円安に左右される人々
円安に左右される人々

物価高が続く今、賃金動向が日本経済の明暗を分けそうだ。ところが直近の発表では、実質賃金は2年連続でマイナスを記録したという。大手企業を中心に広がる賃上げはどこまで波及しているのか? 徹底的な現場目線でその実態を調査した!

第2回は"円安直撃"による大幅な値動きに泣く人、笑う人たちを調査。為替レートに振り回される日々! 恩恵を受けた人ばかりではないようで......【みんなの給与明細 2024年春闘真っ盛りver. Part2】

*本特集に出てくる年収やボーナスは、額面の金額です。すべて個人の取材によるもので、職種や業界の平均値ではありません

■円安なのに海外部門の業績はイマイチ

・電機メーカー 人事(男/40代前半)

〈年収〉【額面】1100万円
〈冬のボーナス額〉190万円(前年比↑)
〈ベアは?〉あり

大手メーカーで人事労務周りを担当。一般的に見て給与は悪くないと思うが、グループ内の各社と比べるとやや少ないことに納得がいかない。

業績は比較的安定しているが、グループ会社に売り上げを依存しているところが気になる。海外部門も、円安の割には絶好調とまではいかない現状からすると、円高になったらどうなってしまうのか不安がある。なお、インフレ手当といえるかはさておき、昨年末に5万円の一時金が支給された。

営業部は部署内の飲み会をバンバンやっているようだが、うちの部ではほぼ行なわれていない。

■食材コストの高騰で利益を出すのに四苦八苦

・都内居酒屋 オーナー(男/40代半ば)

〈 年 収 〉【額面】520万円
〈冬のボーナス額〉なし
〈ベアは?〉なし

もともと大手飲食チェーンで働いていたが、独立して現在は創業12年目、12坪ほどの居酒屋を都内で経営。

家賃が共益費込みで18万円ほど。これに光熱費が毎月5万~6万円。そしてアルバイトの人件費が20万円。その他雑費を5万円とすると、固定費だけで軽く50万円ほどが飛んでいく。

一方、居酒屋の標準的な原価率は30%強と聞いたことがあるが、インフレなのでよほどうまくやらなければ無理。うちの場合、フードとドリンクを合わせてもどうしても40%を超えてしまう。つまり、月に100万円売り上げても、粗利は10万円程度なのだから世知辛い。

■お客さまは神様だけど、従業員も大切にしてほしい!

・大手小売業  法務(男/40代前半)

〈年収〉【額面】500万円
〈冬のボーナス額〉40万円(前年比は転職1年目のため不明)
〈ベアは?〉あり

法務の管理部門に勤務。契約書面の審査や作成、事故対応や店舗用不動産に関する各種相談、訴訟対応などが主な仕事。

毎日1時間程度の残業があり、一応その分の残業代も出ているが、時間数が少ないのですずめの涙程度。お金のためにもっと残業したいのが本音だが、直属の上司が「残業は無能の証明」という持論の持ち主ゆえ、しづらい。上司は管理職なので残業代なしとはいえ、土曜によく出勤しているのでちょっとモヤモヤする。

ベアはあったが、上げ幅としてはイマイチだと感じる。一方、会社は去年に続き過去最高益。自分は転職直後だったのでもらえなかったが、社員は今年も「決算賞与」を期待している。

小売業なので、円安や原油高は大いに影響がある。会社側は「インフレでもお客さまに選んでもらえるお店に」などと言うが、組合員は給与アップ希望者が多数だったのに対し、休みを増やすことでお茶を濁された。お客さま優先もいいが、従業員が軽視されているように思えてならない。

また、求人の募集要項には「テレワークあり」と書いてあったが、実際にはほとんどできず、雪が降った日でも「なんとか会社に出てこい」と言われたのには、ちょっとブラックなムードを感じた。働き方には大いに不満がある。

■本国から課される目標に対し、円安が大きな障壁に

・外資系ヘルスケア企業 法規制対応(男/40代後半)

〈年収〉【額面】2000万円
〈冬のボーナス額〉200万円(前年比→ 年1回春支給)
〈ベアは?〉なし

部下ふたりのマネジメントと現場仕事が主な業務で、立場上、部署の成果の責任を負わなければならない。外資系企業はどこも管理職になると業務量が爆増しがちで、月80時間の残業が常態化している。

ボーナスは業績や個人のパフォーマンスに連動して算出されるが、為替を織り込まずに目標が設定される。そのため、インフレなんかよりも円安がキツイ。米国本社をベースにすれば、円安により業績が目減りするのは当たり前。たとえ国内で昨年比の業績が数%成長しても、米国本社から見れば通貨安がマイナス30%近いため、日本の業績は減っていることになる。おかげで年々、目標を達成する見込みが厳しくなっていて、インセンティブにもつながらない。ボーナスが満額支給されることは当分ないと思われる。

また、中国やインドの成長に伴い、日本への投資が渋られるようになっていることも実感する。会社への不満は今のところないので、こうした円安によって人員が削減されたりして、次第に負担が増えていく現状は残念でならない。

ちなみに、飲み会などはほとんどなし。上級職になるほど時間的な余裕がなくなるのと、ハラスメントのリスクが面倒なので、事業部長クラスは同じ階級の人たちだけで飲んでいる。

■インフレに対応した福利厚生には満足

・製菓材料商社 営業事務(女/30代後半)

〈年収〉【額面】400万円
〈冬のボーナス額〉56万円(前年比↑)
〈ベアは?〉なし

営業事務、主に外出中の営業のサポートを担当。ホテル、ケーキ店、レストラン、工場、専門学校からの注文や問い合わせに対応し、見積書作成や企画書依頼などを行なっている。

ホテルとのやりとりはスムーズだが、年配夫婦が営む洋菓子店などからはいまだにファクスで注文が入るので煩わしい。ペーパーレス化がいっこうに進まないことには絶望するが、好きでやっている仕事なので辞めたいとは思わない。ただ、会社の体質が古く、産休・育休など女性のための制度がまったく整備されていないのはどうかと思う。

ベアはなかったが、その分福利厚生がアップグレードされた。具体的には、毎年会社から贈られる誕生日ケーキはかつて上限3000円だったのだが、2020年に3500円に上がり、今年2月には5000円になった。ケーキも年々値上がりしていたのでありがたい。

業績は好調で、昨年過去最高の売り上げをマーク。もともと不景気に強い業界で、円安に伴ってインバウンド需要が回復したのも良かった。

ただ、売り上げはあるのにスタッフが確保できずに閉店する得意先が多いのがこの業界の難点。スタッフを雇わずに運営できる小さな規模で再スタートする店舗も散見された。労働力不足はかなり深刻だ。

■原油高や円安で、市場全体が低迷中

・酒類商社 経営企画(女/20代後半)

〈年収〉【額面】550万円
〈冬のボーナス額〉75万円(前年比→)
〈ベアは?〉なし

もともとは営業担当だったが、現在は役員とふたりだけの部署で経営企画を担っている。例えば、会社の経営方針と現状とのギャップを埋めるために、どの価格帯の商品を売り伸ばしていくのか、データを基に経営陣に提案するような仕事が多い。

飲み会の類いが非常に多いのはこの業種ではやむなし。さすがに会社全体の飲み会はコロナ禍でなくなったが、チーム単位では頻繁に飲んでいる。嫌なときは断りやすいのでストレスはない。

もともと第一志望の会社で、初任給は悪くなかったが、昇給ペースが極めて遅いのが不満。正直、社内の人間関係にも飽きてきたので、そろそろ転職を検討し始めている。

とりあえず副業に精を出そうと、資格取得のために予備校に通う傍ら、他業種のSNS運用をバイトでやっている。時給制や月給制ではなく、宣伝したい案件ひとつにつき3万円もらうスタイル。通勤中にこなせるので割が良く感じるし、何より楽しいのでもう少し続けたい。

ちなみに、アルコール市場の規模は全体として低迷中。ノンアル市場が広がっていて、そこに進出する企業が増えているが、活気を取り戻すには至らない。ワインなどの輸入物は原油高や円安による打撃が大きい。

取材/井澤 梓 奥窪優木 友清 哲 西田哲郎 橋本愛喜 東田俊介 室越龍之介 文/友清 哲 イラスト/服部元信

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