アカデミー賞大本命といわれている「哀れなるものたち」(劇場公開中)に出演し、同賞の助演男優賞にノミネートされているマーク・ラファロ。日本では、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の“ハルク”役でもおなじみの俳優だ。ハリウッドの殿堂入りを果たしハリウッド・ウォーク・オブ・フェームに名を刻んだ彼の軌跡を辿ってみたい。

【写真】大反響!「哀れなるものたち」でマークが演じるダンカン&エマ・ストーン演じるベラ

バーテンダーとして夢を追った下積み時代

1967年11月22日ウィスコンシン州に生まれたマーク。高校時代にロサンゼルスに移り住むと、名門演技学校ステラ・アドラー・コンサバトリーに通い、在学中にOrpheus Theatre Companyを設立。演技のみならず脚本や監督、プロデューサー業から照明や美術などの裏方の仕事まで基礎を習得しながら、週末は舞台を運営する日々を送る。

バーテンダーをして生計を立てながら夢を追っていたマークがブレイクするきっかけになった作品が2000年公開のケネス・ロナーガン監督作「ユー・キャン・カウント・オン・ミー」。その後「ラスト・キャッスル」や「ウインドトーカーズ」に出演し軌道に乗り始めた矢先、脳腫瘍の一種である聴神経腫瘍を患う。

■下積みを重ねブレイクした矢先に直面した試練

悪性ではなく良性の腫瘍だったものの“これから”という時に試練に直面することに。「誰だって人生の中で喪失や悲劇に直面することはある。でもあれはとりわけ大変だった。ちょうど家族を持ち始めたばかりの頃だったからね。次の仕事を見越して家を買ったばかりだった。メル・ギブソンが出演するM・ナイト・シャマランの『サイン』という作品だよ」と当時を振り返ったマーク。

「僕は勢いがあったしすべてが目の前にあって、そのすべては僕が夢に見てきたものだった。そこに辿り着いたんだ。それは33歳の時だったけど、そうしてすべてが目の前から消えた。起きたら顔が麻痺していて、元に戻るかわからなかった。目さえ閉じることができなかった」と恐怖を告白。しかしその経験があったからこそ今があると考えているそう。

「でもこれまで僕の身に起きた出来事で一番良かったことだと思うよ」「僕はその経験を乗り越えた。感謝しているんだ。思いやりがあるようになったし、失うということも気づかされた。人生がいかに脆いかを気付かせてくれた。たくさんの教えをもたらしてくれたんだ」

コメディからドラマまで幅広い活躍で実力派俳優に

命の大切さを痛感させられる経験を乗り越えたマークは復帰後、さらに精力的に活動し2004年には「エターナルサンシャイン」「コラテラル」「13 ラブ 30 サーティン・ラブ・サーティ」など自身のキャリアを形作る作品に出演。「13 ラブ 30」の共演者ジェニファー・ガーナーとは生涯の友になった。

ドラマもコメディもこなすマークはハリウッドの大作映画からインディペンデント系の映画まで幅広く出演。ブロードウェイデビューも果たした他「オール・ザ・キングスメン」「ゾディアック」など代表作を増やしていく。

2010年には「シンパシー・フォー・デリシャス」で監督デビュー。アネット・ベニングとジュリアン・ムーア出演の「キッズ・オールライト」で初のアカデミー賞候補入りを果たすと、2014年の「フォックスキャッチャー」2015年の「スポットライト 世紀のスクープ」でもアカデミー賞助演男優賞にノミネートされ、実力派俳優としての地位を確立する。

MCUで“超人ハルク”演じる

30年近いキャリアをもつマークは様々な役を演じてきたが、最も強い印象を残してきたキャラクターといえば、MCUで演じたハルクだろう。

2012年の「アベンジャーズ」(以下MCU過去作はディズニープラスで配信中)以来、「アイアンマン3」「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」「マイティ・ソー バトルロイヤル」「アベンジャーズ/エンドゲーム」「キャプテン・マーベル」「アベンジャーズインフィニティ・ウォー」「シャン・チー/テン・リングスの伝説」「シー・ハルク:ザ・アトーニー」、そしてアニメ「ホワット・イフ…?」シリーズでの声の出演と10作に渡ってハルクことブルース・バナーを演じる。

大量のガンマ線を浴びたことで極限の怒りや興奮にさらされると狂暴なモンスターの超人ハルクになってしまう天才科学者ブルースは、これまでにもエリック・バナやエドワードノートンが演じた役どころだが、マークが演じたことで、これまで以上にファンから愛される人気キャラクターに。

ハルクとしてのアクションパートの迫力はもちろん、ブルースとして感情の制御に苦しむ姿や怒りとの葛藤などを描くドラマパートでマークが磨いてきた表現力が最大限に発揮され、共感度の高いキャラクターを作り上げた。

■「哀れなるものたち」で4度目のアカデミー賞ノミネート

アカデミー賞11部門にノミネートされている「哀れなるものたち」。本作でマークは放蕩者の弁護士ダンカンを演じ、自身にとって4度目のオスカーノミネーションを獲得している。

マーク演じるダンカンはエマ・ストーン演じるベラ・バクスターを誘惑し駆け落ちするという役どころ。シュールなダンスシーンや性行為のシーンなどに挑戦し、感情を露わにした演技に挑んだ。「これまでにこうした役は演じたことがなかった」「話を聞いたとき、ちょっと衝撃だった。本当に僕にふさわしい役なのかって」と話すマークは、妻の後押しを受けて挑戦する覚悟を決めたのだとか。

「女王陛下のお気に入り」のヨルゴス・ランティモス監督が、再びエマ・ストーンとタッグを組んだロマンス・コメディ・ファンタジーである本作。かねてよりランティモスと仕事をしたかったというマーク。ランティモスの方もマークが製作総指揮を務めエミー賞でも話題を呼んだドラマシリーズ「ある家族の肖像/アイ・ノウ・ディス・マッチ・イズ・トゥルー」などでの活躍を目にとめていたそう。ヨルゴスの舞台を演出するようなメソッドでの映画作りはマークにぴたりとはまったようで、その相性の良さはスクリーンからひしひしと感じられる。

ハリウッドの殿堂入りを果たし正真正銘のスターに

MCUを12年間やってきた。ああいうことをやると、みんな特定のものを期待するようになると思うんだ。それによって制限されることもあると思う。とても居心地が良すぎるからね。もう一度キャリアをまた別の方向へ進める機会を得られたこと、そして自分が元は何にでもなれるという考えを強化する舞台の伝統の出身だというのを思い出すことは本当に最高だった」と「哀れなるものたち」への挑戦を振り返っているマーク。

「ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」や「すべての見えない光」など映画からドラマシリーズまで娯楽大作のみならず社会派作品までこなすマークはその功績が讃えられ、2月8日ハリウッドの殿堂入りを達成。ウォーク・オブ・フェイムのお披露目式には家族はもちろんMCUのケヴィン・ファイギやデヴィッド・フィンチャー、長年の友人のジェニファー・ガーナーなどが駆けつけた。

フォロワー数2000万人を超えるInstagramでは「ありがとう、ありがとう、ありがとう。この星は僕だけのものじゃない。僕の人生をつくってくれたみんなのもの」と感謝を伝えたマーク。コメント欄にはジェレミー・レナージェイソン・モモアといった俳優仲間から祝福の声が寄せられており、いかに仲間から愛される俳優であるかが垣間見られる。

◆文=KanaKo

マーク・ラファロ/写真:REX/アフロ