の実現に向けた世界の動き
■第3回 水素、アンモニアは脱炭素の切り札になるか? 経産省も期待する新技術とは?(本稿)
第4回 2058年に世界人口は100億人へ、「一足飛び」の成長が期待できる有望市場は?
第5回 サントリー、JTなどの海外企業の買収で考える「経営のグローバル化」とは?
第6回 「アメリカ側」vs.「中国側」の先へ・・・世界が向かう「多極化」とは?


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バイオマスはカーボンニュートラルか

 バイオマスとは、植物およびそれに由来する材料、例えば、木くずや間伐材、または可燃性ごみ、廃油、糞尿などを用いてエネルギー源にすることを指した言葉です。

 バイオマスは発電に使うことができます。直接燃焼方式という、バイオマス燃料を直接燃焼して蒸気タービンを回す方法もありますが、このほかにも、熱分解ガス化方式といって、燃料を熱処理することでガス化し、ガスタービンを使って燃焼させる方法もありますし、生物化学的ガス化方式という、燃料を発酵させるなどして生物化学的にガスを発生させ、そのガスをガスタービンで燃焼させる方法もあります。

 また、こうした燃料を燃やした際の熱を利用することもでき、バイオマス熱利用と呼ばれます。

 また、バイオ燃料と呼ばれるものもあります。バイオマスのガスをもとにして、エタノールなどの液体燃料を製造するものです。

 ジェット機は電気では飛べません。プロペラ機のプロペラを電気で回すことはできますが、ジェット機のような高速の飛行機を電気で飛ばすのは無理があります。やはりジェット機には液体燃料が必要なので、バイオマスをもとにして作ることが期待されています。

 このバイオマスは、いわゆる再生可能エネルギーとは少し違います。太陽光や風力、水力などのような発電方法は、自然界で発生する「取り尽くすことのない」エネルギーを利用しています。

 一方のバイオマスは、燃料として燃やした時に二酸化炭素を排出してしまうのですが、植物だった時代に二酸化炭素を吸収していたものを燃やしているので、「差し引きゼロ」、つまりカーボンニュートラル(中立的)と見なせるという考えで利用されているものです。

 バイオマス原料として、植物を育てて使うということも考えられます。そうすれば、まさに二酸化炭素を吸収してから燃料にすることが直接的に結び付けられます。この場合の問題点は、食糧との間で耕作面積の奪い合いになってしまうということです。

 第5章で紹介しますが、人口が増加していくと食糧不足に陥るという問題が発生します。しかし耕作面積はそれほど多くは増えません。そのなかで耕作面積をバイオマスエネルギーに使うと、食糧不足がさらに深刻化してしまいます。

 また、森林を伐採してバイオマスに使うとなると、自然破壊の問題を引き起こしてしまいます。景観が悪くなるという問題もあるのですが、それ以上に、これから二酸化炭素を吸収してくれる森林を減らしてしまうのは逆効果です。

 なので、植物を使うにしても、木くずや間伐材(材木を育てる上で日当たりを確保するために余計な木を減らすことで発生するもの)を活用することが望ましいということになります。

 植物を使うのではなく、可燃性ごみ、廃油(揚げ物を揚げた後の油など)、糞尿を活用すれば、森林を破壊する心配はありません。捨ててしまうものを再活用するのですから、有限な資源の再利用にもなります。

 ただし、ごみ回収コストの問題があります。従来型の化石燃料などは、油田のようなところから産出されるので、一か所から大量に入手することができます。輸送する上でも、産出地から消費地へ大量に輸送する手段があります。バイオマスも農場などで大量に栽培すれば、効率的に入手して輸送できます。

 しかし、ごみの場合は、回収するのに多くの人手が必要です。集めるだけでなく、仕分けしたり、洗ったり、運んだりするのに手間が相当かかります。捨ててしまうものですから材料費ゼロと考えがちですが、これらの人手は人件費としてかなりかかります。

 また、バイオマスがカーボンニュートラルというのは本当か、という基本的な疑問も最近では出てきています。植物だった時代に吸収した二酸化炭素と、燃料として排出した二酸化炭素のどちらが多いのかは、厳密に言うとよくわかりません。また、バイオマス燃料の栽培、加工、輸送の段階でかなりの二酸化炭素を排出しているという指摘もあります。

 このように、様々な課題も指摘されているバイオマスですが、それは期待の裏返しなのでしょう。植物の力をもっと利用するという観点から、利用が進んでいくことが期待されているのです。特に、海藻などの藻類由来のものであれば、耕地問題も、森林破壊問題も、ごみ回収コストの問題も回避できるので、今後さらに期待が高まるかもしれません。

■水素とアンモニアは切り札か

 第3章の自動車の技術のところでも述べましたが、水素エネルギーは二酸化炭素の排出がないのが最大のメリットです。

 水素を得る方法には、天然ガスや石炭等を水素と二酸化炭素に分解する方法(グレー水素)、その二酸化炭素を大気排出する前に回収する方法(ブルー水素)と、水を電気分解する方法(グリーン水素)があります。ただし、水素は爆発の危険性もあるので、保管や運送は簡単ではなく、低温・高圧で圧縮して液化する必要があります。

 自動車に関しては、水素を車内で化学反応させて発電して走る車(燃料電池車)と、水素をエンジンで燃焼して走る車があります。ただし、電動自動車向けの給電ステーションへの投資が必要となっていく時代に、水素ステーションも全世界に普及させるのは重複投資であり、よほどの低コストにならない限り難しそうです。

 では、自動車以外の用途はどうでしょうか。これも第3章で触れましたが、余剰電力をいったん水素にしておく「水素蓄電」に使うという可能性があります。

 太陽光、風力、原子力など、需要に応じて発電量を変えられない場合、余剰が起こりますが、その余剰電力を使って水を電気分解して水素を生産して蓄積しておくという方法です。

 そして電力が不足しそうな時間帯になったら、その水素を用いて燃料電池で発電するのです。

 大量の蓄電池に電気をためるよりは、この「水素蓄電」の方が低コストになる可能性があります(もちろん、技術進歩は予測できませんから、蓄電池の低コスト化が劇的に進む可能性もあります)。

「水素蓄電」の弱みは、水素は爆発の危険性もあり、保管や運送は今のところ、低コストではないという点です。この問題を回避できるとして注目され始めているのが、「水素貯蔵体」(水素キャリアとも呼ばれます)という、他の物質に一回変換する方法です。

 その一つであるメチルシクロヘキサン(MCH)は、トルエンに水素を付加させて作る液体で、水素ガスと比べると体積当たり500倍以上の水素を含むので、効率よく水素を運ぶことができます。

 つまり、以下のような流れで再生可能エネルギーをためて使うことが考えられるわけです。

太陽光などで発電をする間のうちに発電量が需要量を上回ったら、その電気で水を分解して水素を作る その水素をMCHなどに変えて保管・輸送するになって発電量が需要量を下回ったら、そのMCHなどを水素に変える 水素を使って燃料電池で発電する

 かなり多くのステップが必要なので、全てのステップが低コストにならないと実現の可能性は高まりませんが、今後技術革新が起こる余地はあります。水素貯蔵体としては、MCH以外の物質も登場する可能性があり、例えば水素化マグネシウムは、常温の固体として保管・輸送できるので燃料電池車向けにも利用できるのではないかと期待されています。

 他にも、「水素をアンモニアに変えてためておく」という方法もあります。アンモニアは水素を原料に作ることができ、現在も肥料や化学原料として生産されているのですが、液体水素と比べると、そこまでの低温化・高圧化をしなくてもアンモニアの状態で保管・輸送ができます。

 また、アンモニアの場合は、水素に戻さなくても、そのままでエネルギーとして使うこともできるのが特徴です。アンモニアは可燃性なので、従来型の火力発電設備を改修することで、アンモニアでの火力発電も可能になります(化石燃料とアンモニアを併用する混焼という方法もあります)。

 アンモニアは燃やしても二酸化炭素を排出しないので、既存の火力発電設備を残したまま二酸化炭素の排出を減らすことも可能になります(その代わりに窒素酸化物を排出しますが、その窒素酸化物を減少させる技術は存在しています)。

 このように、ステップが多くなるためコスト面ではまだ不利に見える水素とアンモニアですが、日本の経済産業省などは、この技術にかなり期待をかけています。自動車向けに普及するかどうかは、主要国が軒並み電気自動車をプッシュしているために難しいかもしれませんが、「水素蓄電」「水素貯蔵体」や「アンモニア発電」などへの展開もあるため、可能性の幅は広そうです。

<連載ラインアップ>
第1回 なぜ「未来予測」は当たらないのか? 「メガトレンド」と社会課題の関係
第2回 日本が連続受賞した「化石賞」とは? 脱炭素社会の実現に向けた世界の動き
■第3回 水素、アンモニアは脱炭素の切り札になるか? 経産省も期待する新技術とは?(本稿)
第4回 2058年に世界人口は100億人へ、「一足飛び」の成長が期待できる有望市場は?
第5回 サントリー、JTなどの海外企業の買収で考える「経営のグローバル化」とは?
第6回 「アメリカ側」vs.「中国側」の先へ・・・世界が向かう「多極化」とは?

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