日本人の海外移住者はパンデミック前にピークを迎え直近は減少していますが、海外移住の目的は多様化しており、海外駐在だけではなく、いまでは教育移住も海外移住の主な目的のひとつとなっています。日本に対する信用不安もあり、今後日本人の海外移住者は増えることが予想されています。海外移住をする前には様々準備するべきことがありますが、本記事では、「海外移住でお金にまつわる困ること」を解説します。

海外移住するなら、日本の住民票は除票するべき?

海外移住をする前にまずはじめに判断しなければならない重要なことが、日本の住民票を除票するか否かです。この判断はお金にまつわることに大きく影響します。住民票を除票するということは、日本において非居住者の扱いになることを意味します。

住民票を除票すれば非居住者となり、日本での住民税をはじめとした税金を日本で支払う必要がなくなります。加えて、日本の社会保険料を支払う必要がなくなります。

海外移住の目的が駐在員であれば、日本の健康保険や厚生年金は継続することが一般的ですが、教育移住や事業進出など自ら海外移住した場合、基本的には日本の社会保障制度を活用することができません(国民年金については、強制加入から任意加入となります)。

一方、住民票を除票して非居住者になると、日本の金融機関を使うことが困難になります。一般的には海外移住する前には「海外渡航届」を各金融機関に提出する必要があります。一部の金融機関では、非居住者になっても口座の維持や送金に対応する金融機関もありますが、ごく少数に限られます。

一般的には非居住者に対して金融サービスを行っていないので、もし「海外渡航届」を提出していなくても、その後の銀行間取引で金融機関に非居住者であることがバレてしまって、口座を凍結される可能性もあります。

日本の住民票を除票するか否かについては非常に重要な判断となりますので、専門家の意見も取り入れながら慎重にご判断されることをオススメします。

住民票を除票してしまうと…お金にまつわる「困ること」

日本の住民票を除票して海外移住をした場合、お金にまつわる「困ること」を具体的に紹介します。

1. 日本の金融機関から金融サービスを受けられなくなる

昨今は世界的にアンチマネーロンダリングに取り組んでいるため、日本人であっても非居住者であれば日本の金融機関の金融サービスは受けづらくなります。銀行や証券などの口座の維持ができる金融機関は少数ありますが、あらたに金融商品を購入したり、新規で口座を開設したりすることはできません。

つまり、非居住者として海外移住する場合は、海外の金融機関と付き合わざるを得なくなるのです。

2. 日本独自の税制優遇制度が使えなくなる

資産形成にあたり、日本独自の税制優遇制度で代表的なものはNISAとiDeCoが挙げられます。

NISAには日本人の居住者であることが条件となっているため、非居住者はNISAを活用することができません。また、iDeCoは国民年金に加入していることが条件となっています。非居住者の場合、国民年金は強制加入から任意加入に変更となります。任意加入をしていればiDeCoを活用することができますが、そもそも年金不安がある日本で年金制度に加入する必要があるか否かの判断が必要になります。

3. 日本円以外の通貨で決済や資産形成をしなければならなくなる

当然ですが、海外移住をすれば現地通貨で決済をしなければなりません。日本から生活資金を送金する場合、その都度煩雑な海外送金をすることになります。そもそも日本の銀行口座を維持することができない可能性もあります。

また、資産形成をする際にも海外移住先がヨーロッパやアメリカであれば国際基軸通貨で資産形成ができますが、東南アジアを代表とするマイナー通貨の国や金融インフラが乏しい国で資産形成をしなければならないケースもあります。エマージング通貨はボラティリティが大きく、不安定なことが一般的です。国際基軸通貨よりも弱い通貨での資産形成は安全・安心とは言えません。

まとめ

海外移住をするとお金にまつわる「困ること」が発生します。特に日本の住民票を除票して非居住者になった場合は、本記事でご紹介した困ることに該当する可能性が高いです。

海外移住をする前にもっとも重要な判断が、住民票を除票するか否かです。それぞれのメリット・デメリットを理解した上で判断するようにしましょう。特に税金については税理士などの専門家に相談することをオススメします。

海外移住をしても教育資金、老後資産、万が一の備えなど、資産形成から逃れることはできません。それは、日本の居住者であっても、非居住者であっても変わることはありません。置かれている環境の中でもっとも自分に適したお金を管理する環境を整えて、海外移住に取り組むようにしましょう。

村上 年範

レディ・テック株式会社 代表取締役

(※写真はイメージです/PIXTA)