中国動画サイト、iQIYIで再生回数が20億回を超えた大ヒットドラマの原作小説を日本で映画化した『ゴールド・ボーイ』が、3月8日(金) に全国公開される。主演は岡田将生。『デスノート』シリーズなどを手がけたベテラン、金子修介が監督。大人の殺人犯を子供たちが脅迫する、という奇抜なストーリーで、展開が二転三転し、最後まで目が離せない一級のエンタテインメントになっている。

『ゴールド・ボーイ』

原作は中国のベストセラー作家・紫金陳(ズー・ジェンチン)のミステリー小説『坏小孩』。「The Gone Child」という英語題がついている。日本でも文庫版がでているが、こちらのタイトルは『悪童たち』。それを、この映画で『ゴールド・ボーイ』としたのは、脚本を担当した港岳彦のアイデア。劇中、頭脳戦を繰り広げる主人公ふたりは中学生以下を対象にした数学コンテストメダリストであり、そんな光り輝く少年たちが……という意味合いでつけたようだ。冒頭の、書家・金澤翔子による墨痕あざやかな「黄金少年」の題字は、このあとの中国語圏での公開も意識した感じで、インパクトがある。

舞台は夏の沖縄。地元で手広く事業を展開する大富豪の夫妻が、婿養子に、崖から海へ突き落とされる衝撃的なシーンで、映画は始まる。

婿養子の名は東昇(岡田将生)。事故死を装い、富と地位と自由を手に入れるというたくらみ。「完全犯罪」のはずだった。しかし、その犯行は、崖が遠望できる浜辺でスナップを撮っていた子供たちのカメラに、偶然、動画として映り込んでいたのだ。

子供たちは、朝陽(羽村仁成)、浩(前出燿志)、夏月(星乃あんな)の3人。13歳の中学生だ。朝陽と浩は幼なじみ、夏月は浩の義理の兄妹。みんな、一筋縄ではいかない家族関係を抱えており、あるトラブルをきっかけに、浩が夏月を連れて朝陽のもとに逃げ込んできた。

テレビで転落事故を知った彼らは、警察に通報するのではなく、犯人の昇を脅迫して金を巻き上げようと思いつく。

悲劇の跡取り婿を演じる冷血な昇と、彼を追い詰めたあげくに利用しようと企てる朝陽たちの頭脳戦が始まる。が、話はそれだけでは終わらない。それぞれのドラマが第二、第三の事件を巻き起こしていき……。

製作は、アジアの映像コンテンツを配給するチームジョイ。同社は映像プラットフォームiQIYIの日本総代理店でもある。この映画は、そのネットワークを活用し、中国をはじめ、アジアでの公開を前提としているという。『デスノート』や、「平成ガメラ」シリーズなど、アジア圏でも人気と知名度の高い金子修介監督に企画を持ち込んだ。

文庫本でも上下2冊になるほどの長編小説を映画化するにあたり、金子修介監督は港岳彦に脚本を依頼した。最近では、複雑に絡み合う群像劇『正欲』を、まさに力業でまとめあげた名手だ。

このふたりが意識したのはアラン・ドロン主演の『太陽がいっぱい』だったという。地中海の海を舞台に美貌と野心を持つ青年が大富豪の息子を殺し、成りすまそうとするサスペンス映画の名作。

金子監督はキネマ旬報のインタビューでこんな風に語っている。

「港くんとは脚本段階から『太陽がいっぱい』を合言葉にして、話し合ったんです。岡田くんはその雰囲気にうまく合っていた」(キネマ旬報3月号)

天性の美しさを持つ悪党役。岡田将生は、義父母を殺し、何食わぬ顔で日常を送る主人公。なるほどぴったりはまっている。

そのクールな昇を手玉にとるのが、3人の少年少女。特に、そのリーダー格ともいえる朝陽と昇の、ひりひりする頭脳戦、心理戦がこの映画の見せ場である。最近の日本映画では、出色のサスペンスだ。

「何をしたとしても14歳までは捕まらないよ。少年法で決まってるから」と言い放つ朝陽──。『リボルバーリリー』の好演が印象に残る羽村仁成は、本作でも、感情を内に秘めた演技。表面はよくできた秀才、その裏に冷血な顔をもつ複雑なキャラクターを見事に演じている。

岡田と羽村、その顔を半々に使ったポスター画像が、表裏一体ともいえる主人公ふたりを表現しているかのようで、面白い。

朝陽の母役で黒木華、実の父役で北村一輝、昇の妻役に松井玲奈、その従兄弟で刑事役に江口洋介と、脇役も主役級の顔ぶれが並び、映画に厚みをもたせている。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

【ぴあ水先案内から】

中川右介さん(作家、編集者
「……岡田将生が、あの端正な顔立ちで、ロボットのように無表情に完全犯罪を実行していく。彼の犯罪は美しく、見惚れてしまう……」

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