トップガン マーヴェリック』の原案者が製作総指揮、いまや世界的俳優となった真田広之がプロデュース、主演を務めるディズニープラスSTARのオリジナル・ドラマシリーズ「SHOGUN 将軍」が、本日より配信開始となった。

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本作は、1980年にアメリカで実写ドラマ化され、驚異的な視聴率をたたきだしたジェームズ・クラベルによるベストセラー小説「SHOGUN」を、ハリウッドの製作陣の手で新たにドラマ化。徳川家康三浦按針細川ガラシャら、歴史上の人物にインスパイアされた「関ヶ原の戦い」前夜を舞台に、陰謀と策略が渦巻く戦国の時代を、壮大かつ圧倒的な映像で描きだすスペクタクル・ドラマシリーズとなっている。

MOVIE WALKER PRESSでは、本作の魅力を発信する特集企画を展開。本稿では、一挙配信となった第1話と第2話を、ライターの有馬楽がレビューする。

※以降、ストーリーの核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。

絶体絶命から始まる、虎長と按針の物語

ジェームズ・クラベルの小説「将軍」の再映像化――これは歴史好きには嬉しい。1600年の関ヶ原の戦いという戦国クライマックスに至る道のりを、イギリス人漂流者の目から描いたストーリー。自由な精神を持つ西欧人をこの時代に放り込むことで、武家社会の現実もまた違った角度から切り取られるだろう。そんな楽しみを抱きながら、第1話に向かった。

時は1600年、難破したオランダ船が熱海沖に漂着。生存者の1人である英国人の舵手ジョン・ブラックソーン(コズモ・ジャーヴィス)は網代の領主によって捕らえられる。なにしろ、相手は言語の通じない日本人だ。西欧では礼儀であったことも、日本の武家社会では通用しないし、むしろ別種の礼儀を押し付けられる。『猿の惑星』のチャールトン・ヘストン(68)のように、どうすることもできずに自由を奪われ、痛めつけられるブラックソーン。彼もそうだし、一方の日本のサムライたちも、おたがいを“蛮人”と思っている。

捕らわれの身となっているのは、彼だけではない。大坂城では、もう1人の主人公、吉井虎永(真田)が軟禁状態に置かれていた。太閤亡きあとに国を治める五大老の1人だが、政略結婚で勢力の拡大を図ったと、石堂和成(平岳大)らほかの4人の大老に因縁をつけられ、裁定を待つ身。こちらもブラックソーンと同様に、明日をも知れぬ不確かな運命に置かれている。歴史に詳しい方なら、ピンとくるだろう。吉井虎永のモデルは徳川家康、石堂和成は石田三成。もちろん、太閤とは豊臣秀吉のことだ。

また、ブラックソーンは、ドラマの中で後に按針(航海士)という名で呼ばれるようになるが、家康に仕えたウィリアム・アダムス、すなわち三浦按針をモデルにしている。ブラックソーンの目的は、カトリック教徒に占有されている世界の航路を、プロテスタントの手で切り開くことだった。ところが、当時の日本にいる外国人といえば、カトリックの布教に当たるポルトガル人の宣教師ばかり。西欧で宗教戦争が吹き荒れているなか、彼らにとって、プロテスタントは異端であり、”敵”なのだ。この設定がまた、話をおもしろくする。

虎永とブラックソーンという、逆境の2人が運命に導かれて出会うまでが、この第1話のストーリー。その過程で、ブラックソーンを拘束した伊豆の領主で、虎永の配下、樫木藪重(浅野忠信)が絡んでくる。“死に魅せられている”というこの武将も、またいい味を出している。彼は言う“先の読めぬこの時世に、次はなにが起こる?”――太閤亡きあとの世はもはや太平ではなく、未来には戦の気配しかない。そんな時代を生きる者たちのサバイバルストーリーであることを、この第1話は宣言しているかのようだ。

■互いの思惑が交錯…曲者たちの駆け引きに痺れる

斬首や釜ゆでの刑などのバイオレントな描写もあるにはあるが、それもまた不安定な世相を象徴的に物語っているようだ。ともかく、ブラックソーンと虎永が面会するラストを観ると、すぐに第2話が観たくなる。というわけで、引き続き、第2話について語っていこう。

大坂城に連れて来られた按針こと、ブラックソーンは虎永と対面。これは言うまでもなく運命の出会いとなるのだが、按針はもう1人の人物と運命的に出会う。それが、のちに彼らの通訳を務めることになる鞠子(アンナ・サワイ)だ。カトリックを信仰としている鞠子は、この段階では按針をかなり警戒している様子。実際、カトリックの宣教師たちにとって、布教の邪魔になるこの異端者は目の上のたんこぶでしかない。

虎永が按針を呼び寄せたことには理由があった。五大老のうち2人はキリシタン大名。つまりカトリック教徒だ。そこにプロテスタントの按針を放り込むことで、石堂と彼らを分断させるという思惑だったのだ。具体的な策はこの段階ではまだ明かされないが、先々の見どころとなるのは間違いない。

さて、按針はどうやら、虎永に共鳴したようだ。威張りちらしている侍に小突かれ続けた彼は、日本人に対して反感を抱いている。が、思慮深く、異人であろうと高飛車に出ず、知識欲が旺盛でなんでも教わろうとする虎永のまっすぐな姿勢に感銘を受ける。按針が日本人に対して自発的に頭を下げるのは、虎永が2度目。1度目は第1話内、命がけで断崖を下り、異人を助けた藪重に対して。多くの日本人の目には蛮人と映る按針だが、サムライの精神に共鳴する資質を確かに持っているのだ。

ともかく、この第2話は、誰かが誰かと会う度に緊張が走る。虎永と按針の面会しかり、按針とポルトガル人とのギスギスしたやりとりや、そこに乗り込んでくる石堂との対面もしかり。虎永を陥れようとする石堂ら大老たちの評決の場も、石堂と藪重の対話もまたしかりだ。そればかりか、宣教師と商人というポルトガル人の間にも、虎永の側室たちの間にも軽い軋轢があるようだ。日本人も異人も男も女も、ひとつ判断を間違えれば、ひとつ言葉を間違えれば、命を落としかねない、そんな戦国の世を生きているのだ。按針は、キリシタンである五大老たちの企てにより、牢獄に放り込まれる。そこで出会ったポルトガル人は言う「この国では死刑が唯一の処罰」。ともかく、各人の思惑が複雑に絡み合い、せめぎ合う様子がはっきりと見えてきた。

第2話のクライマックスは、虎永の寝殿に女中を装って侵入した刺客との攻防。虎永は助太刀に入った按針と共闘する。それは、虎永と按針の今後の新たな関係性を示しているようだ。ますますこの先が楽しみになってくる。

■並々ならぬ想いで臨む真田広之や「ワイルド・スピード」俳優が出演

最後に、俳優についても少し触れておきたい。なにより語っておかねばならないのは、虎永役の真田広之。彼は本作ではプロデューサーを兼任しているが、『ラスト サムライ』(03)以後ハリウッド映画にも頻繁に出演。日本の正しい描写を心掛けているというその姿勢は日本の視聴者として心強い。真田が演じた虎永にはカリスマ性に加えて、知らなかったことを貪欲に吸収する学習意欲と、状況を的確に把握して策を練る知略を持っている。視聴する身としては、この2話だけで、虎永に魅了され、応援したくなるだろう。

「困難ないまの時代だからこそ、戦乱の世に不屈の精神で平和な世を築こうとした虎永のような人物像が求められているのではないかと感じた」と、真田は語る。2024年の日本で、本作を観ることは、そういう意味でも意義深い。私見だが、裏金問題で政界は乱れており、五人衆と呼ばれる告発された政治家たちが五大老と重なっているようにも思えた。あいにく、現代の五人衆には虎永のような存在はいないようだが。

虎永の配下である策士、藪重に扮した浅野もハリウッド作品の経験は豊富。虎永に忠誠を誓ってはいるが、小賢しい部分もあり、なんともいえないエグみを醸しだす。今後のキーパーソンになるはずなので、この先も注目したい。また、鞠子役のサワイは『ワイルド・スピードジェットブレイク』(20)に出演した女優兼ダンサー。本作では決して笑みを漏らさないガードの堅さで、戦国の世を生き抜こうとする女性になりきった。

そして、虎永と並ぶもう1人の主人公、按針を演じた米国人俳優ジャーヴィスは、異文化の中でのサバイバルを熱演してみせる。按針と鞠子は、この後に惹かれ合う仲となると思われる。つまり最初の2話で提示された駆け引きのサスペンスに、今後は厳しいしきたりの中での禁断のラブストーリーが絡んでくるはず。この先が、ますます楽しみになる。

文/有馬楽

真田広之プロデュース&主演「SHOGUN 将軍」がついに配信開始!一挙配信となった初回、第2話をレビュー/[c] 2024 Disney and its related entities