新たに建造された巡視船「はてるま」が、岡山県にある三菱重工マリタイムシステムズで海上保安庁に引き渡されました。同船は尖閣諸島周辺の警備救難に従事するとのこと。引き渡し式では、船長などから領海警備の覚悟を聞けました。

南西エリア以外に日本海やオホーツク海、さらには災害派遣も

海上保安庁は2024年2月22日巡視船「はてるま」(PL-94)の引き渡し式を三菱重工マリタイムシステムズ玉野本社工場(岡山県玉野市)で実施しました。配備先は沖縄県の石垣海上保安部(第十一管区)。中国と対峙する尖閣諸島周辺を中心に領海警備や海難救助といった任務に就きます。

海上保安庁長官の訓示を代読した海上保安庁装備技術部の矢頭康彦部長は「巡視船『はてるま』は令和4年12月に決定された海上保安能力強化に関する方針に基づき、さらに尖閣領海警備体制を強化するために建造された大型巡視船だ」と述べていました。

海上保安庁は現在、尖閣領海警備体制の強化と大規模事案の同時発生に対応できる巡視船の整備を進めています。背景には、尖閣諸島周辺海域で中国海警船などによる領海侵入が相次いでいることがありますが、それに関連して領海内で操業する日本漁船の警護や、大型中国漁船の大量来航なども大きく影響しています。

また、南西諸島以外のエリアに目を転じてみても、日本海中央部の海底地形、いわゆる「大和堆」周辺で違法操業を行う北朝鮮漁船への対処や、原子力発電所などへのテロ脅威への対応、そして頻発する自然災害で被害を受けた地域への支援などが挙げられます。このように、海上保安庁に求められる任務は、従来と比べて明らかに増しているといえるでしょう。

日本政府が定めた国家安全保障戦略では、「我が国の海上保安能力を大幅に強化し、体制を拡充する」としており、海上保安庁2027年度までに練習船を含む大型巡視船の隻数を89隻まで増強する計画です。これを受け、大型巡視船や航空機の新規整備などを盛り込んだ2024年度予算では総額2611億円を計上しました。

設計時から女性が乗り組むことを想定

特に、増強著しいのが尖閣警備の最前線となる石垣海上保安部で、2021年11月には海上保安庁最大級の巡視船であるヘリコプター搭載型巡視船(PLH)「あさづき」(6500総トン)を配備しました。

さらに、2024年2月22日ジャパンマリンユナイテッド(JMU)横浜事業所磯子工場で竣工した3500トン型巡視船やえやま」(PL-203)を、「はてるま」と共に配備することを海上保安庁は明らかにしています。

今回、引き渡された「はてるま」は、くにさき型巡視船の22番船に当たり、2020年度の補正予算で建造が決まった1隻です。総事業費は72億円。北海道の紋別海上保安部(第一管区)に配置換えとなった、巡視船「だいせつ(旧はてるま)」(1300総トン)の代替です。

前出の矢頭部長は、「だいせつ」と名前を変えて北海道に転籍した先代「はてるま」にも訓示の際に触れており、「先代『はてるま』は平成20年に就役し、尖閣警備という重要な任務を令和5年12月まで15年間にわたって務め、我が国の海を守ってきた。本船はこの誇り高き『はてるま』の名を継承し、石垣を拠点に我が国の安全確保という尊い任務を着実に遂行し、引き続き国民の安全安心を大きく寄与できるものと確信している」と述べていました。

こうして海上保安庁の新戦力となった2代目「はてるま」は、船体サイズが1500総トン、長さ96m、幅11.5m。ディーゼルエンジン2基搭載で、25ノット(約46.3km/h)以上の速力を発揮します。定員は37名で、女性の海上保安官が乗り組むことを当初から想定した構造になっているのも特徴だといいます。

船首側には目標追尾型遠隔操縦機能(RFS)を備える30mm機関砲や、遠隔で操作できる高圧放水銃を装備。ブリッジ上には赤外線捜索監視装置と遠隔監視採証装置が設置されています。

領海警備の中枢艦になれる装備も

また、操舵室の後ろ側には、通信装置やヘリコプターからの画像伝送装置などが置かれたOIC(オペレーション・インフォメーション・センター)室が設けられており、ここを使うことで領海警備などの任務に当たる船隊の中枢(指揮統制)船としても機能するようになっています。

甲板上には、高速警備救難艇と複合型ゴムボートを搭載。ヘリコプター甲板は第十一管区の航空基地と連携することを前提にした設備が設けられており、海上保安庁最大のヘリコプターで「あさづき」にも搭載されているH225「スーパーピューマ」をはじめ、飛来した各種ヘリコプターに、電力や航空燃料の補給が可能な設備も備えています。

両舷に設置されたフルカラーの停船命令等表示装置は、日本語や英語、韓国語ロシア語、中国語が表示可能です。また、不法行為を行っている船に移乗することも想定し、制圧訓練を行える多目的スペースも用意されています。

「はてるま」の平湯輝久船長は引き渡し式で、「尖閣の情勢は予断を許さないと聞いている。我が国の領土領海を守り抜くという方針があるので、警戒業務をしっかりやっていき、また関係機関との緊密な連携を保ちつつ、冷静に毅然として対応を続けて、領海警備に万全を期したい」と意気込みを話していました。

この「はてるま」が属するくにさき型は、2021年度補正予算でも23番船の建造が決まっているほか、2024年度予算では一気に4隻の新造が認められています。いずれも尖閣領海警備体制の強化を目的としていることから、今後も南西諸島への集中配備が進められていきます。

尖閣諸島は南西諸島の端に位置するため、海上保安庁の動きが見えにくいかもしれません。ただ、こういった形で、領土、領海を守ろうと態勢を強化しているのは心強いといえるでしょう。

真新しい巡視船「はてるま」を背にインタビューに応える平湯輝久船長(深水千翔撮影)。