温暖化対策などの背景もあり化石燃料へのエネルギー依存を大きく見直し、急速に電気自動車にシフトしている自動車業界。電動化だけでなくデジタル化なども含めて変化し「“走るデジタル製品”となってきている」と語るメーカー上層部もいるほどだ。2026年以降に発表するモデルはすべて電気自動車だと発表したドイツの歴史ある自動車メーカー・アウディを例に、をご紹介したい。

参考:【写真】変革する自動車業界を「EV」と「アウディ」から考える

まさにいま、大変革期を迎える自動車業界

 新聞や専門誌など多くの媒体が「自動車業界は100年に1度の大変革期」と文字を躍らせている。100年に1度、というくらいだから、実際に100年前にも変革期はあった。100年前の移動手段である馬車から、内燃機関を載せた自動車へとシフトした流れだ。

 そして今回の変革期を自動車産業では「CASE」とも呼んでいる。CASEとはIoT化(Connect)、自動運転(Autonomous)、所有派からシェア派の増大(Shared&Services)、それまでの化石燃料から脱却する電気自動車(以下、EV)の普及(Electric)の頭文字を取った言葉だ。

100年前の変革期は、移動手段が馬車から自動車へとシフトした流れ。
最大 8 台のモバイル デバイスでインターネットを利用できるWi-Fi ホットスポット。
メーカーの個性を活かすEV作り

 この大きな変革期を迎える自動車産業だが、そんななかにあって個性を光らせるメーカーのひとつがドイツアウディだ。同ブランドの全輪駆動技術「クワトロ」はEVでも安定した走行を可能にし、近未来的なデザインはファンを魅了する。クルマは詳しくなくても、スキーのジャンプ台を登るCMでクワトロは知っているという方もいるはず。同ブランドはEVを強力に推し進め、2026年以降、発表する新型モデルはすべてEVとアナウンスするほか、車両のライフサイクルで発生するCO2の削減も積極的に行い、主力工場の脱炭素をいち早く実現している。これは日本国内の正規ディーラーも同様で、昨年にはアウディ浜松がカーボンフリーを達成している。

 元来、アウディは「技術による先進」をブランドポリシーに掲げるメーカー。それは創業時からの伝統で、創業者でもあるアウグスト・ホルヒは1899年にブランドを立ち上げた時から積極的にモータースポーツに参加し、今では多くのメーカーが考える「レースは技術の実験室」をいち早く取り入れていた。しかし彼は会社経営となると採算が合わない高性能車ばかりを作るため、自身の名を持つ会社を追い出されてしまったというエピソードも。これがなければいまごろ、アウディと呼ばれるブランドは誕生せず、ホルヒの名前を持つ自動車が走っているはずだ。会社を出た彼の新しい会社は商標などの問題で「ホルヒ」を使えず、ホルヒ(ドイツ語で「聞く」の意)のラテン語である「アウディ」になった。

 第一次大戦後の1932年アウディ、ホルヒ、DKW、ヴァンダラーの4社がまとまった、いわば連合艦隊的なブランドが今のアウディで、その4社を表すリングは幾多のモータースポーツを席巻したフォーリングのエンブレムになった。

アウディのブランドポリシーは「技術による先進」。
リニューアルされた「Audi浜松」は12台の最新モデルが展示可能な東海エリア最大級のショールームに。デジタル商談スペース「Customer Private Lounge」も導入された。
アウディ創業者のアウグスト・ホルヒ。
創業者のホルヒは1899年にブランドを立ち上げた時から積極的にモータースポーツに参加し、「レースは技術の実験室」をいち早く取り入れていた。
電動フラッグシップSUV『Q8』

 さて、同ブランドのEVはモデル名に『e-tron』の名称が付くことでも知られる。最初のe-tronは2009年にフランクフルトモーターショーで発表されたコンセプトカー。そして今回短時間ながら試乗が叶ったのはフラッグシップSUV『Q7』をクーペルックに仕上げたファッショナブルな『Q8 e-tron』。エクステリアはSUVの力強さと都市的な洗練された雰囲気がうまく同居するシルエットが特長。昨年の小変更ではバッテリー容量が大きく増え、50モデルで71kWhから95kWhへ、上級の55モデルでは95kWhから114kWhになった。この容量アップで一充電走行距離も延び、55モデルでは501km(WLTCモード)を誇る。また容量の増えたバッテリーに対応するように従来50kWだった対応する充電器が150kWの急速充電まで可能に。後出のプレミアムチャージアライアンス(PCA)も使えるので、ドライブルートをうまく設定すれば、往復1000km以上のクルマ旅も充電による時間のロスは最小限に済むはずだ。

 『Q8 e-tron』だが、クルマの3サイズはガソリンモデルの『Q8』よりも少しばかり小さい。それでも全長4915×全幅1935×全高1620(mm)、車重2600kgで日本の道路では大型車の部類に入る。大型車は鈍いような印象かもしれないが、その気になれば絶叫しそうな鋭い加速を披露してくれる。もちろんそんな加速中でも安定感は抜群で、安心して乗れるテーマーパークのアトラクションのような錯覚に陥る。そのように安定し過ぎている加速だがメーター確認は必須。おそらく一般道ではブレーキをかけなくてはならない速度になっているはずだ。

 ドライブモードは従来のエフィシエンシー、コンフォートダイナミック、インディビジュアルの他に新しく「オフロード」モードが加わった。SUVモデルとしての素性もあるクルマゆえ、全輪駆動方式、クワトロは未舗装路でも絶対的な操縦安定性につながる。またサスペンションも小変更を受けているといい、街中では硬めといわれるドイツ車の乗り心地かと思いきや、工事などでツギハギだらけの路面でも気になるような突き上げ感はなく快適だった。タイヤが拾うロードノイズも最小限で室内の静粛性能はさすがEVで、pp(ピアニッシモ:楽譜の強弱記号で「とても弱く」の意)で始まるクラシック音楽も楽しめる。

アウディ、ホルヒ、DKW、ヴァンダラーの4社を表すリングは幾多のモータースポーツを席巻したフォーリングのエンブレムになった。
今回試乗した電動フラッグシップSUV『Q8 e-tron』。
『Q8 e-tron』は大型車ながら安定感のある加速が可能。
エンジンスペース部分のフロントボンネット下は荷物スペースになっており、車内でゆったり過ごせる。
EV車は低重心で強固な構造

 このように力強い走りや静粛性がEVの魅力の一つだが、内燃機関搭載車と構造は大きく変わってくる。まず当たり前だがエンジンがない。エンジンは鉄やアルミの塊ゆえ衝突安全性を考慮するとフロントエンジンのクルマは前輪よりも前にクラッシュブルゾーンを作る必要がある。最近ではクルマの基本骨格がだいたい決まっているので、そのスペースとエンジンを除いた部分が車内スペースに。

 対してEVはそのスペースを必要以上に確保することがないので、車内を広く確保できるメリットがある。『Q8 e-tron』の場合はエンジンスペース部分のフロントボンネット下は60リッター容量の荷物スペースになっている。またアウディならばコンパクトSUV『Q4 e-tron』の後席空間は『Q7』とさほど変わらない。

 EVで一番の重量物はバッテリーになる。これを車体床下に収めることで重心が低くなる。この低重心は『Q8』で伝えるならば、障害物回避を想定したダブルレーンチェンジでもガソリンエンジンのそれよりも安定した回避が可能。またアウディでは車体下をフラットにし、規則的に凹みをつけている。これは乱暴な表現だが、ゴルフボールのディンプルと同じような役割で床下に流れる空気を整流化しクルマを安定させるもの。

 しかしEVにはデメリットも。バッテリーの衝突安全性を確保するために堅牢な構造とせざるをえず、車重が増えてしまう。するとタイヤの減りが若干早くなる傾向に。そして一番は充電時間の問題だ。

EV車は衝突安全性を考慮して、クルマの前輪にクラッシュブルゾーンが作られている。
アウディでは車体下をフラットにし、規則的に凹みをつけることで、床下に流れる空気を整流化し、クルマを安定させている。
インフラ整備が始まった今こそ

 その充電を考えるとEV利用のハードルが高くなりそうだが、アウディの考える充電は3つだとされる。ひとつは「基礎充電」。これは自宅やオフィスなど定期的に時間をかけて充電できるものでその多くは「普通充電」になる。次の経路地充電は、目的地へ向かう途中の充電で高速道路のSAや立ち寄った商業施設などの「急速充電」で、その時間は長くて1時間ほどのもの。またこの急速充電はブランドオーナーだけが使える付加価値を持たせるものが増えている。例えばアメリカのテスラ社のスーパーチャージなどがそうだ。

 アウディではポルシェ、VWとともに3ブランドのオーナーだけが使える150kW規格の急速充電ネットワークである「PCA」を整備。現在ではディーラーなど全国300カ所以上に90-150kWの急速充電器を用意している。最後は目的地充電と呼ばれるものでホテルやゴルフ場など数時間単位で滞在している間に充電する。余談だが充電器の数字はバッテリーに押し込む力で、例えば50kWhのバッテリーを積むクルマに5kW出力の充電器なら満充電まで10時間、50kW出力なら60分かかる。しかし150kW出力の充電器からチャージした場合、満充電に必要な時間はおよそ20分という計算だ。EV車の普及に関してはその充電時間や設備が足かせと言われている。しかし、メーカーが本腰を入れてインフラを整備し、そのハードルが下がり始めた2024年は、EV本格普及の「夜明け前」なのかもしれない。

アウディジャパン:https://www.audi.co.jp/jp/web/ja.html
アウディQ8 e-tron:https://www.audi.co.jp/jp/web/ja/models/q8-e-tron/audi-q8-e-tron.html
アウディジャパン問い合わせ:0120-598106

変革する自動車業界を「EV」と「アウディ」から考える