自動車教習所には、年齢や趣味趣向の異なる様々な人々が集まる。大学4年生の時に合宿タイプの教習所で免許を取得した安達香織さん(仮名・38歳)は、そこで知り合った亜美さん(仮名)という女性のことが強烈な印象に残っている。

コミュ力に長けたギャルが同窓に

第一印象からインパクト大でした。金髪で金のネックレス、ピンク×豹柄のジャージ姿。いかにもな“ヤンキーギャル”という感じの見た目をしていましたから」

 安達さんは、都会生まれで私立の小中高一貫校育ち。それまで接したことが無いキャラクターに圧倒された。

「確か1つか2つ年上だったので、当時24歳ぐらいだと思います。亜美さんは、とにかくコミュニケーションお化けみたいな人。免許合宿には、18歳から上は50代ぐらいの人まで参加していましたが、飲み会を1回挟んでしまえば、誰とでもタメ口で話すようになるくらいで

◆飲みまくるゆえ、本来の目的に支障が

 話自体も抜群に面白かった。

「資産家の男性と付き合った経験があったり、英語は全く話せないのにアメリカでヒッチハイク旅行をしたりと、若いのに人生経験が豊富でした。とにかく話が上手いので、合宿中は常に輪の中心にいましたよ」

 彼女が飲み会を仕切る様子は、まるでスナックのママのようだったという。

「姉御肌で、中年男性の人生相談に上から目線で乗ったりしていました。男性の中には彼女のファンもいて、みな亜美さんと話をしたくて飲み会に参加しているような感じで

 瞬く間に教習生のボスとなった亜美さんだが、本来の目的には支障が出ていた。

亜美さんは毎日、明け方になるまでお酒を飲んでいたので、日中はとにかく眠そう。講義中は良く寝ていましたし、居眠り運転をして、教官にめちゃくちゃ怒られたこともありましたね」

◆ものすごい早さで教習をクリアするように…

 仮免の時も落ち続けることになり、焦り始めた亜美さんだったが……。

「合宿には最長でも1ヶ月という期限がありました。これまでのペースを考えると期間内に卒業するのはもう無理じゃないかという状況になっていたんです

 その頃から亜美さんの行動に変化があった。

あれほど好きだった飲み会にあまり参加しなくなったんです。猛勉強でもしているのかと思っていたんですが、同部屋の人に聞いてみたら、このところ夜になるといなくなるとのことでした。日中はやっぱりだるそうにしているんですが、ものすごい早さで教習をクリアするようになったんです。それまではずっと私の方が先行していたんですが、追い抜かれてしまうほどでした。急な変化に驚くしかありませんでした」

 そんなある日、安達さんは気になる光景を目にすることになった。

「遅い時間に、亜美さんがとある教官と歩きながら話しているのを目にしたんです。それもすごく仲が良さそうに。教官に怒られているところばかり目にしていたので、意外に思いました。2人は、私用の車に乗り込むと、どこかに行ってしまいました

◆“異様なペース”の理由は、まさかの…

 亜美さんはその後しばらくして、合宿教習の卒業を迎えた。

「後半のペースは異様だったので、どうしてそんなに早く進められるようになったのか聞いてみることにしたんです。でも、なかなか教えてくれなくて。最後の飲み会でようやく教えてくれたんですが、『教官を手籠にした』というんです」

 運転についていつも怒られていた亜美さんが、『あの教官は経験なさすぎ』『アイツは早すぎる』と評価する側に回っていたのが面白かったという。

 その後も、連絡をとり続けており、亜美さんは実家の葬儀屋を継いで社長をしているそうだ。

<TEXT/ 和泉太郎>

【和泉太郎】
込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め

―[教習所の思い出]―


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