「売上を上げてきたのに、利益がほとんど変わらない。」「同じルールの下で同じ商売をしているのに、ものすごく儲かっている会社と倒産していく会社があるのはなぜか?」…このように考える中小企業の経営者やスタートアップの代表は多いでしょう。27才で売上高1億5千万円、自己資本比率15%の電気工事会社を父から引き継ぎ、その後、売上22億円、経常利益2億円、従業員240人の会社にまで成長させた株式会社九昭ホールディングス代表取締役・池上秀一氏の著書『資金繰りの不安がなくなり、自己資本比率が上がる! 付加価値額の教科書』(イースト・プレス)より、池上氏の経験に基づき導き出された経営メソッドを、一部抜粋して紹介します。

できない約束をしてはいけない

「約束は必ず守る。できない約束はしない」

会社を大きくするため、規模を広げるために新しく仕事を取ろうとしたり、新規ビジネスを始めようとするとき、相手からの申し出につい「できます」と答えてしまうと、あとで困ってしまったり、最悪は実行できずに相手の期待を裏切ってしまうことがあります。

ビジネスは信用第一です。どんな小さな約束であっても必ず守ることが大事です。守れない約束は最初からしてはいけません。

私はこの指標の1つに「時間を守ること」を置いています。私は非常に時間に厳しいです。もちろん、人間なので何かしらのトラブルがあるでしょう。そんなときは事前に連絡をする。これは人として当たり前のことです。

私がこのような考え方になったのは父からの教育があったからです。

父はイケイケドンドンな人でしたが「時間を守ること」「嘘をつかないこと」「約束を守ること」「モノを盗まないこと」など日本人が昔から当たり前にしてきた精神性をしっかりと叩きこんでくれました。

ちなみに『魏志倭人伝』では西暦200年頃の日本人を『婦人淫(いん)せず、妬忌(とき)せず。盗窃(とうせつ)せず、諍訟(そうしょう)少なし(婦人の貞操観念は堅く、妬んだりしない。盗みをする者も少なく、訴え事も少ない) 』としてその姿を伝え、「モノを盗まないこと」が特筆されています。もちろん、時間にルーズな人は多くいます。

過去に、あるテレビ局から会社の取材の申し出がありました。何かのきっかけになればと話を受け、ひとまず打ち合わせをすることになり、会社まで来てもらうことになりました。

しかし当日、相手のディレクターは10分ほど遅れてやってきました。テレビ業界ではよくあることなのかはわかりませんが、ディレクターはいきなり本題に入ろうとしました。

私は「その前に言うことがあるでしょう?」と言いました。

相手はポカンとした顔で、私が何を言わんとしているかがわからない様子でした。そこで「わからないなら帰ってください。もう二度と来ないでください」と伝えました。

テレビ出演のチャンスはなくなりましたが、後悔はしていません。

このような人と付き合うかどうかはあなた次第ですが、私は基本的にはつき合わない。二度と会わないことにしています。

なぜなら、そういう人はビジネス相手として信用できないからです。

「福の神」だった銀行マン

前項で約束について、人との付き合いについてお伝えしましたが、そもそも人間には「福の神」「普通の人」「貧乏神」がいると私は考えています。

10人の人間がいたら貧乏神は2~3人、福の神は1人いるかどうか、それ以外は普通の人です。採用で面接をするときでも、人脈を広げるときでも、私はこの考え方で人を見ることにしています。

ちなみに、福の神には学歴や実績や成績などは関係ありません。なんとなくの雰囲気で感じられるものです。もちろん、100%見分けられるわけではありませんが、この考え方を知っているかどうかで人の見方は変わると思います。

福の神と付き合うことで会社はもちろんのこと、人生も良くなります。

思い返してみれば、私がこれまで人生で困ったときに助けてくれた人はみんな福の神だったと思います。特に父親の借金10億円を背負ったときに助けてもらった出来事は、今も忘れられません。

あるとき、毎月の返済で2,000万円くらいのお金が足りないときがありました。銀行に借金を返すときは一括で返すのではなく、経営で利益を出しつつ毎月少しずつ返していきますが、金利もかかりますし、返済期間によってはとても毎月払えないこともあります(そういうときはリスケをしてもらいますが) 。

そうやってやりくりをしていたのですが、ある月はまったく足りず、このままでは資金ショートしてしまう状態になりました。そのときに助けてくれたのがある銀行マンでした。

普通は銀行マンと言えば、ほとんどの担当者は冷たいものです。「どうやってこの金を返すか」の話しかしないものです。

しかし彼は違いました。「私のほうでアイデアを出します」と彼なりのテクニックを使って融資をしてくれました。おかげで会社は生き延びることができ、現在に至っています。

その銀行マンは間違いなく私にとっての福の神でした。

しも、あなたが福の神と出逢ったら決して人脈から外してはいけません。社員であれば必ず採用して社内に置いておかないといけませんし、外部の相手であれば何年経っても付き合いを切るようなことをしてはいけません。それは自ら幸福を手放す行為だからです。

私の場合のその銀行マンは、後に海外へ栄転になりました。

7~8年が経ち、会社も順調になって余裕ができたタイミングで、お礼を兼ねて会いに行きました。向こうはこちらを覚えていてくれて、会いに来てくれたことを喜んでくれました。

「あのときのおかげで何とか生き延び、今でも会社経営ができています」とお礼を言ってお酒を飲んだことを今も覚えています。

(株)九昭ホールディングス代表取締役

池上 秀一

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