政府は2024年2月27日、車両総重量8トン以上の中型・大型トラックの高速道路での最高速度を、80km/hから90km/hに引き上げる政令を閣議決定しました。これを受けSNSでは「意味があるのか」と疑問視する声もあります。

人手不足で最高速度を上げるのは変?

政府は2024年2月27日、車両総重量8トン以上の中型・大型トラックの高速道路での最高速度を、現行の80km/hから90km/hに引き上げる政令を閣議決定しました。

人手不足が懸念される「2024年問題」に対応するための施策として、2024年4月1日から施行されます。同じ4月には、運転手の時間外労働が年間960時間までに制限されるということで、速度アップにより輸送の効率化を図る狙いがあります。

ただ、閣議決定がされ、第一報が出た後のSNSでは“あまり意味がないのでは?”という意見は強いようです。

人手不足です。 → 最高速度を上げよう。 わけがわからない」
「トラック速度上げるんじゃなくて 給与あげたれや」
「トラックの見かけ速度を10km/h上げたところでヤードの回転率が増えるわけでも無いという所はある」

といった意見がありました。また、他業界からも「働き方改革2024のため、病院の廊下は走っていいことにする、とか言われたら嫌だなぁ」といった投稿も。

では、なぜ最高速度が引き上げられるのでしょうか。この改正に先立ち、警察庁の行った有識者検討会での意見が、決定に大きく関係しています。

資料によれば「大型トラックの実勢速度が90km/h近いという実態を踏まえれば、現行の速度抑制装置の上限速度を維持することを前提に、大型トラックの最高速度を90km/hに引き上げたとしても、実態として交通安全上の問題は生じないと考えられる」と記載されています。

2003年以降、大型トラックには90km/h以上の速度を出せなくするリミッターの装着が義務化されています。そのため改正したとしても、過度にスピードを出せる車両が現れ危険な事故が増える可能性は低いという訳です。

ただ、最高速度の引上げに伴って、「荷主等から、荷物を早く運べという過度な要請がされることは望ましくなく」ともされており、運行実態面で状況に応じた必要な安全対策を検討する必要性も指摘されています。

実は速度に関する改正は運輸業界が提案

そもそも、高速道路の最高速度引上げは、トラック側の業界団体が提唱していました。2023年2月17日経済産業省国土交通省農林水産省による「持続可能な物流の実現に向けた検討会」でも、業界団体から「衝突被害軽減ブレーキ等の先進安全装備を装着した大型トラックに限り、高速道路において時速100kmで走行することの協議を開始していただきたい」と要望が出ていました。

業界団体が算出した結果によると、最高速度を20km/h引き上げて100km/hにすれば、東京~大阪間輸送の拘束時間は1.5時間短縮されるとのこと。ヤマト運輸も同じ検討会で、大型トラックの速度規制が撤廃されれば東京~大阪間で拘束時間が2時間減り、サービス維持やコスト改善につながるとしていました。

ただ、80km/h規制は影響の大きいトラックによる重大事故を防ぐための安全対策となってきたため、引上げに対して安全面の懸念は根強いようです。

他方、一般からも90km/hといわず「100km/hにしたらどうか?」という意見が、警察庁の実施したパブリックコメントでも寄せられています。しかし、有識者会議では「これより高い速度への引き上げは、車両の安全性能が担保されていないこと等を踏まえれば、現時点では不適切」と結論づけています。

なお、今後は政府主導での賃上げや荷待ち・荷役時間の短縮なども計画されており、業界の改革はさらに進められることとなります。

物流業界の大型トラックのイメージ(画像:写真AC)。