徳川家康をはじめ戦国時代の人物たちにインスパイアされたベストセラー小説をハリウッドでドラマ化した「SHOGUN 将軍」が、ディズニープラス「スター」で独占配信中だ。「関ヶ原の戦い」前夜を舞台にした本作は、『トップガン マーヴェリック』(22)の原案を書いたジャスティンマークスがエグゼクティブプロデューサー、真田広之もプロデューサーと主演を務めた超大作。陰謀と策略がうずまく群像劇と、激しいアクションを満載した歴史エンタテインメントである。MOVIE WALKER PRESSでは、本作の配信開始にあたりハリウッドから来日した真田へのインタビューを実施。役作りからプロデュースするうえでのこだわりまで熱く語ってもらった。

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■「リスペクトしたのは小説。史実よりもシナリオに忠実であることを第一に考えた」

1600年の日本。太閤が世を去り1年、諸国は5人の大老によって治められていた。その1人で、関東を治める吉井虎永(真田)は、同じく五大老大坂城城主、石堂和成(平岳大)の策略でほかの大老たちと対立関係に陥っていた。そんな折、虎永の領地に漂着したオランダ船に乗っていた英国人で、のちに按針と呼ばれるジョン・ブラックソーン(コズモ・ジャーヴィス)は虎永と運命的な出会いを遂げる。

本作はジェームズ・クラベルの小説「将軍」が原作。本作で真田が演じる虎永は、徳川家康インスパイアされたキャラクター。宿敵である石堂は石田三成がベースになっており、「関ヶ原の戦い」に向けての各陣営のせめぎ合いが物語の背景に流れている。

戦国時代に興味を持ったのは、15、6歳のころに読んだ徳川家康が主人公の小説だったという真田。虎永の役作りには、長い俳優生活のなかで何度も戦国武将を演じてきた経験が役に立ったという。「これまで家康は1度(89年のドラマ「織田信長」)、石田三成は2度(88年のドラマ「徳川家康」、96年の大河ドラマ「秀吉」)演じさせていただいたので、戦国時代のバックグラウンドに関しては学ぶ機会が多かったですね」と振り返る。「浅井長政などほかにもこの時代の武将を演じたこともあったので、役作りの基本は自分のなかに入っていました」。

ただし演じるにあたっては、歴史を再現することよりエンタテインメントであることを第一に考えたという。「やはり原作がありますから、リスペクトしたのは小説です。史実に忠実にというより、今回自分たちが作り上げたシナリオに忠実であることを第一に考えました。実在のモデルはありながら、あくまでもエンタテインメント。主人公の影を負うのではなく、2024年バージョンの『SHOGUN 将軍』であることを大切にしました」。

■「要望をリストアップし、ある種の条件付きでお引き受けした」

主演だけでなくプロデューサーとしても名を連ねている真田だが、当初は俳優として出演をオファーされたという。「以前お仕事をしたことのあるプロデューサーから、虎永を演じてくれないかとオファーをいただきました。その時に、もし自分が出演するならば、日本人役は日本の俳優が演じるべきとか、時代劇専門のクルーを日本から呼んでほしいなど要望をリストアップし、ある種の条件付きでお引き受けしたんです」と当時を振り返る。『ラスト サムライ』(03)のころから日本の文化を海外に正しく伝えたいと語ってきた真田らしいこだわりだ。

そんな真田の意向を取り入れ準備が進められたが、プロジェクトは一度座礁してしまったという。「その後ジャスティン(・マークス)が参加することになり、オーセンティックな作品にするため製作にもかかわってほしいと彼からお話をいただいたんです。海外作品でも、日本を題材にするなら日本人が観ても納得できるものにという想いが強かったので、プロデューサーとしても参加することになりました」。

長く時代劇や日本舞踊(ぶよう)を学んできた真田は、美術や衣装からセリフに至るまであらゆる面に目を配ったという。「大切にしたのは、可能な限りステレオタイプの描き方を避けること。西洋化や現代化をせず、舞台である1600年という時代を忠実に描くことにはこだわりました。トレンドな表現をせず王道で貫くことで、ユニバーサルなテーマとして海外の観客に受け入れられるのではないかということです」と語る真田は、時代劇だからこそ伝えられるものがあるという。「現代劇ではちょっと照れて言えないようなことも、ストレートにポンとぶつけられる。それは時代劇ならではですね。また精神性も含めた日本の文化、美学も現代劇より時代劇のほうが伝えやすいんです。そういったものを広く海外に発信することに意義があると思います」。

■「浅野君とはあうんの呼吸で、徳馬さんとも長年の信頼関係をにじませることができた」

英国で活躍しているジャーヴィスはじめ、按針の通訳を務める戸田鞠子を演じたアンナ・サワイ、虎永の家臣である樫木藪重を演じた浅野忠信、太閤の側室である落葉の方を演じた二階堂ふみ、虎永の腹心、戸田広松を演じた西岡徳馬ほか、錚々たるキャストが集結した本作。

共演者の印象を聞いてみたところ、「コズモ(・ジャーヴィス)は本当にストイックな役作りをする方で、キャラクターの出身地のアクセントを忠実に再現し、オフでも通したくらいの入り込みよう。撮影時、彼とはトレーラーで部屋が隣同士だったのですが、声を枯らすシーンの前は部屋で大声で叫ぶなどリアルなパフォーマンスをしてくれて、周りにもいい影響を与えてくれました」と絶賛。「浅野君は30年以上、何作も一緒にやってきたので虎永の家臣という関係にはもってこいで、あうんの呼吸でやれました。徳馬さんとも30年以上、敵方の武将や親子などいろんな関係性を演じてきた歴史があるので、その信頼関係をにじませることができたと思います」と明かしてくれた。

演じることのほか、プロデューサーとして現場で共演者のサポートも行ったという。「勇気を持って初めての海外撮影に飛び込んでくださった方もいますので、とにかく皆さんのいいパフォーマンスを引き出すことも自分の役割だと思って臨みました。できる限りシステムの違いを説明したり、海外スタッフとの仲介や通訳など環境作りに努めました。皆さんもそれに応えてすばらしいパフォーマンスをしてくれました」と称えた。

■真田が「SHOGUN 将軍」を作る原動力「いまこそ、徳川家康のようなヒーローが必要」

本格アクション俳優として、10代から数々のアクション映画に主演。過激なスタントをこなすことでも知られる真田は、いまも『ブレット・トレイン』(22)や『ジョン・ウィック:コンセクエンス』(23)など多くの作品でキレ味鋭いアクションを見せている。本作でも研ぎ澄まされた殺陣を演じた真田に、トレーニングや体力維持方法について聞いてみた。「やっているのは柔軟性を養うことと、体力をキープするための運動です。ストレッチ、ウォーキングなど軽い筋トレはしていますが、もう年なので昔のようにハードなトレーニングはしないんですよ(笑)。基本は常にプレーンでいること。作品次第で、肉をつけるも痩せるのもどうにでもいけるよう体や健康をキープすることを心掛けています」と秘訣を明かしてくれた。

全10話で配信される「SHOGUN 将軍」。真田は本作品をエンタテインメントでありながら、いまだからこそ響くメッセージを持った作品でもあると語る。「初めてこの作品のオファーをいただいた際、『なぜいまなのか?』と考えた時に、虎永のモデルである徳川家康という存在に思い至りました。戦乱の世を終わらせ平和な時代を長きにわたって築いたという、それがとても大きいと。世界が大変な時代を迎えているいま、このようなヒーローこそ必要ではないかと思ったんです。平和を築いた男を描くことによって、メッセージを発信できる。それが『SHOGUN 将軍』を作る原動力になったんです」。

取材・文/神武団四郎

西岡徳馬の「徳」は旧字体が正式表記

「SHOGUN 将軍」で主演&プロデューサーを務めた真田広之を直撃!作品に込めた想いを熱く語ってもらった/撮影/黒羽政士