これまで理論上のものだった「ブラッグガラス相」という奇妙な物質の相が、現実の物質で確認されたそうだ。
ブラッグガラス相は、ガラスのような特徴がありながら、ほぼ完璧な結晶となっている、なんだか矛盾しているような奇妙な状態のことだ。
これまで理論的には存在が予測されながら、本当に存在するのかどうか不明だったが、コーネル大学をはじめとする物理学者チームがついにそれを確認した。
それはテルビウムとテルルの層の間にパラジウムを差し込んだ合金「PdxErTe3」の中に隠れていたのである。
ここでの「相」とは、物質を構成する原子や分子が並んでいる様子を表したものだ。
たとえば「長距離秩序相」とは、原子がどこまでも整然とした規則的なパターンで並んでいる状態のことだ。
その反対に「無秩序相」なら、原子はごちゃまぜで、規則的なパターンはない。たとえば、水のような液体がそうだが、ガラスのような固体なのに無秩序な物質もある。
「ブラッグガラス相」はその中間にあるもので、ガラスのような特徴がありながら、ほぼ完璧な結晶となっている相だ。
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過去の研究によって、無秩序なところでの渦糸格子や電荷密度波系において発生すると予測されていた。
image credit:Mallayya et al., Nat. Phys., 2024
ブラッグガラス相の発見
コーネル大学などの研究チームは、この奇妙なブラッグガラス相は「電荷密度波(CDW)」がある物質で見つかるのではと考えた。
電荷密度波とは、物質の電荷密度が周期的に高くなったり低くなったりして、波のように見えることだ。ひとまず電子の分布の「波」と理解してもらいたい。
3種の相では、電荷密度波の振る舞いがそれぞれ違っている。
たとえば秩序相では、波とその構造との相互が無限に続いていく。その反対に、無秩序相では、波の相関が無限には続かず、どこかの距離で壊れる。
ブラッグガラス相の場合、波の相関がきちんと崩れる。ところが、それがあまりにもゆっくりしていて、まるで無限に広がるかのよう見える。
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現実にブラッグガラス相かどうか確認するには、実験データからその微妙な違いを検出せねばならい。これはそう簡単なことではなかった。
ブラッグガラス相探しの対象となったのは、「PdxErTe3」という特殊な合金だ。これは数年前にSLAC国立加速器研究所とスタンフォード大学の研究者によって念入りに調べられ、幻の相発見の有望な候補とされていた。
研究チームは、PdxErTe3にX線を照射し、物質内部で起きた光の回折を測定。さらに秘密兵器として利用されたのが、その解析を担当した機械学習ツール「X-TEC」だ。
これによって電荷密度波のピークが何千も調べられ、これに基づき、それまで理論上のものだったブラッグガラス相の実在が確認された。
長距離秩序相、ブラッグガラス相、秩序相の特性を示したグラフ/Mallayya et al., Nat. Phys., 2024
とらえどころのない相だが、その痕跡がデータに刻まれていることに気づけたのは、機械学習を利用したツールによるところが大きい。
コーネル大学のEun-Ah Kim氏は次のように語っている。
「機械学習ツールとデータ科学的な視点を用いることで、包括的なデータ分析を通じて繊細なサインを突き止めるという、難問に挑むことができます」
この研究は『Nature Physics』(2024年2月9日付)に掲載された。
追記:(2024/03/01)本文を一部訂正して再送します。
References:Physicists detect elusive ‘Bragg glass’ phase with machine learning tool / Strange Phase of Matter That Only Existed in Theory Turns Out to Be Real / written by hiroching / edited by / parumo
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