戦隊大失格
戦隊大失格』(講談社

“正義が勝つ”“正義が正しい”なんて誰が決めた?

 人類への侵略を開始した悪の怪人軍団、これに正義の大戦隊“竜神戦隊ドラゴンキーパー”が立ち向かう。怪人たちは、毎週日曜日に現れ、敗れ、散り続けていた……。この物語は単なる悪vs.正義の戦いを描いたものではない。主人公は、怪人側の下っぱ戦闘員・D(ディー)であった。

 シリーズ累計2,000万部突破の言わずと知れた超人気作品『五等分の花嫁』(講談社)の春場ねぎ氏が世に放つ、予想不可能な異色ヒーローコミックが『戦隊大失格』(講談社)だ。2024年にTVアニメが放送予定で、監督は『TIGER & BUNNY』や『いぬやしき』のさとうけいいち氏、アニメーション制作は『アークナイツ』シリーズのYostar Picturesが手掛ける。

 毎週「週刊少年マガジン」本誌で追いかけてきたが、個人的にはスケールの大きい世界観や激しいバトルシーンの映像化が楽しみで仕方がない。本稿はこのアニメの予習になるように、物語の序盤のストーリーとテーマを中心に書いていく。

新感覚戦隊ヒーローコミックの主人公は“悪役”下っぱ戦闘員

 13年前、突如悪の怪人軍団が日本上空に巨大浮遊城を率いて現れた。そのときから彼ら怪人たちと大戦隊“竜神戦隊ドラゴンキーパー”との戦いが始まり、今もなお続いていた。

 ただ、実は怪人幹部はすでに壊滅して浮遊城は陥落、密かに休戦協定が結ばれていた。その条件は「毎週末、地上侵攻し敗れること」であった。生き残りの下っぱ戦闘員たちはこれを守り、やらせの戦いを繰りかえしている。つまりこの戦いは茶番劇であった。

 見せかけのガチバトル“日曜決戦”は大人気で、観客が押し寄せTV中継も行われていた。そんななか、戦闘員たちは大戦隊に隷従し、日曜決戦への協力を惜しまない。彼らは交代で怪人幹部に擬態して大戦隊に挑み、倒されていた。彼らは通常の兵器では死なないため、リアルなやらせバトルを永遠に続けることができた。

 この敗け続ける(怪)人生を受け入れられない、一人の戦闘員がいた。Dと呼ばれるこの戦闘員は我慢の限界だった。自分がやられ役であり続けることに。そして「悪者ですらない」ことに。

 彼は仲間たちのもとを離れ地上に降り、倒すべき敵である大戦隊に潜入すると決意する。まずDは人間に擬態し大戦隊の入隊試験を受ける。その会場で話すようになったのが、イエローキーパーの部隊でNo.2の位階である従一位の錫切夢子(すずきりゆめこ)。彼女は一瞬でDの正体を見抜き、こう言うのだ。

“手を組もう
私とキミで
それでさ
一 緒 に 大 戦 隊 を ぶ っ 潰 そ う よ ”

 彼女がなぜ大戦隊に敵対するのか。その理由ははぐらさかれて要領を得ない。さらにDは、大戦隊の隊員候補生である桜間日々輝(さくらひびき)とも知り合う。桜間は彼が大戦隊を倒そうとしている怪人戦闘員だと知っても、なぜか親身になって共闘を申し出てきた。張り切って地上に来たDは、錫切と桜間に持ち掛けられた想像を超えた展開に戸惑う。ただ彼らの情報提供や協力により、大戦隊の懐へ飛び込むことに成功するのだ。錫切にも桜間にもそれぞれ思惑があるのだが、すぐには明らかにならない。

 物語はこの戦闘員Dを中心に、多くの謎と伏線と複雑な設定をはらんで進んでいくのだ。

大戦隊と怪人と戦闘員、登場人物それぞれの“正義”

 Dはシンプルにドラゴンキーパーを倒そうとしている。悪役として正しい、つまり悪の正義を標榜している。人類にとっては当然受け入れがたいが、これは前述の通りドラゴンキーパーが隷従を強いているための反発で、読者は正しいかそうでないかを判断できるのではないだろうか。

 本作は「正義の味方」「悪」という立場をそれぞれの役として配置し、そのうえで品行方正&清廉潔白なはずのドラゴンキーパーの裏の顔や、下っぱの戦闘員たちの人間味を描いている。多くの人は読んでいくと、正義と悪がねじれるような印象をもつかもしれないし、混乱するかもしれない。

 正義が正しいとは限らない。掲げられた正義が、正しくないと判断されることは往々にしてあるからだ。当たり前だが、それぞれの立場に正義がある。それらを他者が正しいかそうでないか決めるのは難しいはずだ。私たちは知っている。正義がたった一つで絶対的な真理であれば、戦争は要らないことを。

戦隊大失格』のキャラクターたちは皆、世界を、組織を、仲間を正したいと考え、自分が信じる正義を掲げて戦っている。大戦隊には怪人との戦いのなかで肉親や自分の大事なものを失った者たちがいるのだ。錫切や桜間をはじめとした彼ら隊員たちがどんな事情を抱え、どんな正義のもとに行動しているのかに注目してみてほしい。

 ここで触れておきたいのがヒロインたちだ。ラブコメ要素はほぼ無いものの、錫切をはじめ、グリーンキーパーの部隊のNo.2である翡翠かのん、正隊員を目指す候補生だった薄久保天使(うすくぼ えんじぇる)ら、戦う彼女たちは魅力的で、さすが春場先生だと感じる。

 あなたは登場人物の誰かの正義に共感できるだろうか。ひょっとすると誰にも共感できないかもしれない。本稿のライターは少なくとも、生きようと必死にあがき、たくさん悩んで頭をつかい、強大すぎる敵に立ち向かうDは、真っ当な少年マンガの主人公でかっこ良いと感じた。彼が、シリアスでカオスな状況を乗り越えて勝利を掴めるのか、そして戦いの先に何を求めているのか。まだまだ予測不可能な物語に、ぜひあなたもハマってみてもらいたい。

文=古林恭

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