今年4月からドライバーの労働時間に上限が設けられる。ドライバーの過重労働を軽減する目論見がある一方、賃金減少や離職、それに伴う物流の混乱が予想される。改革を前に、当事者は今何を思うのか? 現場の声を拾った。トラックドライバーを辞めた男性のインタビューも紹介する。

◆不倫や離婚は長期間家を空けるトラックドライバーあるある?

 2024年問題に関わらず、ドライバーの離職は後を絶たない。大野太郎さん(仮名・31歳)も4年前にドライバーを辞めた一人である。

「長距離トラックのドライバーとして働き始めたのが7年前。稼ぎたかったので振られた仕事は断りませんでした」

 4か月帰宅できないときもあり体調も崩しがちだったが、退職した原因はほかにある。「体は長時間労働に慣れるけど、生活面での犠牲が大きすぎる」と肩を落とす。

「僕が仕事で家を空けている隙に妻が浮気をしていたんです。結局、彼女とは離婚しましたが、貯金の半分を持っていかれました」

 勤めていた運送会社のドライバーは40〜60代がメイン。既婚者は従業員30人中10人に満たなかったという。

「聞けば、不倫や離婚は長期間家を空けるトラックドライバーあるあるだそう。僕の勤め先はなぜか前歯がないドライバーも多くて、やはり体にガタがくる仕事だと不安になりました」

◆トイレに行く時間すらなく…

 その上、さらなる悲劇が大野さんを襲った。

「当時はストレスでお腹の調子が悪かったのですが、輸送スケジュールがタイトで……。我慢できず荷待ち時間に草むらで野糞したら、警察に拘束されてしまったんです」

 この一件で大野さんの心は完全に折れてしまった。長時間労働の思わぬ弊害か。

◆休憩なしで積み荷作業。長時間労働が常態化

 奥田大貴さん(仮名・33歳)は、関東近郊にある運送会社に所属、農作物をメインに配送するドライバーだ。

「朝8時に出庫して生産地を巡って作物をピックアップし、18時ごろ市場に到着。本当は休憩を取る必要がありますが、市場でそのまま梱包・積み荷作業を行い、間髪入れず店舗に配送に向かいます」

 ときには、別の荷主の配走で24時間以上拘束された後、会社に戻ってから駐車場で仮眠をとって、すぐに次のルートにつくことも。

◆「月50万円は稼げているので不満はない」けど…

 そんな奥田さんの給与形態は、25万円の基本給に7万円のみなし残業代、そして歩合に応じて支払いが加算される仕組みだ。

「歩合といっても基準は不明。ただ、月50万円は稼げているので不満はありません。4月以降も働こうと思えば、いくらでも抜け道はありますよ。例えば、市場での梱包・積み荷作業も書類上は休憩となっていますが、実際には稼働していてそれが歩合に反映される。給料がどんぶり勘定な分、会社もドライバーの労働時間を簡単にごまかせます」

 運送業界は常に人手不足。マンパワーと荷物量が明らかに見合っていないと、奥田さんは指摘する。

「生鮮食品は鮮度が命。上限規制を守っていたら、冗談抜きで小売店の棚は傷んだ野菜だらけになりますよ」

 日本人の食卓は彼らの長時間労働によって成り立っていたのだ。

<取材・文/週刊SPA!編集部 写真/123RF PIXTA>

―[物流[2024年問題]の闇]―


大野太郎さん(仮名・31歳)