中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。

 しばらく好調だった住宅市場に転機が訪れました。国土交通省1月31日に「住宅着工統計」を発表。2023年の新設住宅着工戸数は、81万9000戸。前年比で4.6%も減少しました。

 特に不調が鮮明なのが「持家」に分類される注文住宅。22万4000戸で、11.4%も減少しています。2年連続の2桁減。背景の一つには、資材高による建築費の高騰があります。この逆境の危機にさらされているのが、ローコスト住宅の販売会社です。

◆“ウッドショック”で市況が大変化、建売が有利に

 国土交通省によれば、2022年の住宅建築資金の平均は3866万円(「住宅市場動向調査」)。前年比で10.8%も増加しました。自己資金は過去5年で初めて1000万円を超えています。

 コロナ禍からの急速な経済の回復によって、アメリカ、ヨーロッパ、中国などで木材需要が拡大。住宅の主要な建築資材である木材が不足して価格が急騰するウッドショックが起こりました。2021年末ごろには、製材などが2.5倍程度まで跳ね上がっています。2023年に入って木材価格は落ち着いていますが、仕入れは前もって行うため、引き続き資材高の影響をうけました。

 また、円安でエネルギー価格は高騰しており、人手不足による人件費高も続いています。

 注文住宅が苦戦する中で堅調なのが分譲住宅、いわゆる建売住宅です。2023年の分譲住宅の着工戸数は24万6000戸で、前年比3.6%減少しています。しかし、ウッドショックを迎える2022年までは2年連続で増加していました。

◆「建売住宅」が「注文住宅」を上回る

 建売住宅の着工戸数は2021年まで注文住宅を下回っていました。しかし、2022年に逆転。2023年も注文住宅を上回って推移しています。

 ローコスト住宅は、一般的に建築費1000万円台のものを指します。建築費が上がってしまうと、施主は安さのメリットが感じられません。土地とセットで購入でき、価格もわかりやすい分譲住宅の方が魅力的に映るでしょう。しかも、リモートワーク時代は終わりを迎え、通勤が当たり前の時代が戻りました。立地条件の良い駅近物件の人気も再燃しており、その点でも分譲住宅が有利です。

 この変化を巧みにつかんだ会社がタマホームです。

◆8期連続の増収増益を達成できるか?

 タマホームは2024年5月期の売上高を2570億円、営業利益を141億円と予想しています。予想通りに着地をすると、8期連続の増収営業増益を達成します。

 ただし、市況の悪化を受けているのは間違いなく、上半期の売上高は前年同期間比10.0%減の1127億円、営業利益は同55.5%減の30億700万円でした。2桁の減収減益で折り返しています。

 タマホームはSNSの投稿者に対して、損害賠償請求や法的措置をちらつかせるなど、投稿内容に猛抗議をしたことで世間を騒がせました。住宅展示場でネジが出ている箇所を発見して投稿し、炎上したのです。

 会社側が強硬な手段に出たのも、市況が悪化する中でブランドも毀損し、集客力を失うことへの強烈な危機感があったからでしょう。

◆「注文住宅事業」は大打撃を受けているが…

 タマホームの注文住宅事業、2024年5月上半期の引渡額は前年同期間比12.5%減の769億円でした。引渡棟数に至っては、18.6%も減少して3514棟となっています。

 見ての通り、注文住宅事業は大打撃を受けています。その一方で、戸建分譲事業は堅調そのもの。上半期の引渡金額は226億円で、前年同期間比2.7%の増加でした。引渡棟数も3.0%増加の755棟でした。

 戸建分譲事業は、2023年5月期の引渡実績が前期比3割も増加していました。棟数は1247となり、過去3期で初めて1000棟を突破しました。今期はそこから更に金額、棟数を積み増しているのです。

◆「10区画未満の分譲地開発」に乗り出す

 タマホームは2018年から分譲住宅の強化に努めています。

 建売住宅は立地が命。都市部にアクセスしやすい沿線の駅近物件に人気が集中します。土地の仕入を行う営業マンは、あの手この手で優良物件を仕入れます。

 タマホームはこの仕入れを強化しました。10区画未満の狭小地を積極的に購入するようになったのです。これによって資金回転率を高めた上、販売棟数を伸ばすことができるようになりました。それまでのタマホームの建売住宅は郊外の大型分譲が中心で、子育て世代を中心に販売していました。その方針を改めたのです。

 タマホームにおいて分譲住宅は、注文住宅の販売減による減収を押しとどめる主要因になっています。

◆注文住宅事業が赤字のアイダ設計

 ローコスト住宅で苦戦しているのが、アイダ設計。555万円で家が建てられるという美川憲一さんのテレビCMが、記憶に残っている人が多いかもしれません。2010年ごろから宣伝に力を入れ、分かりやすい低価格路線を押し出したローコスト住宅の代表的な会社の一つです。

 アイダ設計の2024年3月期上半期の売上高は、前年同期間比11.7%減の259億3900万円、1億6400万円の営業利益(前年同期間は4億3400万円の営業損失)でした。赤字から黒字浮上していますが、注文住宅事業は依然として赤字のままです。

 注文住宅の2024年3月期上半期の売上高は、前年同期間より2割低い109億4500万円、5億2100万円のセグメント損失(同4億7600万円のセグメント損失)を計上しています。今期は減収となり、赤字幅は拡大しました。

◆「分かりやすい価格」だけでは優位性を保てない時代に

 アイダ設計は現在、「888万円の家」を掲げて営業攻勢をかけています。

 しかし、比較検討材料が多い今、一見分かりやすい価格を消費者に打ち出しても、かつてのように集客するのは難しいでしょう。

 酷暑・厳冬でも快適に過ごせる機能性、耐震性、建材の人体への安全性、エネルギー効率の高さなど、多少資金を投じても家族のライフスタイルに合致する家こそ消費者は求めています。

 加えて、建売もやや苦戦しています。2024年3月期上半期は1.2%の減収となりました。セグメント利益は3割減少しています。

 アイダ設計は建売事業を強化しているように見えます。2023年9月末時点に計上されている「販売用不動産」は137億8700万円。2023年3月末の64億6700万円から倍増しました。

 現金は3月末の150億円から88億円に減少しています。短期間で仕入れを増やしていることから、現金の多くを土地購入代金に充てたのではないでしょうか。

 住宅業界は、建売住宅が売れる商品となったため、激しい土地の奪い合いが起こる可能性があります。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界

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