物忘れが多いと「認知症では?」「病気かな?」と不安がよぎるのはよくあることです。実は物忘れには2種類あり、気をつけるべきなのは「思い出せない」ときではなく「覚えていない」ときだといいます。本記事では和田秀樹氏の著書『老化恐怖症』(小学館)から一部抜粋し、気になる物忘れの詳細について解説します。

「比較的新しいこと」を覚えていないのは要注意

実は「物忘れ」には2種類あり、「人の名前が出てこない」などの〝思い出せない〞物忘れは医学用語で「想起障害」といいます。この場合、周囲に「○○でしょ」と指摘された時に「ああ、そうだった」と思い出せることがほとんどです。

しかし、「思い出せない」想起障害ではなく、たとえば「今日は何月何日だっけ」「昨日の晩御飯が思い出せない」などの比較的新しいことを覚えていない「入力障害型」の物忘れには要注意です。

その原因は大きく分けて3つあります。

1つが、やはり認知症などの病気が原因の場合です。ただ、若年性認知症の罹患率は50代は1万人に8人と非常に少ない。病気が原因の物忘れは、他にも甲状腺機能低下症(身体の新陳代謝を盛んにするなどの働きをする甲状腺ホルモンの血中濃度が低下して起こる。その症状の一つに、記憶障害がある)などがあります。

2つ目に、100人に3人くらいの罹患率とされる「うつ病」が考えられます。記憶力が落ちたことに加えて、「食欲が低下した」「就寝中に何度も目が覚める」などの症状があれば、うつ病の可能性があると考えられるので、心療内科や精神科を受診することをお勧めします。

50代など中高年の「うつ病」の場合、脳内の神経伝達物質の一つである「セロトニン」の不足が大きな要因と考えられています。「うつ病」の原因の一つとして、神経細胞や筋細胞の間に形成される「シナプス」という接合部での、神経伝達物質の受け渡しがスムーズに行えなくなる状態が指摘されています。セロトニンの不足により、神経伝達がうまく働かず、気分が落ち込んだり、記憶力が低下するなどの「うつ」症状が出るとされています。

そうした「うつ」の予防には、セロトニンが減らないような食生活が効果的な場合があります。たとえば、体内でセロトニンの原料となるアミノ酸「トリプトファン」が豊富に含まれる肉類や大豆製品、乳製品などを摂取すること。トリプトファンは体内では作られないため、食物から摂取するしかありません。

「男性ホルモン低下」の影響による物忘れも

50代以降の「入力障害型」の物忘れの原因として3つ目に考えられるのが、男性ホルモンの低下です。他の症状として「やる気がなくなってきた」「筋肉が落ちて脂肪が目立つようになった」などの症状があれば、男性ホルモン(テストステロン)が低下している可能性が高いでしょう。

個人差はありますが、一般的にテストステロンの本格的な減少は40代半ばから始まります。思春期の頃には、精巣で作られるテストステロンが働いて髭ひげなどの体毛が生え、筋肉や骨ががっしりとして「大人の男」の体に変わりますが、それ以降もテストステロンは性機能や筋肉・骨の形成、脂質代謝に関わり、血管の健康を保つ機能や造血機能など、様々な作用があります。

テストステロンは脳にも直接働き、意欲を高めるほか、判断力や記憶力などの認知機能を高める作用もあります。逆にそれが減少すると、筋力低下や勃起障害、頻尿などの身体症状に加えて、集中力の低下や無気力、抑うつ、不眠、記憶力低下、性欲減退などが起こりやすくなります。

テストステロンの減少は脳内で記憶の入力に関わる神経伝達物質アセチルコリンの分泌も低下させることがわかっています。

もし気になる場合は、医療機関で血液検査を受けることをお勧めします。その結果、血中のテストステロン値が一定以下になっているようであれば、保険診療でホルモン補充療法を受けることができます。

最近は泌尿器科やメンズヘルス外来など、男性向けにホルモン治療を実施する医療機関が増えてきているので、相談してみるといいでしょう。記憶力の改善はもちろん、意欲も高まって元気になるなど、男性ホルモン補充療法のメリットは大きいと言えます。

和田 秀樹

精神科医

※本記事は『老化恐怖症』(小学館)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。

(※写真はイメージです/PIXTA)