「百活習慣」とは、健康なまま100歳を迎えるための生活習慣のこと。「大切な百活習慣のひとつは、ものの考え方にある」と、内科医である奥田昌子氏は言います。奥田氏の著書『「日本人の体質」研究でわかった長寿の習慣』(青春出版社)より、健康寿命を伸ばすために知っておきたい考え方について、詳しく見ていきましょう。

認知症遺伝子のスイッチを切る「意外な方法」とは

大切な百活習慣のひとつが、ものの考え方です。

平均年齢72歳のアメリカ人、約4,800人を4年間観察した研究から、年齢を重ねることを前向きにとらえている人は、そうでない人より認知症を発症しにくいことが明らかになっています。「加齢を楽しめる人たち」と言い換えてもよいでしょう。

肝心なのはここから。この研究に参加した高齢者の一部は、アルツハイマー型認知症の発症率が上がるタイプの遺伝子を持っていました。とくに関連が深いのがApoE4という遺伝子です。アルツハイマー型認知症患者の60パーセントがApoE4を持っているとされ、平均すると70代でアルツハイマー型認知症を発症します。

ところが、同じようにApoE4を持っていても、認知症を発症する年齢や、認知症の進行速度には個人差があり、なかには認知症を発症しない人すらいます。

この研究でも、加齢を楽しむことで認知症の発症率が下がる現象がApoE4遺伝子を持つ人でも見られました。ApoE4を持っていても、こういう考え方をする人は、そうでない人とくらべて認知症の発症率が半分もなかったのです。

別の研究によると、コンピューターの使用や手芸などの手作業にもアルツハイマー型認知症をおさえる効果があり、ApoE4を持つ高齢者がこれらの活動を行うと、何もしなかった場合とくらべて発症率が約57パーセントまで下がることが示されています。

ここにかかわっていると考えられるのが「遺伝子のスイッチ」です。遺伝子にはスイッチがついていて、不利な遺伝子を持っていても、スイッチがオフになれば遺伝子が働くことはありません。

アルツハイマー型認知症と関連する遺伝子のスイッチは、パソコン作業や手芸と並んで、目に見えず、数字であらわすこともできない「加齢を楽しむ」ことによってオフにできるのかもしれません。

百寿者は考え方が根本的に違う

長寿者の傾向として、いやなことがあっても気持ちを切り替えて、おおらかに前を向く人が多いのは確かです。

「健康・体力づくり事業財団」の「全国100歳老人の1/2サンプルの横断的研究」では、百寿者の約8割が、「毎日気分よく過ごせる」「将来に不安を感じていない」と回答し、「さびしいとは思わない」も約6割いました。

きわめつけは、「これからのことに夢や希望を持っている」という人が男性は3割以上、女性も14パーセントいたことです。100歳を超えてなお、将来に夢を抱いているのです。

これと対照的だったのが、内閣府が平成29(2017)年に成人男女1万人を対象に実施した「国民生活に関する世論調査」の結果です。

一般国民のうち、現在の生活に「悩みや不安を感じている」人は3人に2人にのぼり、何が不安かとの質問には、「老後の生活設計」「自分の健康」「家族の健康」などがあがりました。

一般の国民と百寿者の回答が大きく違うのが印象的ですが、ここにも百寿者の長寿の秘密が隠れています。

人生に目的を持つことと死亡率などの関係について、日本とアメリカで別々に実施された10件の調査結果を総合的に分析する研究が行われました。参加したのは平均年齢67歳の13万6,000人を超える人々です。

すると、「人生に目的を持っている」と回答した人は、そうでない人とくらべて、7年以上にわたる調査期間中の死亡率が17パーセント低いことがわかりました。他の研究からは、「人生に前向きに取り組んでいる」と回答した高齢者は脳梗塞の発症率が半分であることが示されています。

考え方を変えるのは単なる気休めではなく、健康寿命と平均寿命を実際に延ばします。困難にみまわれても、「大丈夫、何とかなる」「これからもっとよくなる」と未来に目を向けることを習慣にしてください。これが「4つの習慣」の第4です。

史上最高齢で亡くなったジャンヌカルマンさんも、数々のエピソードを見る限り、自分で人生を作り上げた人でした。若いころにご主人を亡くし、娘さんにも先立たれましたが、有利な年金制度を探し出して経済的にも社会的にも自立した生活を送り、お酒を楽しみ、フェンシングに挑戦し、晩年に寝たきりになっても歌うのが大好きだったそうです。120歳の誕生日には、こう話しています。

「これまでしっかり行動してきたから、人生に後悔はないわね。本当に幸運でした」

奥田 昌子 医師