ピッチ内で差をつけるために、普段の生活に気を遣うことも、今や当たり前になってきたスポーツ界。近年、睡眠などとともに重要視されている食事だが、ひと昔前には、その一風変わったメニューで人々を驚かせた選手たちもいた。そこで今回は、選手たちが試合前に食べる“プレマッチミール”に関するエピソードを紹介する。

[写真]=Getty Images

◆■ジェイミー・ヴァーディ

 トップバッターに相応しいのはこの男だろう。現在もチャンピオンシップイングランド2部)のレスタープレーをしている37歳は、過去に、試合日はレッドブル3缶とオムレツエスプレッソを摂取すると明かし、多くの人の度肝を抜いた。栄養士がこのメニューに賛成するかは分からないが、ヴァーディはそれらを摂取するタイミングにもこだわりがあることを明かしている。2016年に発売した自伝の中で同選手は「土曜日の15時キックオフであれば、寝起きすぐに30秒くらいでレッドブルを1缶飲むんだ。朝食は食べずに、11時半にチーズとハムのオムレツを食べ、2缶目のレッドブルで流し込む。スタジアムに集合し、時間を潰している間、ダブルのエスプレッソを飲む。キックオフの1時間半前にドレッシングルームに入り、すぐに3缶目のレッドブルを飲む。でも、これはウォームアップに出るまでちびちび飲み続け、戻ってきたときのために残しておく」と綴っている。ヴァーディは2013-14シーズンからこのルーティーンを取り入れているといい、2015-16シーズンには24ゴールでリーグ優勝に大きく貢献。にわかに信じがたいが、しっかりと結果は出している。

◆■ポール・スコールズ

 マンチェスター・ユナイテッドレジェンドポール・スコールズ氏も、現役時代には、食べ物に関する変わったルーティーンがあったようだ。2019年にあるポッドキャストに出演したスコールズ氏は「ビーンズ・オン・トースト(ベイクドビーンズを載せたトースト)はいつも食べるようにしていた」とイギリスの伝統的なプレマッチミールを食べていたことを回想。しかし、続けて同氏は「それから、ロクム(コーンスターチなどを固めたトルコの伝統菓子)も食べていた。試合の前夜にね。ロクム2つと紅茶1杯を飲む。いつも3つ入りを買い、1つは残すんだ」と説明し、独特なこだわりを明かした。スコールズ氏はマンチェスター・Uで718試合に出場し、155ゴールを記録。イングランド代表でも66キャップを記録するなど、ロクム2つが同氏のピッチでのパフォーマンスを邪魔していなかったことは確かだろう。

◆■アンディキャロル

 現在はフランス2部のアミアンに所属するアンディキャロルは、豪快な食事メニューで先輩に怒られたことがあるようだ。キャロルニューカッスルのユース出身で、2006年にトップチームでデビューを果たした。現在は試合前に集合し、チームが一緒になって食事をするが、当時はそうではなかったため、なんとキャロルはホームゲームのときは、近所のパブで肉やヨークシャープディングを食べてからスタジアムに向かっていたという。同選手は「そんなある日、ケヴィン・ノーランが電話をかけてきて、『車が動かないから迎えに来てくれないか』と言ってきた。『どこにいる?』と聞かれたから『サンデーローストを食べているところです』と答えたら、彼は怒り狂って『ふざけているのか!?』と電話口で叫んでいた。僕は『もうずっとやっていることです』と言ったんだ」と衝撃のエピソードを披露した。キャロルはその後もニューカッスルで活躍し、3500万ポンド(当時のレートで約46億円)でリヴァプールへ。そこではプロとして節度ある行動を求められ、試合前の食事もパスタフルーツに変わったという。しかし“レッズ”では期待された活躍は見せられず。本人は最近のインタビューで「急激な変化に戸惑った」と当時を振り返った。

◆■パスカルグロス

 風変わりな食事をしていたのは、一昔前の選手だけではない。ブライトンに所属するドイツ代表MFパスカルグロスが風変わりなのは、その食べ合わせだ。グロスはインタビューでプレマッチミールとして「米、鶏肉、オリーブオイル、そしてウィービックス(イギリスのシリアル)」を食べていると明かし、話題を呼んだ。なお、これを聞いた元イングランド代表MFのジャーメイン・ジーナス氏は「おそらくジンクス的なものだと思う。たまたまウィービックスを口にした日にゴールやアシストを記録すれば、それがルーティーンになる」と予想。真相は分からないが、グロスブライトンで主力として活躍し、チームは昨シーズンのプレミアリーグで6位となり、クラブ史上初の欧州大会出場権を獲得。自身も昨年9月に32歳にしてドイツ代表初招集&デビューを果たすなど、うまくいっていることは疑いようがない。

◆■ガレス・ベイル

 グロスのプレマッチミールのことを聞いたジーナス氏が「私がこれまで見て、“なぜ”、“どうして”と驚いた唯一の食事」だと明かしたのは、ガレス・ベイル氏のものだという。ベイル氏とトッテナムでチームメイトだったジーナス氏は「彼はトースト5枚とベイクドビーンズを山盛り食べていた」とそのメニューを暴露。加えて、ジーナス氏は「私も一度試してみたが、自分には合わなかった」と挑戦してみたことも告白している。その後、トッテナムで大ブレイクしたベイル氏は、2013年夏に当時の世界最高額を更新する移籍金1億100万ユーロ(当時レートで約139億円)でレアル・マドリードへ移籍。公式戦通算256試合の出場で106ゴールを記録し、5度のチャンピオンズリーグ(CL)制覇、3度のラ・リーガ制覇などに貢献しており、ジーナス氏には合わなかった上記のメニューがベイル氏に合っていたことは間違いなさそうだ。

◆■ガリー・ネヴィル

 ここまでは一風変わったプレマッチミールを紹介してきたが、最後に、優等生だったガリー・ネヴィル氏のものも紹介しておこう。引退後はイギリスメディア『スカイスポーツ』で解説を務め、その分析力や語り口で人気のネヴィル氏は「試合がサウサンプトンでも、ウクライナでも、食事習慣は厳密に守っていた」と語るなど、高いプロ意識を持っていたようだ。そのルーティーンは試合前日から決まっていたといい、「前日は、午前8時にシリアルとオレンジジュース、正午に魚やじゃがいもや野菜、15時半にシリアルとトースト、19時にパスタスープ。エビと貝類は厳禁だ。21時15分に消灯する」というものだったという。そして「試合日は、朝8時にシリアルとオレンジジュース、そして正午にスタジアムでソースのかかったスパゲッティヨーグルト、ライビーナ(イギリスの清涼飲料水)を摂取する。マッシュポテトを食べることもあった」と徹底した管理を行っていたという。1992年のプロデビューから2011年の引退まで、マンチェスター・Uで公式戦600試合以上に出場し、キャプテンも務めた同氏だが、長い活躍の裏には、このような徹底した自己管理があったようだ。

(記事/Footmedia)

プレマッチミールが注目される選手たち [写真]=Getty Images