物価高が続く今、賃金動向が日本経済の明暗を分けそうだ。ところが直近の発表では、実質賃金は2年連続でマイナスを記録したという。大手企業を中心に広がる賃上げはどこまで波及しているのか? 徹底的な現場目線でその実態を調査した!

第3回は働き方改革、何それおいしいの?......という激務な業界を調査。36協定フル無視なんて当たり前! 時代に逆行する働きマンたちの実像は?【みんなの給与明細 2024年春闘真っ盛りver. Part3】

*本特集に出てくる年収やボーナスは、額面の金額です。すべて個人の取材によるもので、職種や業界の平均値ではありません

■国会会期中はいっそうブラックな職場に

・官僚 総合職(男/20代半ば)

〈年収〉【額面】350万円
〈冬のボーナス額〉35万円(前年比は1年目のため不明)
〈ベアは?〉なし

某省庁の新人。総合職の初年度は窓口業務を担当し、どの先輩に仕事を振るか差配をする。

残業代はみなしゼロだが、手当は安い。例えば6月の残業時間が33時間。これで手当が6万円。これに嫌気が差して、すでに辞めた同期がひとりいる。

国会期間中は対応業務があまりにも膨大で、業務時間外のメールを返しそびれて上司に叱責されたことも。タイムカードを切った後にも働いてることが多々あるのはあしき習慣。国会会期中は、退勤後に仕事が降ってくるのも日常茶飯事

月に1回飲み会があるのだが、必ず終電までカラオケにつき合わされてつらい。

■世間の風当たりの強さを感じる日々

・NHK 地方局ディレクター(男/40代前半)

〈年収〉【額面】1200万円
〈冬のボーナス額〉150万円(前年比→)
〈ベアは?〉なし

情報番組を担当している。もともとドキュメンタリーを作りたくて入社したが、断念。待遇も悪くなく、仕事に対する不満は特にないが、管理職の人たちはあまり仕事をしていないことも多く、受信料をいただいている立場で何やっているのかと思わなくもない。

NHK職員を見る世間の目が年々厳しくなっているのを感じる。特に地方に住んでいると周囲の目が気になり、常に襟を正しておかなければならず、息が詰まる。

労働時間は長め。たいてい月60時間以上の残業が発生するが、残業代がつくのは50時間まで。給与の半分は残業代が占めているのが実態。

■中国企業からの引き抜きにも心は揺るがず

ソニー 営業(男/40代前半)

〈年収〉【額面】1460万円
〈冬のボーナス額〉220万円(前年比↑)
〈ベアは?〉あり

マーケティングや販促企画などを担当。働き方に関しては裁量労働制だが、自分の部署は月80~90時間残業しなければとても仕事がこなせない。

年収に占めるボーナスの割合が3割以上であることは不安要素。業績や見通しが悪化すれば、年収が激減してしまう可能性もある。しかし幸い、今のところ業績は順調。15年ほど前に一度、潰れるかもと思った時期もあったが、年齢的に定年まで逃げ切れそう。

転職願望もなし。少し前に中国系の電機メーカーから年収3000万円で引き抜きの誘いが来たこともあるが、終身雇用じゃないのでまるで心は動かなかった。

■原動力はボーナスとミーハー心

・PR会社 営業(男/20代後半)

〈年収〉【額面】900万円
〈冬のボーナス額〉なし(転職1年目のため不明)
〈ベアは?〉なし

マスコミにクライアントのネタを持っていく仕事。もともとミーハーなので、テレビ局に出入りしたり、芸能人と仕事できたりするのはテンションが上がる。また、自分が関わった商品が世間で話題になるのも喜びのひとつ。

ただ、常時5、6件の事案が並走しているため、ひと息つくタイミングがほぼないのが難点。毎日やることが山積みで、メディアの集客には終わりがない。イベント当日が近づくと終電帰りは当たり前。テレビ局の都合に振り回されて有給休暇返上もしばしば。

ただ、大型案件を取ってくると多少のボーナスや給与アップがある。

■勤怠にうるさい環境で、サービス残業を強いられる

・Webメディア 営業(男/30代前半)

〈年収〉【額面】480万円
〈冬のボーナス額〉なし
〈ベアは?〉なし

企業のIR情報を掲載するメディアで、営業を担当。先日、勤務先が上場企業に買収されたが、待遇は変わらず。むしろコンプライアンスの関係で稟議や勤怠などの社内手続きが増えたり、業績に対する目標が厳しくなったりとマイナスが目立つ。

会社側は勤怠にとてもうるさいが、そもそも業務量が多く、顧客から朝でも夜中でも連絡が来るので、残業量を減らすのは現実的に不可能な状況。本来はみなし残業40時間を超えると残業代が支払われるはずだが、サービス残業にならざるをえない。

こんな待遇は大いに不満で、現在、転職を検討中。

■業界ひとり勝ちだが、月の残業は150時間

・医療系出版社 編集(男/30代後半)

〈年収〉【額面】650万円
〈冬のボーナス額〉50万円(前年比↑)
〈ベアは?〉なし

医師国家試験向けの参考書や、模試の作製を担う出版社。コロナ禍にうまく立ち回ったおかげで、業績は過去最高。同業他社はどこもほぼ死に体で、新しいものを生み出さず過去の遺産を食い潰すだけの状態に陥っているため、ひとり勝ちの状態に近い。

現状、業務内容に不満はないものの、トップの意思決定の遅さと、決定後の変更が相次ぐことは不満。それでも自分は一度辞めた後に出戻りしたばかりなので、転職は考えていない。

残業時間は通常月で50時間ほど、繁忙期になると150時間に達するが、編集者という仕事柄、仕方がないと腹をくくっている。

取材/井澤 梓 奥窪優木 友清 哲 西田哲郎 橋本愛喜 東田俊介 室越龍之介 文/友清 哲 イラスト/服部元信

仕事に追われる人々