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(写真:hirost/PIXTA)

年齢を重ねたぶんだけ増える処方薬。だが、飲む薬の種類が多いほど副作用が増幅されることはあまり知られていない。その物忘れ、ひょっとして薬の影響かもーー。

高齢者の5人に1人が認知症となると推計されている「2025年問題」まで、あと1年を切った。認知症はますます身近な問題となったため、ちょっとした物忘れも“認知症のせい”と安易に考えてしまいがちだが。

「じつは認知症ではなく、薬の副作用によって認知機能が低下しているケースは少なくありません」

こう語るのは、『その一錠があなたの寿命を縮める 薬の裏側』(総合法令出版)の著書がある、薬剤師の鈴木素邦さんだ。

たしかに日本老年医学会でも、高齢になると処方される薬の数が増え、副作用が起きやすくなると注意喚起している。

「高齢者の場合、処方される薬が6種類以上になると、副作用のリスクが高まると指摘されています」(鈴木さん、以下同)

厚労省の調査では、40〜64歳の10%、65〜74歳の15%、75歳以上の26%が、1カ月に1つの薬局で受け取る薬が7種類以上だという。薬の副作用リスクは人ごとではないのだ。

「もちろん、治療のための薬であれば必要ですが、なかにはほかの薬に代替できたり、惰性で服用を続けたりしているケースもあります」

そんな多剤生活のなかで、どのような薬に認知機能低下を引き起こすリスクがあるのだろうか。

■認知機能低下やせん妄を誘発する3つの薬

日本老年医学会などが発表した「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」では、認知機能低下と強い因果関係が示された薬が3つあるとされている。

まず1つ目は「三環系抗うつ薬」。

「代表的な一般名はアミトリプチリン、クロミプラミン、イミプラミンなどです。ガイドラインでは『可能な限り使用を控える』と呼び掛けていますが、古い薬で、長く使われている方もいらっしゃいます。やむをえず処方されているケースもあるので、副作用が心配な人は医師に相談してみましょう。現在はSSRIやSNRIといった新しい薬が中心になっています」

2つ目は「ベンゾジアゼピン系睡眠薬抗不安薬」だ。

睡眠薬のなかでは健康へのダメージが少ないといわれているため、もっとも多く処方されている薬です。しかもよく効くため、患者さんのなかには『これがないと寝られない』と、長期間続けている人も多いはずです」

ところがガイドラインでは可能な限り使用を控え、使用する場合は最低必要量で、できるだけ短期間にするよう促されている。

「しかし、患者が薬を求めれば、応じる医師が多いのが現状。患者の依存度が高く、睡眠薬を処方しない医師がいれば、患者は別の医療機関に行ってしまいます」

もっとも重要なのは眠れない原因を取り除くことだ。

「高齢者の場合は、日中の活動量が少ないことが、夜、眠れないことを引き起こすこともわかっていますが、根本に目を向けず、安易に薬に頼る人も多いのです」

認知機能低下リスクのある3つ目の薬が、「過活動膀胱治療薬」のオキシブチニン(薬品名ポラキス)。

「通常、膀胱に尿が約300mmリットルほどたまると尿意を感じます。しかし過活動膀胱によって膀胱が収縮してしまうと、膀胱に尿が十分にためられない状態で尿意を感じたり、排尿する回数が増えたりします。日本排尿機能学会の調査では、40歳以上の12・4%が過活動膀胱の症状があるという結果でした」

ガイドラインには、こうした頻尿薬のなかでも、オキシブチニンは可能な限り使用しないように記されている。

「現在はトビエース、ベオーバという薬が一般的で、オキシブチニンが処方されるケースは少ないと思います。ただ、現在、同薬を市販薬にしようとする議論もあります。泌尿器科に抵抗を感じる女性が、安易に服用してしまうことがないように、リスクを知っておくべきでしょう」

以上の薬を服用した場合、どのような“認知機能の低下”に注意を払うべきなのだろうか。

■急にこんな症状が出たら薬の影響を疑うべし

認知症の初期症状と同じです。まず同じことを何回も言ったり、聞いてしまったり、忘れ物や探し物が多くなったりするなど、記憶障害があらわれやすいです。それが少し進むと、理解力や判断力の低下が出やすい。お金の計算ができなくなる、料理に手間取ってしまうなどの症状です。こうした症状が続くと自信を失い、怒りっぽくなったり、うつ症状に悩まされたりします」

ただでさえ、高齢になると肝機能や腎機能が落ちるため、薬の成分の代謝や排出に時間がかかり、薬が効きやすくなる傾向がある。

「だからこそ、薬は優先順位をつけて、最小限に抑えることが求められます」

その薬の飲み方にも注意が必要だという。

「お茶に含まれるカテキン、牛乳に含まれるカルシウムは薬効に影響するので、必ず薬は水かぬるま湯で飲むことです。また、水の量も100mmリットル以上が目安です。水が少ないと胃が荒れるリスクがありますし、表面がコーティングされておらず、ざらざらしている薬は喉に引っかかってしまいます。サプリなども薬との相性の悪いものがあるので、医師や薬剤師に相談してください」

最後に鈴木さんはこうアドバイスする。

「“認知症”の症状の原因が薬の副作用であれば、多くの場合で服用をやめることで、認知機能が改善します。副作用による認知機能低下の症状で、人生の集大成である晩年を過ごすことがないよう、今一度、薬について医師に相談してみましょう」

記憶のあいまいさが心配ならまずは薬の見直しを!