ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測によって、宇宙の錬金術が目撃された。中性子星が衝突し融合する時、金を含む重たい元素が生成されていたのだ。
国際的な研究チームが「ガンマ線バースト」と呼ばれる異常に長い高エネルギー線を分析。その結果、この放射は2つの中性子星が衝突した際に発生したことを突き止めた。
さらにこの衝突に伴い発せられる「キロノヴァ」という明るい閃光が観測され、これにより衝突現場で金を含む鉄よりも重い元素が生成されていることが確認された。
「ガンマ線バースト(GRB)」とは、数秒から数時間にわたって続くガンマ線の閃光で、宇宙でもとりわけ強力なエネルギーの爆発である。
ガンマ線バーストには2種類ある。1つは2秒も続かない短いタイプ、もう1つはそれよりもっと長いタイプだ。
その発生源については、短いガンマ線バーストなら「中性子星の融合」、長いガンマ線バーストなら「重たい星の崩壊」だろうと考えられてきた。
2023年3月に観測された「GRB 230307A」というガンマ線バーストは、長いタイプのもので、200秒間続いた。
ところが今回の研究によって、それが星の崩壊ではなく、830万光年の彼方で起きた中性子星の融合に関係しているらしいことが判明。従来の説をくつがえす発見となった。
・合わせて読みたい→ブラックホールは宇宙の錬金術師。はからずも金を作っている可能性
photo by iStock
中性子星の成り立ち
夜空に輝く星々は、元素を作り出す炉のようなものだ。恒星のコアでは、核融合によって水素からヘリウムができ、ヘリウムは窒素・酸素・炭素のようなさらに重い元素になる。
太陽の7~8倍の質量がある大きな恒星なら、こうしたプロセスによって、その核の中で鉄までの元素が作られる。
だが、恒星のコアが鉄で満たされれば、核融合はそこで終わりだ。そして、それは恒星自身の終わりの始まりでもある。
それまで恒星が自らの重力に耐えられたのは、核融合によって外へ向けて放出されるエネルギーの支えがあったからだ。
だが核融合が終わると星は自分の重力に耐えられなくなり、崩壊する。その衝撃によって起きるのが超新星爆発だ。
この崩壊でコアが変形し、電子と陽子が押しつぶされ、ほとんどが中性子に変わる。だがそれらは、中性子同士が押し返す力(縮退圧)によって、それ以上つぶれることに抵抗する。
[もっと知りたい!→]2つのブラックホールが偶然に衝突し、未だかつてない時空の波紋を広げる
こうして残されるのが、直径20kmほどの超高密度天体「中性子星」だ。もっと大きな恒星では、中性子も重力に耐えきれず崩壊。あのブラックホールが誕生する。
中性子星の融合が金を生み出す
こうした中性子星の中には、中性子星と中性子星が互いの重力で結びつき連星となったものもある。それらがお互いを公転し合うと、宇宙に「重力波」と呼ばれる波紋が広がっていく。
これによって中性子星の連星から回転する力が”漏れて”、だんだんと失われる。
すると2つの星は螺旋を描いて徐々に接近し、最後は衝突する。短いガンマ線バーストはこの衝突によって発生すると考えられている。
このとき中性子もまた散りばめられる。こうした中性子は、その周囲にあった原子核に捕らえられ、「ランタノイド」と呼ばれる非常に重たい元素が作られる。
だがランタノイドは短命で、すぐに崩壊してもっと軽い元素になる。そうして誕生するのが、金や銀のような鉄よりも重い元素だ。
このとき放出されるのが、今回のもう1つのキーワードである「キロノヴァ」という放射線の光だ。
重い元素の崩壊によって放出されるものあるため、キロノヴァを観察すれば、金や銀のような元素の誕生を知る手がかりを得ることができる。
そして過去の研究では、先述したガンマ線バースト「GRB 230307A」が「AT2017gfo」というキロノヴァに関係しているらしいことが明らかになっていた。
宇宙が錬金術をする瞬間を観察
今回の研究チームによると、数週間から数ヶ月の間に、キロノヴァはさまざまな振る舞いを見せるという。
どのような振る舞いをするかは、放出された物質の種類や、衝突地点に残された残骸の種類に左右される。
だからキロノヴァを観察すれば、そこに何があるのか推測することができる。
ところが普通なら、キロノヴァのプロセスの一部始終を観察することは難しい。これまでは、それがキロノヴァ研究のハードルだった。
その点、AT2017gfoは特別だ。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡のおかげで、プロセスの終わりの方まできちんと観察できたからだ。
研究チームは、ガンマ線バーストの発生から2ヶ月後まで観察し、キロノヴァの光が青から赤へと変わる様子をじっくりと眺めることができた。
また光の半径が後退していることも観察できた。これは温度が冷えるときにランタノイドのような重元素が再結合していることを示す証拠であるという。
こうしたことからわかるのは、金のような重い元素が、中性子星の衝突・融合によって本当に作られているということだ。宇宙が錬金術をする瞬間がまさに目撃されたのだ。
そして意外なことに、これまで星の崩壊によって生じるとされた長いガンマ線バーストが、中性子星の衝突・融合から発生するらしいこともわかった。
これは従来の理論をくつがえす発見だ。ただし、なぜ衝突によるガンマ線バーストが、これほどまでに長く続くのか、その理由は今のところ謎に包まれたままだ。
こうした謎を解明するため、いずれ長いガンマ線バースト、キロノヴァ、重力波を一緒に観測することが必要であるとのことだ。
この研究は『Nature』(2024年2月21日付)に掲載された。
追記:(2024/02/24)本文を一部訂正して再送します。
References:James Webb Space Telescope finds neutron star mergers forge gold in the cosmos: 'It was thrilling' | Space / written by hiroching / edited by / parumo
コメント