女子SPA!で2024年1月に公開された記事のなかから、ランキングトップ10入りした記事を紹介します。(初公開日は2024年1月20日 記事は取材時の状況)


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 昨年末の『週刊文春』(2023年12月27日発売号)による松本人志の性加害疑惑報道。所属事務所は報道を事実無根だとし、松本はさまざまな記事と対峙、裁判に注力するため活動休止すると発表しています。




 この件を皮切りに溢れ出した松本人志についての数多くの言説。そのなかで、映画やドラマなどのエンタメ解説で人気の東京大学法学部卒業の芸人・大島育宙さん(XXCLUB)が自身のYouTubeチャンネルで持論を展開し注目が集まっています。


 前回記事『松本人志が“異常な権力”を築くに至った背景。島田紳助引退と「巨大化願望」』では、松本人志がプレイヤーとしても、賞レース審査員や『ドキュメンタル』などのゲームメーカーとしても権力・権威の強大化してきた歴史を踏まえるべき必要について語ってもらいました。


(以下、大島さんの許可を得て大島育宙【エンタメ解説・映画ドラマ考察】で公開の動画『松本人志さんは〇〇の被害者です【切り抜き禁止】』から構成して前後編で構成した後編になります)


◆『放送室』の終了と『ワイドナショー』の始まり
 どんどん巨大化していった島田紳助の退場とともに、『大日本人』松本人志巨大化していった。しかし、その巨大化に本人は無自覚で、ここはもう僕の中の妄想文学ですけど、本人は自分のパワーの強大化・権力化に関しては無自覚でおびえている中で、肉体はデカくしないと不安だっていうことを考えると、非常に悲劇的だなとも思うわけです。


 これだけなら良かったんですが、別のファクターがあります。2009年にラジオ番組『放送室』(TOKYO FM)が終了したこと、そして2013年に『ワイドナショー』(フジテレビ)が始まったことですね。



『放送室チャンネル 』ポッドキャスト on Audible



 ダウンタウンの幼馴染で放送作家の高須光聖さんと松本さんが2人で喋っているラジオ『放送室』が非常に人気で、僕も中学生ぐらいの時からずっと聞いてましたけれども、なんと 2009年に終わってしまうんですよね。これは結構ショックだったんですけど、リスナーとしてショックだったという以上に、松本さんの素(す)がかいま見える場所がこれで完全になくなったということがあります。


 それで結果的に『放送室』と入れ替わるようにして彼が手に入れたものは何かというと、『リンカーン』(TBS)をきっかけに始めたTwitter(現X)と、『ワイドナショー』なんですよね。


◆『ワイドナショー』でニュースをバラエティと同じやり方で対応
ワイドナショー』ではいろんなニュースが飛び込んできて、それに対して『ダウンタウンDX』などのトークバラエティのように返さなきゃいけないと周りも圧をかけているでしょうし、本人も思い込んでいるというところで、バラエティ的な雑談の中で私生活の話をするのと同じやり口で、世の中に実際に存在する被害者や亡くなった人、事故、事件、権力などをいじらなければいけないと。


 その勉強の準備っていうのはまったく間に合っていない状態のままバラエティと同じやり方でやってしまった。



(画像:松本人志出演時の『ワイドナショー』公式サイトより)



 Twitterを手に入れたっていうこともそうですけど、あまり向いてないこともどんどんやらされるようになった、というのが権力化、権威化の辛い部分でもありまして。


◆対等に話せる相手との場、ラジオがなくなった
 僕の認識でいうとラジオ『放送室』の終了は本人としても結構苦しい部分だったのではないかなと思います。



松本 人志 高須 光聖『放送室 その三』TOKYO FM出版



 高須さんがどんな人かは知らないですが、松本さんと対等に話せるところがやっぱりすごくて、「いや。自分それは変やで」と対立した意見を言える関係性だからこそ、松本さんが本当に思ってること、素の部分がわかった。


 それがある種のガス抜きにもなっていたと思うし、否定されるっていう体験でもあったと思うんですけど、なくなっちゃったんですよね。


裸の王様になる状況が出来上がってしまった
 これは別に松本さんを擁護していることではまったくないです。けれども、ある意味彼にとって、1人の人間としては不幸な状況っていうのは、成長できない状況、裸の王様になる状況が完全に出来上がってしまっていたことです。



HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル シーズン1』よしもとミュージックエンタテインメント



 それで、勉強をするチャンスやモチベーションがまったく作られようがない状況があり、どんどん権力化、権威化していく。


 そして自分でもその権力に気づけない状況ができたというのは、非常にあり得ることなんじゃないかなと考察しております。“だからといって”という話も最後にさせてください。


◆本人が徹底して不勉強を貫こうとしている
 これは半分冗談ですけど、“肉体巨大化願望”っていうのが自分の権力の無自覚性だと思う。自身の権力の巨大化と、勉強しなきゃっていう意識がないっていうことは直接関連してると思っていて、自分が権力を持った上でも勉強する人はするんですよね。



『福岡人志、~松本×黒瀬アドリブドライブ~ 第1弾 本気の福岡愛が満載』よしもとミュージックエンタテインメント



 報道されていた“性的な献上”をしてくる後輩がいるという構造も、別に松本さんが発明したものではないと思うんですよ。昔もあったものだと思いますし、これはお笑い芸人さんに限ったことではなくて、古い体質の会社や、ビジネスの世界、また反社会的な世界とかだったらあることだと思うんですよね。


 ただそこに乗らない人もいるんだよね。そこに乗っても、どこかでヤバいと気づいて降りる人もいる。降りた上で反省してる人がいるんですよね。


 一方で、本人の言い分としては週刊誌に“大げさに書かれた”という風に思っているのかもしれない。大げさに報道されて不当に叩かれている自分には、これからやろうとしている実験のアイデアもいろいろあったのに、それをやめさせられて不本意だということで反論したくなる気持ちもあると思うんですけど、まったく同じ状況でも勉強する人はするんですよ。というか、ほとんどの人はしてるんですよね。


◆“勉強しなくてもいい”という世界観を作ってしまった
 ですが、松本さんのSNSの使い方は近年のスタンダードからしても完全にアウトなので、本当に不勉強もいい加減にしてくれよと。松本さんのスマホを誰かが没収しなきゃだめですよと。


 自分が不当に扱われているとしても、センシティブに扱わなければいけない問題に対して、SNSで「闘いまーす」と投稿したり、ファイティングポーズを取ったりすることがダメだと、誰も教えてくれない裸の王様になったということに関しては、本人が徹底して不勉強を貫こうとしている人なので、「お笑い」以外勉強するつもりがないっていうことだと思うんですよね。



日経エンタテインメント!『大日本人アート&シナリオブック』日経BP



 これはもう本当に言われたくないと思いますけど、松本人志さんの監督映画を見てきてる自分としては、映画についても勉強する気が本当にないんだなっていうことは本当につねづね思っていたところです。“勉強しなくてもいい”という世界観を作ってしまった人でもあると思うんですよね。


 松本さんの、本当に不幸な部分もあるし、不勉強な部分もあって、それを両方語らないことには今回の現象を語ることにはならないんじゃないかと思っております。これは常々言いたかったし、それを語るタイミングに来ているという話でございました。


<文/大島育宙 構成/るしやま>


【大島育宙】1992年生。東京大学法学部卒業。テレビ、ラジオ、YouTube、Podcastでエンタメ時評を展開する。2017年、お笑いコンビ「XXCLUB(チョメチョメクラブ)」でデビュー。文化放送「おいでよ!クリエイティ部」、フジテレビ「週刊フジテレビ批評」にコメンテーターとしてレギュラー出演中。Eテレ太田光のつぶやき英語」では毎週映画監督などへの英語インタビューを担当。「5時に夢中!」「バラいろダンディ」他にコメンテーターとして不定期出演。



(画像:松本人志 Xより)