全国にある労働相談窓口では、職場での嫌がらせ、いじめについての相談が急増しています。本記事では、中央大学法学部教授である遠藤研一郎氏の著書『はじめまして、法学 第2版 身近なのに知らなすぎる「これって法的にどうなの?」』(株式会社ウェッジ)より、職場におけるハラスメントや差別に関する法律について解説します。

職場でのハラスメントはどんな罪に問われるか

「〇〇〇ハラスメント」という言葉が、私たちの社会に定着して久しいです。ハラスメントとは、嫌がらせ、いじめの意味です。労働関係だと、セクハラ(セクシュアルハラスメント)とパワハラ(パワーハラスメント)が中心でしょうか。

労働者の尊厳や名誉感情を傷つける行為が、後を絶ちません。全国にある労働相談窓口では、社内での嫌がらせ、いじめについての相談が急増しています。

厚生労働省における「令和3年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によれば、総合労働相談件数(全国の都道府県労働局及び労働基準監督署に相談コーナーが設置されています)は、14年連続で100万件を超えており、民事上の個別労働紛争の相談内容別の件数は、「いじめ・嫌がらせ」が10年連続トップとなっています。

職場におけるセクシュアルハラスメントとは、職場において、労働者の意に反する性的な言動が行われ、

1.それを拒否したことで解雇、降格、減給などの不利益を受けること(対価型セクシュアルハラスメント)

2.職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に大きな悪影響が生じること(環境型セクシュアルハラスメント)

などをいいます(男女雇用機会均等法11条1項※1)。

事業主、上司、同僚に限らず、取引先、顧客、患者、学校における生徒などもセクシュアルハラスメントの行為者になり得るものであり、男性も女性も行為者にも被害者にもなり得るほか、異性に対するものだけではなく、同性に対するものも該当します。また、日常的に働いている場所だけではなく、出張先、取引先、顧客の自宅、取材先、業務で使用する車の中なども職場に含まれます。

他方、職場におけるパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景にして、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させることをいいます。

典型的なものとしては、

1.身体的な攻撃(暴行・傷害)

2.精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)

3.人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)

4.過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)

5.過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)

6.個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

などが挙げられます。

ハラスメントは、時として、刑事上の犯罪行為に該当する場合もあります。セクハラの場合は、強制性交罪(刑法177条※2)や強制わいせつ罪(刑法176条※3)、傷害罪(刑法204条※4)や名誉毀損罪(刑法230条1項※5)に問われることもあります。

パワハラの場合は、身体的な攻撃があるときは、傷害罪(刑法204条)や暴行罪(刑法208条※6)、侮辱やひどい暴言など精神的な攻撃があるときは名誉毀損罪(刑法230条1項)に問われることがあります。

また、民事上の責任も課されます。会社は、セクハラやパワハラによって従業員のプライバシーや人格が侵害されないように職場の環境を整備する義務を負っています(男女雇用機会均等法など)。損害賠償責任が加害者に課されるだけではなく、会社にも課されることもあります(使用者責任。民法715条※7)。

※1:【男女雇用機会均等法11条】①事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

※2:【刑法177条】13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

※3:【刑法176条】13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

※4:【刑法204条】人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

※5:【刑法230条】①公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。(後略)

※6:【刑法208条】暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

※7:【民法715条】①ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。(後略)

外国人労働者が日本の未来を支える?

現在、日本では、たくさんの外国人が働いています。外国人が日本で働く場合、原則として、出入国管理及び難民認定法(いわゆる、入管法)によって定められる職種に合った在留資格を取得しなければなりません。その在留資格で認められていない職種で働くことや、在留期間が切れている外国人の就労は、不法就労となります。

ところで、日本の労働人口は、労働人口の減少に伴い、将来、不足することが予想されています。そのような中、労働力として、外国人を積極的に受け入れることについての議論がなされています。入管法における在留資格を、今まで以上に緩和するのです。

外国人労働者を増やすことによって、人手不足を理由として倒産する企業を救うことができるかもしれません。いわゆる「デカセギ」ではなく、長期に日本に在留することによって、外国人が将来の日本の産業や経済を支える人材として活躍する可能性もあります。

しかし、外国人と日本人が共生できるのか不安視する声も聞かれます。また、これが移民の受け入れの増加につながりかねないという反対論も少なくありません。

さらに、今までも法を潜脱して、過酷な労働を外国人に強いてきたブラック企業が、少なからず存在しました。外国人の受け入れの拡大は、そのようなブラックな企業を延命させることにもつながりかねないとの指摘もできます。

将来の労働力の一部を外国人に頼るべきか、大きな政策上の決断といえましょう。ただし、もし積極的に受け入れるのであれば、今まで以上に、外国人が日本で労働できる環境を社会が整えなければなりません。

日本で働く限り、日本人、外国人を問わず、すべての労働者に労働基準法や労働契約法が適用されます。また、労働者の安全や健康を守る法令も、国籍に関係はありません。健康保険や厚生年金保険、雇用保険、労災保険も、外国人も同様に対象となるものです。

遠藤 研一郎

中央大学法学部

教授