アメリカ同時多発テロ9.11」の日、カナダの小さな町で実際に起こっていた奇跡を描くブロードウェイのヒット作、『カム フロム アウェイ』。テロの発生によりアメリカに着陸できなくなった飛行機の乗員・乗客と、人口の倍近い人数を迎え入れることになった町の住人、計100近い登場人物を、たった12人の出演者が演じ分ける趣向のミュージカルだ。待望の日本初演にあたって集まった空前の豪華キャストより、同年生まれで親交も深い加藤和樹と田代万里生に、稽古場の様子や本作の魅力を語ってもらった。

“稽古”ではなく“訓練”、体に叩き込むしかない

――おふたりのミュージカルでの共演(競演)は、2021年の『マタ・ハリ』と『ジャック・ザ・リッパー』以来となりますね。

田代 そうですね。和樹君はいつも僕より先に台詞を覚えていたので、困ったら和樹君のほうを見ると口の動きで教えてくれて、“歩くプロンプ”みたいでした(笑)。

加藤 あははは! ただ今回はもう、いっぱいいっぱいですね!

田代 そう! こんな和樹君、初めて見たと思って。いつもだったらほかの人の台詞と立ち位置まで全部すぐ覚えるのに、今回はまだテンパってるから、和樹君も人間だったんだなー!って(笑)。

加藤 人間ですよ~。この作品は全員が出ずっぱりだから、覚えることがすごく多いんです。台詞も動きもタイミングの指定が細かくて、頭で覚えるんじゃなく体に叩き込むしかない。

田代 演出補のダニエルが、稽古初日に「これは稽古じゃなく訓練」とおっしゃっていたけど本当にそうで、ほかの作品とは違う覚え方が必要なんだよね。1個の文章を何人かで分担して言うことが多いし、ほかの作品だと相手の台詞を聞いて咀嚼してから自分の台詞を言ったりできるけど、この作品は聞いてからじゃ遅いんですよ。

加藤 そう、遅いの(笑)。今はようやく体に入ってきたという段階です。

田代 超ざっくりだけど、通し稽古もできたしね。全貌が見えて、これからやるべきことが明確になってきた。

加藤 芝居を作っていくのはこれからですけど、形は見えてきましたよね。僕もようやく皆さんの稽古に追いついてきたかな。

田代 稽古してて思うのは、この作品は、みんながお互いに支え合わないと成立しないっていうこと。

加藤 本当にそう。それがこの物語とリンクしていて、よく出来ているなあと思います。

――それぞれの役どころを紹介していただけますか。

加藤 僕はニューファンドランド島にやってくるニューヨーカー、ボブを主に演じます。物が盗まれたり人が撃たれたりといったことが日常的にあるニューヨークから来たので、無条件に助けてくれる島の人たちに対しても最初は疑心暗鬼になっていて。でもみんなの優しさに触れてどんどん変わっていく、人間的な変化の大きい役どころかなと思いますね。モデルになった方とリモートで少しお話することができたんですが、島に着いたばかりの頃はやはり不安だったと。でも1日で不安が消えて、その後も何度も島に行ってるとおっしゃっていました。

田代 僕が演じるケビンJは、浦井健治さん演じるロサンゼルスの会社経営者、ケビンTの恋人兼秘書。作詞作曲家のコンビは、実際にこの出来事に遭遇したたくさんの人にインタビューしてこの作品を書いてるんですが、ケビンJにはしてないみたいなんですね。ケビンTから聞いた、“T曰く”の役だからか、劇中ではTが発した言葉に対してJがちょろっと皮肉を言うようなシーンが多くて。秘書でありながら若干僕のほうに主導権があって、健ちゃんを困らせるようなことを言って健ちゃんがタジタジする関係性を楽しんでる、みたいな感じですね(笑)。あとは、イスラム教徒のアリ、現地の空港職員ドワイトなども演じます。

加藤 僕もボブのほかにいくつか役があって、そのひとつがメグ姉(濱田めぐみ)が演じるアネットの“妄想”の中というか(笑)、ちょっと誇張された回想シーンに登場する機長。

田代 セクシー機長ね(笑)。イメージとしては、もう上裸です!

加藤 上裸にサスペンダーに帽子、みたいなイメージではやってます(笑)。限られた時間の中でのお芝居なので、面白くできたらいいなと。あとは、クミさん(森公美子)とアフリカ系夫婦の役も演じます。

田代 クミさんと和樹君、本番では帽子とかストールなんだろうけど、稽古場だとふたりして頭にタオルを巻いてるから、なんかラーメン屋さんを経営する夫婦みたいで(笑)。

加藤 みんなそれで笑ってましたよね(笑)。あともうひとつ、ネタバレになるので詳しくは言えないんですが、自分では結構見せ場だなと思ってる役もあるので楽しみにしていてください。

ミュージカルではあまり見たことのない“日常の加藤和樹”が見られるかも?

――稽古場でのお互いの印象を教えてください。

加藤 万里生さんは、共演する度に違う表情を見せてくれるので本当に楽しいんですよ。『マタ・ハリ』の時は、同じ役だったからこそ、こういうアプローチもあるのか! という衝撃があって。

田代 あの時は、同じ役をやってる感じがしなかったよね。それぞれが違う役をやって、「グッジョブ!」って言い合ってた感じ(笑)。

加藤 万里生さんのラドゥーは、演出の(石丸)さち子さんですら思い描いてなかったラドゥーだったと思います(笑)。そのあとの『ジャック~』では、陽気でちょっと人を食ったような役。今回みたいな軽めの万里生さんを見るの、僕は初めてという気がします。

田代 それは和樹君もだよ。今回はみんなそれぞれ等身大の自分を生かせる役を演じてるから、ちょっと当て書きみたいに感じられる時があって。和樹君のボブもそうで、ミュージカルではあまり見たことがない“日常の加藤和樹”が見られてる感じがします。ボブのちょっと、アタフタしてるところとか(笑)。

加藤 舞台では見せないだけで、日常の僕は常にテンパってますからね(笑)。今回の出演者の中で僕は下から2番目なので、そういう気質が特に出てるのかもしれないです。元々末っ子なので、この現場はすごく居心地がいいんですよ。

田代 あ、末っ子なんだ! そういう感じしないよね。お兄ちゃん気質に見える。

加藤 面倒を見たいタイプでもあるんですけど、先輩ばかりの現場に来ると元々の末っ子気質が出てきて、自由に居られる感じがします。

田代 多分この現場は、全員居心地がいいよね(笑)。誰も遠慮をしないから本当に清々しい。

加藤 そうそう、みんな自由だから(笑)。

田代 まず先輩のクミさんとか(吉原)光夫さんが切り出して、(橋本)さとしさんがボケて(笑)。

加藤 ボケてるつもりはないんでしょうけど(笑)、そうですね。台詞を噛んでも「もう1回お願いしまーす!」って遠慮なく止めるから、僕も間違えていいんだって思えます。

田代 だけどさとしさん、メディアの皆さんを入れた公開稽古では急にスイッチが入ってて。

加藤 めっちゃカッコ良かったですよね!

田代 多分皆さん、お客さんが入ったら化ける人たちなんだろうな。

加藤 百戦錬磨の方ばっかりですからね。僕もしっかりついて行かなきゃと思ってます。

――音楽の印象はいかがですか?

田代 100分間、最初から最後までずーっと音が鳴ってるんです。歌と台詞が常に同時進行してて、前奏でも間奏でも後奏でも誰かが喋ってて、サビの途中で誰かが歌ってる中にも別の人の台詞が入ってきたりするので、100分間ずっとカオス(笑)。

加藤 あははは! 100分間の長~い1曲だと思ってもらったほうがいいかもしれないですね。

田代 そうそう、お客さんが拍手するタイミングも3回しかない演出になってるし。

加藤 拍手が入ると途切れちゃうから、ってことだと思いますが、ドSな演出ですよね(笑)。音楽自体は、どのジャンルとは言えないくらい色々なジャンルが入っていて、色々な国の色々な人種の登場人物が入り混じってるこの物語を、音楽でも表しているのかなと思います。

田代 確かに。でもサウンド的には完全にケルティックで、ケルトの楽器が刻むビートの中で僕らが生きてく感じだから、ずっと統一感はあって。

加藤 ノリが良いですよね。ただ、歌うのは難しい。これだけのメンバーが、ブレスも音量感もニュアンスも揃えるっていうのは大変なことだなと実感してます。その分、ピタッとはまったらとんでもないエネルギー量になるんだろうなと。

田代 ほかの作品だと、テノールの人はこのパート、バリトンの人はこのパートという分かれ方だけど、この作品は一人ひとりパートが違うからそこも難しいよね。それぞれの自己責任(笑)。

加藤 そうなんですよ。僕は万里生さんと同じパートのところが多いんですが、たまに違うところにも行くから頼れない(笑)。さっきまで下の段だったのに、急に上の段に行くの!? とかもありますし。歌稽古が去年の10月末くらいに始まって、ずいぶん早いなと思ったんですが、それくらいやらないといざ稽古になった時に稽古ができない作品なんだと。本稽古も、長いなと最初は思ったんですけど、最近ではひょっとしたら足りないくらいかも?と思ってて。

田代 歌も台詞も動きも、把握するのに時間が掛かる作品なんだよね。開幕1か月前には通し稽古ができるように、しっかり逆算してくれた製作陣に感謝しています。

優しさと愛にあふれた大充実の100分間をぜひ体感して

――最後に改めて、読者の皆さんにお誘いのメッセージをどうぞ!

田代 短いミュージカルですが、それはもう大充実の100分間で、1.25倍速くらいで再生している感覚になると思います(笑)。前知識なくサクっと観られる作品ですし、何より面白いのは、今の時代の実話に基づいてるということ。「9.11」の裏で起こっていたことを、時代の当事者として観られるのは、今生きている僕たちだけの特権だと思います。観ると震災を思い出す方もいるかもしれませんが、怖さや悲しみではなく無償の愛、お互いに手を差し伸べあうことの大切さを描いているから、観ていただけたら明日への活力になるんじゃないかな。

加藤 事故とか震災のニュースって、悲しみとか苦しみにスポットが当たりがちですけど、この作品に描かれてるような優しさと愛があふれる出来事ってきっと実際にもあって、それが人を救うのだと僕も思います。僕自身この間、能登の震災に遭った老夫婦のインタビューをたまたま観て、「元気です」「支援に感謝しています」という笑顔を見たら、自分ももっと頑張ろうという気持ちになりましたし。人に優しくされたら優しくしようと改めて思える、本当に愛にあふれた作品なので、何も考えずに観に来ていただきたいですね。

田代 和樹君の話を聞いてて思い出したんだけど、子どもの頃、乗り継ぎで降りたチューリッヒの空港で全部の飛行機が飛ばなくなって、3時間くらい空港中の人が足止めされたことがあって。その時、たまたまそこにいたスイスの民族楽団が、みんなの前で演奏してくれたんだよね。

加藤 へえ~、すごい!

田代 それで空港中が、すごく温かい雰囲気になったのを覚えていて。この作品にはそれに通じる温かさがあると思うから、ぜひ多くの方に体感していただきたいですね。

取材・文:町田麻子 撮影:You Ishii

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<公演情報>
ブロードウェイミュージカル『カム フロム アウェイ』

脚本・音楽・歌詞:アイリーン・サンコフ デイヴィッド・ヘイン 演出:クリストファーアシュリー ミュージカルステージング:ケリー・ディヴァイン

【キャスト】(50音順)
安蘭けい
石川
浦井健治
加藤和樹
咲妃みゆ
シルビア・グラブ
田代万里生
橋本さとし
濱田めぐみ
森公美子
柚希礼音
吉原光夫

(スタンバイ)
上條駿
栗山絵美
湊陽奈
安福毅

【東京公演】
2024年3月7日(木)~3月29日(金)
会場:日生劇場

<ツアー公演>
【大阪公演】4月4日(木)~4月14日(日) SkyシアターMBS
【愛知公演】4月19日(金)~4月21日(日) 愛知県芸術劇場 大ホール
【福岡公演】4月26日(金)~4月28日(日) 久留米シティプラザ ザ・グランドホール
【熊本公演】5月3日(金・祝)・4日(土) 熊本城ホール メインホール
【群馬公演】5月11日(土)・12日(日) 高崎芸術劇場 大劇場

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/comefromaway2024/

公式サイト:
https://horipro-stage.jp/stage/comefromaway2024/

左から)加藤和樹、田代万里生