日本版DBSインタビュー メインビジュアル
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株式会社コドモン(本社:東京都港区、代表取締役:小池義則)は、2024年2月1日(木)に日本版DBSに関するインタビューを実施しましたので公開いたします。


日本版DBSとは/背景


性犯罪歴がある人が子どもと関わる仕事に就くことを防ぐ「DBS」。日本では2021年12月にこども政策の基本方針が閣議決定され、そこに日本版DBS創設が盛り込まれたことから動きが加速しました。こども家庭庁の有識者会議の報告書では、DBS利用は学校・保育所・児童養護施設などに義務づけ、塾や学童クラブ等は任意、確認の対象は性犯罪の前科のみで、不起訴処分や行政による懲戒処分などは含めないとしています。2023年10月16日には創設法案の提出を来年の通常国会以降に先送りすると決め、保育や教育現場での対策強化に向け、防犯カメラの設置費用を公費で補助することなどを表明しました。2022年に成立した改正児童福祉法により2024年4月1日から子どもへの性暴力やわいせつ行為で国家資格の登録を取り消された経験のある保育士について、氏名や生年月日などの記録を一元管理するデータベースの導入も開始されます(https://www.tokyo-np.co.jp/article/308650)。
子どもたちを性被害から守る日本版DBSについて、保育施設職員の方と、政府有識者会議(こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組みに関する有識者会議)メンバーで保育園を考える親の会の普光院亜紀さんを招いて座談会を行い、現場からの課題感を深く知っていただく機会とするため本インタビューを実施いたしました。


インタビュー


*政府有識者会議(こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組みに関する有識者会議)メンバー/保育園を考える親の会(https://hoikuoyanokai.com/) 普光院亜紀様
*幼保連携型認定こども園るんびにこどもえん(https://www.runbini.jp/) 園長 楢﨑雅様
*放課後児童クラブ チアフルキッズ(https://cocosta8.wixsite.com/cheerful-kids) 施設長 久保木翔大様
*聞き手 コドモン広報


■日本版DBSのポイントとは


━━ まずはみなさま自己紹介をお願いしてもよろしいでしょうか。


普光院さま(以下ふ):保育園を考える親の会という子どもを保育園に通わせている保護者のネットワークを主催してまいりました普光院です。一昨年に代表を引退いたしまして今は顧問という立場で運営を支えたり、保護者の相談に乗るといった業務をしております。また、長年保育の問題に携わってまいりましたので、大学で児童福祉の授業も受け持っております。日本版DBSの有識者会議にも構成員として参加してまいりました。本日はよろしくお願いします。


楢﨑さま(以下な):福岡県糸島市にて幼保連携型認定こども園の園長をしております、楢﨑と申します。保育士や幼稚園教諭免許以外に自閉症スペクトラムの子どもたちの支援も専門にしていまして、日常的に直接的、間接的支援等々を行っております。本日はよろしくお願いいたします。


久保木さま(以下く):神奈川県横須賀市にて、学童保育を3施設経営しております久保木と申します。令和2年度から運営しておりまして、 救急救命士という国家資格と、中高の保健体育の教員免許、放課後児童クラブ(学童)を行う上で必要な放課後児童支援員という、3つの資格を活かしながら、お子様のできるを増やすというコンセプトで、目いっぱい遊んで、子どもたちが家に帰ったら疲れて眠くなるような保育を目指して、日夜励んでいるところです。どうぞよろしくお願いいたします。


━━ ありがとうございます。本日のテーマは日本版DBSについて、常日頃子どもをお預かりしていらっしゃる現場の方々の目線で、現状の問題点や課題について教えていただければと思っています。最初に普光院さまから、今議論されている制度の概要を簡単にご説明お願いします。


ふ:ご存知のように、子どものケアや教育をする現場での、性犯罪・わいせつ事件っていうのはあとを絶たないのですが、これに対して非常に世間の関心も高まり、子どもを守らなければいけないということで、令和3年4年に、立て続けに法律の改正等がありました。教職員によるわいせつ事件などに対して、新しい法律として「教職員等による児童生徒暴力等の防止に関する法律」というものができて、教員等が子どもに対する性暴力等を行って免許取り上げとなった場合には再授与しないことが決められました。これを実施するために都道府県を超えたデータベースの整備が進められています。
その後令和4年には児童福祉法が改正され、わいせつ行為などを行なって保育士登録を取り消された者について、禁錮刑以上を受けた者は欠格期間(保育士の再登録ができない期間)を無期限、罰金刑を受けた者は3年間とすることが決められ、それにともなってデータベースを整備して管理することになりました。ただし、これらは結局、教員や保育士という資格、免許を持ってる者だけを管理できる仕組みであり、その他の職に対しては十分ではないという指摘がされ、日本版DBSを早急に検討するようにという付帯決議がつけられました。そこで私も参加した有識者会議が設けられたというわけです。
日本版DBSはイギリスの制度を参考にしています。イギリス犯罪者を厳しく管理する国です。子どもに密接に関わる業務については特別に厳しくて、性犯罪等の前歴がある者は就業禁止とすることが法律で決められています。それを管理するためにこのDBSチェックが使われております。子どもに密接に関わる業務に従事する人を雇用する場合、事業者は本人の了解を得てDBSで犯歴等の有無を照会することが義務づけられています。DBS当局は、その照会結果を就業希望者本人と雇用する側の事業者にも送ります。事業者が、DBSの確認を怠った場合には罰則が科されます。子どもに密接に関わる業務すべてについて、DBSの確認を義務づけているのが、イギリスの制度の特徴です。
私たちは今、頻繁に子どもに関わるわいせつ事件のニュースを目にしています。今回の有識者会議では、保育園や児童福祉施設、学習塾など子ども関連事業を行う様々な業界の方、当事者、専門家の方々にヒアリングが行われました。その全ての方がDBS制度を早く作ってほしいというご希望でした。
当事者や子どもへの性犯罪に詳しい専門家からは、子どもは性犯罪に対する認識が薄くて、自分を守る力を十分に持っていない、信頼する大人や指導者等の立場の強い大人から強制されたり手懐けられるなどして被害を受けてしまうケースが多いということ、被害を受けた子どもは、その後の人生において様々な精神疾患、自責の念、トラウマ、自尊心を回復できないなどの深刻な悪影響が見られ、これは非常に罪の重い犯罪であるということが共有されました。 小児性愛者は一定数いて、その全員が犯罪に至るわけではないけれども、犯罪に至った者にとっては子どもに近づくことが再犯のトリガーになるケースも多い。再犯を防ぐためにも子どもに近づけないようにすることが認知行動療法として有効だという専門家の意見もありました。
今回の有識者会議では、憲法の学者さんも複数いらっしゃって、制度を創設するにあたっては、犯罪等の前歴者の社会復帰が妨げられずに個人情報が守られることが必要だというご意見が強く出ました。そのため日本版DBSでは、公が関与でき情報を安全に管理できる事業者に限定して義務付けるということが決められました。具体的には学校、認定こども園、保育所、児童養護施設など認可を受け、指導監督の仕組みや自治体の関与もある施設には義務づけます。その他の放課後児童クラブ(学童保育)や学習塾、スイミングスクールなどの民間事業は、公が十分に関与できないので認定制度の対象事業者とし、実施したい事業者が認定を受けて実施するという方向性が示されました。ちなみにマッチングサイトのベビーシッターは個人事業主ですので対象外となりました。*
*その後の報道で、マッチングサイト運営事業者は認定制度の対象とすることが報じられています。
照会できる犯歴等の範囲も議論のポイントになりました。日本版DBSでは前科のみを対象とする方針です。前科というのは裁判所が様々な証拠を元に有罪であると判決を出したものですから、不起訴や示談、懲戒処分のケースなどは扱わないということになります。わいせつ事件などは、問題になっても不起訴で終わったり、問題になる前に本人が退職してうやむやになってしまうケースも多いのですが、ここをむやみに広げると、妥当とは言えない判断で人権が侵害されるおそれもあり、やむをえないかと思いました。
認可を受けない民間事業にはDBSは義務づけられないこと、その代わりに事業者が自主的にDBSに参加する認定制度が実施されること、犯歴等の範囲が前科のみになったことなどが報道でも大きく扱われた部分かと思います。


━━ 普光院さま、どうもありがとうございます。問題点をわかりやすくご説明してくださってありがとうございました。これはいち保護者としての私の感想になってしまいますけれども、子どもを守るためという観点でいうと、もうちょっとやれることはあるんじゃないかなって、まだまだ伸びしろがあるように感じていますし、ニュースに対する反応や世論も同じ論調だと認識しています。こういったところを踏まえて、当事者の施設のみなさまとしてはどのようなご意見か聞いてみたいと思います。


■現場から見た課題感は


な:私も日本版DBSにすごく賛成しております。先ほども出ましたが小児わいせつ型の前科を有する者の再犯率は13.9%で他の犯罪に比べて高いということも数字として出てますので、公的な認定制度や照会できるようなものがあると施設側としても助かります。実際のところ、認可の保育施設であったとしても、保育施設そのものにいろんな課題があったりする場合もあると思います。特に今、保育士不足という課題もある中で、何を根拠に採用もしくは不採用にするのかっていう線引きの問題があると思います。資格の所持というのは一つ判断軸としてあるんですけれども、現状は子育て支援員や保育補助という形で入職することも可能な状況です。また女性でも小児性愛者はいらっしゃいますので、 女性による犯罪がないとは限らない。そういった中で、やっぱり採用時に判断基準として、照会制度があると非常に助かるなと思いました。
お話をうかがっていて、認定制度の設置で、事業所の自発的要望で制度を利用しない限り対象にならない施設も多いことや、個人事業主は対象外だとか、そういう抜け道があることが大変気がかりです。めんどくさいかもしれないんですが、 子どもに関わる職業の方が資格の更新制度みたいな感じで、 定期的に犯罪歴ありません証明というのが各個人で発行できる仕組みがあると抑止力になるのかなという気はしました。


━━ 今回の制度案には学童が含まれていないというお話が先ほどもありましたが、学童の当事者である久保木さまとしてはどのように考えていらっしゃるか、ざっくばらんにお聞かせいただけると、とても嬉しいです。よろしくお願いします。


く:今回普光院さまのお話を通じて、DBSというものについて深く知る機会を得ることができたら、有益だなと思っています。そもそも放課後児童クラブ(学童クラブ)という施設は、就労が必要な家庭のお子様を放課後お預かりする場所で、 保育園の延長線上にあります。そして現状、子どもが主体的に施設を選ぶことはなかなか難しい環境であると思います。社会課題として学童の待機児童問題があり、放課後児童支援員の人材不足が騒がれていて、そもそも地域に存在する放課後児童クラブの施設数や、その中で見守る大人の数が不足しています。「やっと入れた放課後児童クラブ」ということで、一度入った施設を変更するのはご家庭にかなり負担がかかるということもあり、お子様が勇気を持って声をあげても、なかなか希望を聞き入れてあげられないケースも表に出ないだけで多いと思います。
学童を運営するにあたって1つの支援の単位と言われる、40名程度の小学生に対して職員を2人配置する必要があります。そのうち1名が公的な教育を受けた放課後児童支援員である必要があるのですが、もう1名に関しては、専門の教育や研修を受けていない、一般の方が学童の職員に容易になれるのが日本の実情です。経営者として、また私自身も現場で働く支援員として4年間携わっている中で、「小児わいせつの犯歴がないかどうか」を何を持って判断するかに非常に気を揉んでいます。現状本人からの自己申告による履歴書などから判断する他なく、面接の際に過去の経歴や想定問題の質問をして、本人の受け答えの様子から判断するなどしている現状です。つい先日も男性職員の採用面接の際に、「実は面接時に勤めている他の学童で、保護者からお叱りを受け、トラブルになった事がある」というようなことが面接の中で実際に判明し、非常に綱渡りだというのを実感しているところでございます。
また、放課後児童クラブの生活の中においても、アレルギーや児童の身体の状態を確認しなければいけない場面(着替えが必要な時や身体の発育の過程で保護者に報告が必要な際)もあります。そういった時に女性職員に適切な時点での引き継ぎや、その時の丁寧な判断ができる人材を採用することが児童を守る上で大事になってきますので、この点においてDBSは非常に有用ではないかと思っております。


━━ 安全な方を採用する際の判断基準が、現場に責任が丸投げされてしまっている状態で、いざ事件が起きたときに、責任を追及されるっていうような動きも当然起きてしまうわけですし、そういった面からも早急に整えたほうがいいなと感じました。 DBS制度がないことで、現場で課題を感じている、困ってるところが他にもあるようでしたらぜひ教えてください。


な:日本の保育所の園長は特に指定の資格がなくてもなれちゃうんです。実際にこれも課題の1つであって、保育士さんとか従業員のほうにばかり焦点が当たりますけど、園長とか事業主の方が事件を起こしてしまう可能性は0ではなくて、雇用主・事業主に関しても必要性を感じています。先程久保木さんもおっしゃってましたが、男性職員が女児の排泄のお世話をする場合、それが0歳児であったとしても、抵抗のある保護者はいらっしゃいます。また逆のケースもあって男児の場合、女性職員がチェックすることを恥ずかしがる場合もありますので、 そこはちゃんと子どもの意思や保護者の意見を尊重しないといけないと思っています。1つ、ちょっと危惧してるのは、やはり男性に対しての視線が厳しくなりすぎちゃって、この業界から男性を排除するみたいな風潮になっちゃうとちょっと怖いなというのは感じました。


━━ ありがとうございます。男性職員を排除することに繋がるのはよくないっていうのは、ほんとにその通りですね。ちょっと聞きたいなと思ったのは、お子さんがまだ意思表示できないぐらい小さい男児の場合に、女性の保育士さんがケアすることに抵抗のある保護者さんっていうのはいらっしゃるんですか。


な:これは結構バイアスも強いかなとは思うんですけど、保護者は女性がお世話する分には構わないという方がほとんどです。


━━ ありがとうございます。


く:現状は採用面接の際に「どういった事情で前職を退職されたか」というところを、かなり深く聞かなければなりません。一定の基準があれば、少なくとも「性的なトラブルが理由でやめたのではないこと」は分かるで、こちらとしても安心できます。また採用される側の立場としても身の潔白を証明することができ、非常に有用だなと思っております。


■制度が迅速に広く保護者にまで普及することで有効性が高まる


ふ:有識者会議で、DBSはできる限り範囲を限定せずに行うことが必要だという議論がありました。ヒアリングで学習塾の方が危惧されていたのは、学校などが義務づけになって前歴者などに厳しく対応するようになると、そういう目的で子どもに近づきたい人たちがそれ以外の事業に流れてくるのではないかということでした。学習塾、認可外や学童保育、ベビーシッターなどに…。
そのためには、認定制度が迅速に広く普及することがとても重要になると考えています。有識者会議では「小さく始めて大きく育てる」ということが委員の間で言われたのですが、当面発足したばかりのこども家庭庁でいきなり全部を対象とするのは難しいという判断などもあったのではないかと思います。小さく始めて小さいままになってしまうと、保護者もDBS制度をよく知らないまま過ぎてしまい、事業者も保護者が気にしないなら別に認定制度に参加しなくてもいいかみたいになり、不発に終わってしまうおそれもあります。認定制度を導入するなら、早く迅速に普及させて、利用者にも周知して、利用者の間で塾を選ぶならDBS認定受けているかどうかを確認しなくてはと話し合われるような、そんな常識がつくられなければなりません。だから、早く周知、 普及させて、より多くの事業者が認定を受けるように、制度を育てなければならないのですが、果たしてそういう体制になるのかどうかということをとても心配してます。
義務づけでも認定制度でも同じなんですけれども、一旦DBS制度を開始したら子ども関連業務に従事する職員の採用の時には必ずDBSの照会を事業者にしてもらわなければなりません。また、DBSの照会を行うと事業者に犯歴情報が開示されますので、事業者側はその個人情報が厳密に管理しなくてはなりません。そういった事業者の管理や指導がしっかりできるのかどうかも、実は心配しています。
先ほど楢崎先生がおっしゃった、子どもに関わる職につきたい人が個人で登録するような制度の提案もあります。そのためには、イギリスみたいに、子どもに対する性犯罪の前歴がある場合にはその人を採用してはいけないという法律をつくっておく必要があります。その上で、子ども関連業務への従事希望者は、私は犯歴はありませんというDBSの証明を個人で申請してつくります。就職や転職の場合には自分でこの証明を取ってきて提出する。証明される内容は「犯歴がない」ということだけになります。このほうが気軽で簡単だし、事業者側も照会して情報を預かる負担が小さくなるのではないかと思います。
検討会で懸念されたのは、子ども関連業務とは無関係な会社が、本来だったら要求できないDBS証明を就職希望者に要求するということが起きると人権侵害になるということでした。でも規則を作って、本来の制度とは逸脱した目的でDBSを利用した事業者には罰則を科し、子どもに関係する業務に就業する場合以外には請求されてはならない証明書であることをはっきり広報すれば防止できるんじゃないかと思っています。今後は、そんな方法についても検討されるとよいなと思っています。



■子どもを取り巻く環境を更によいものにしていくには


━━ よりよい制度にするにはどうしたらよいのかなというところもお話しできればと思います。


な:私は指定保育士養成施設で非常勤講師として勤務もしているのですが、保育士や幼稚園教諭も基本的に単位を取得して、実習を終えれば最短2年間で資格が取れちゃうんです。ヨーロッパだと保育士や幼稚園教諭になったりするのに結構時間がかかるんですよね。例えば、ドイツだと、4年間、2年間の座学、その後2年間のインターン、それと試験があります。
同業者からは色々なご意見があると思いますがあえて言うならば、やっぱり園長の何らかの資格か適正検査は必須だろうと思いますし、保育関連の方々が資格を取得するにあたって、もう1段階、1つ上の仕組みがあると、まずそこである程度ふるいにかけることができるのではないかというのはあります。これは多分小児わいせつの犯罪だけではなく、不適切保育なども絡んでくる話だろうと思います。防止策としてその2点は、DBSとあわせて結構重要なものじゃなかろうかと思ってます。


━━ なるほどありがとうございます。楢崎様は違った業種から保育業界に飛び込まれたご経験がおありになるので、広い視野からのご意見をうかがえて大変勉強になります。


く:保育園は放課後児童クラブに比べると比較的歴史が長く、成熟した研修や行政の見守りがあるというふうに私は考えております。放課後児童クラブはまだまだ制度としては新しく、行政の目も行き届かないケースもあると感じます。実際に、「事実ではないのですがうちの放課後児童クラブで、男性職員がトラブルを起こした」というような疑惑をかけられてしまったこともあります。実際は当法人とは全く関係のない施設でのトラブルの事案でしたが、施設長に委ねられる責任が非常に大きいので深刻だなと思っています。放課後児童クラブが今回、DBSの義務付けとならなかったのは、放課後児童クラブの優先度が、保育所に比べて低かったというふうに国に判断されてしまったのだと思っています。なので、保護者の方や児童が使いやすい制度にするのと同じように、放課後児童クラブでも保育園と同じような実情があり、DBSの適用が必要だということを社会に認知されるようになることが大事だと思っております。
普光院さまに2つおうかがいしたいのですが、施策を練っている段階で政策がすぐ開始されるわけではもちろんないことは承知しておりますが、肌感で言うといつぐらいの時期からDBSは始まりそうでしょうか。2つ目はDBS制度が実際開始されると、現在採用している職員さんに対してはどのように適用されるのでしょうか。例えば職員全員スクリーニングしたところ前歴の該当者が確認できた。ただし、試用期間は過ぎていて簡単には辞めさせられない、というようなことも考えられますが、そのような状態がもし生じた際には、法人としては雇用契約で退職にするわけにはいかないのか、それとも採用した段階に遡って経歴詐称にあたり退職させることができるのか…結局放課後児童クラブの職員(事務員を含む)は、子どもの自宅の個人情報や家庭環境(家族構成や両親の勤務場所、勤務時間)などの重い個人情報に触れる機会もあるので、そのあたりはどういうふうに現状検討されていらっしゃるのでしょうか。


ふ:ご質問ありがとうございます。この間こども家庭庁でお聞きしたところでは、この国会で法案を提出する予定で進めているようでした。ただ、法案ができてからも、制度作り、ICTを使ったシステム作りを進めるのに、年単位でかかると思っていますので、例えば2025年度からすぐ、みたいな実現はちょっと難しいのではないかと思っております。
2つ目のご質問で、既に採用した職員はどうなるかっていうことなんですが、実は新規採用の職員についても、現在の制度案では、前歴者を採用するかどうかは雇用者に委ねられてるんですね。そもそもすでに採用して働いている職員については照会は必須ではなくなる可能性もありますが、分かった段階でクビにしなければならないということはなく、雇用者の判断に委ねられるということになっておりました。あとは、事務職員であったり子どもに直接関与しないと考えられる職についてはDBSの照会をしなくていいことになっていますが、私はそこも微妙だなと思っています。例えば、保育園で調理員さんや事務の方だって子どもに関わるケースもありますし、その辺りはちょっと気になっております。
それから、今のお二方のお話で感じたのは、保育士、学童の放課後児童支援員などが不足しているという問題の深刻さです。本当に意欲があって、資質があって、子どもの育つ環境をよくしたいと願い、専門性を追求していくような人材が、この業界にきてくれるようにするということが、まず大事じゃないかなということです。
保育園も今は保育士不足で、選べない、もう誰でもいいから資格がある人きてくれみたいになってしまっている施設もあって、そういうところでは、大丈夫かなって思うような人材でも採用せざるを得ないような状況もあるんじゃないかと危惧しています。実際、過去に不適切な保育をしていてクビにした職員を、 保育士不足でもう1度採用してしまい、その人がまた問題を起こしたという事件を記憶しています。そういう状況は、本当に子どもたちのためにならないので、保育士の処遇改善、配置基準の改善をもっと進めなくてはならないし、学童についても、まだまだ配置も少ないし処遇が非常に低いことも問題になっていますので、そこを改善していかないと、単に厳しくする面だけをいじってもよくなっていかないのではないかと思います。
全体の環境の改善みたいなのも一緒にやっていく。それから、とても印象的だったのは、久保木さんが学童保育を子どもが主体になって選べないってお話をしてくれましたけど、子どもの声を聞いて、子どもが嫌だなと思ったときにちゃんと言えるとか。その前段階としてプライベートゾーンの教育、性教育をするという動きがありますけど、子ども自身に自分を守る力を少しでも早く身につけてもらえるように、人を信頼しながらも自分を守れるような教育をめざしていく、そういうことも必要になってくると思います。
保護者の会をやっていると不適切保育に関して毎年一定数相談があります。最近は報道で騒がれたこともあって、施設や自治体の対応がだいぶよくなったのですが、以前は保護者が何か言っても「指導です」「しつけです」と取り合ってもらえなかったり、市役所も「保育内容や保育方針のことまで口出しできません」と言われることがありました。子どもの人権に関する認識が浅いと感じることが多かったんです。こういう保育、こういう指導っていいんだろうかということを議論して施設の内部で問題が修正されることが一番よいのですが、それがかなわない場合には、保護者や職員からの相談や通報を受ける自治体の窓口が明確にされることも必要だと思っています。


━━ ありがとうございます。近い将来この制度がちゃんと形になった時に、現場の運用にどのように役立てたいかというところを、うかがえればなと思います。


く:認定制度でちゃんとチェックを受けていると公に出せるのは非常に有益だと思っております。これが他の事業所さんでも広がって後ろ盾を得られるのは運営上非常に強みになると思います。


な:教員免許の場合はすでに照会ができるシステムが整っておりまして、基本、幼保連携型の認定こども園の場合は、保育士資格と幼稚園教諭免許両方持ってないといけないので全員スクリーニングしました。そしたら見事に引っかからなかったです。入職時、入職後も定期的にスクリーニングをかけてっていうことができればいいと思いますし、保護者目線だと園を選ぶ時にちゃんとDBS利用や認定受けてますという発信があると安心材料になるのかなと思いました。急いで整備していただきたい一方でその難しさもわかりますし、本当にできることなら子どもに携わる人は全て義務化するっていうのが1番理想的だなと思いました。


━━ ありがとうございます。 保護者の方の認知も一斉に最初に広げることがすごく大事な制度だなというふうに私も感じています。保護者がそこを気にするようになって、自分の子どもを通わせる施設を選ぶっていうことができてくるようになると、すごく抑止力にもなると思いました。


ふ:DBS登録しますと、非常に重たい個人情報を受け取ることになってしまうと思うんですけれども、その点に関してみなさんはどんなふうに感じられてますか。


く:そうですね、犯歴という本来は隠すべき情報で重たいことではありますので、採用のプロセスの中でどの職員までが閲覧するのかをしっかり決めて、その上で採用に関わる者が1人で判断をしないで、またその情報を広めない対策っていうのをとっていく必要があると思いますので、しっかりと施設ごとに合理的で人権配慮がしっかりと行き届いた基準を整備する必要があるなと思いました。


な:実務においてすごく難しいなって思うのは、DBSで照会した内容は大変重いものなので、組織の中でどこまでその情報を共有するかっていうところですね。教員免許のスクリーニングは、初期登録時に理事長名義で法人登録を行い、それから認定を受けて初めてこちらにIDとパスコードが割り当てられて検索するという形になるんですが、果たしてDBSの場合はじゃあ、理事長止まりで済ますものなのかルールづくりが難しいなと思ってます。
教員免許のほうに関しては、犯歴詳細ではなくて適合か不適合かみたいな感じの簡単なものなんですが、犯歴の詳細までになってくると、例えば提携している司法書士や弁護士の立会いの元で検索するというようなことも選択肢の1つとして入れておかないといけないのかなと思います。


■小児わいせつ犯罪に関しては、 子どもの人権を何よりも優先してほしい


ふ:ほとんどの方は犯歴にヒットしないし、ヒットするような方は、応募はしてこられないとは思うんですけど、万が一照会してヒットしたら施設側でそういった情報は扱いかねるのが正直なところだと思います。だから、本当にイエス・ノーだけだったら、なにかの事情があってそういうこと巻き込まれたのかもしれない、くらいの余白を残しておけるので、もう少しシンプルな、政府の外に重大な個人情報を出さないようなシステムにしたほうが、みんな使いやすいんじゃないかなと思ってます。もう一つ共有しておきたかったのは、犯歴のある方の人権に配慮しなければならないのはその通りなんですけれども、専門家の方がおっしゃっていたのは、性犯罪を含む依存症系の犯罪は、その欲求をそそられてしまう対象に近づかないということが再発防止の大変重要なポイントであるということでした。DBSは職業選択の自由を侵害する制度だみたいなご意見も非常に強かったんですが、 逆に本人を助ける、今後の本人の社会復帰を順調にするための施策として考えることもできるのではないかと思います。それも1つのこの制度の趣旨にしてもよいのではないかというふうに思っています。
この制度が実施されることによって、子どもの人権や尊厳を大事にすることについて、現場でもっと議論ができるといいなと思います。こういうことをされると嫌な子どももいるよねとか、そういった議論が現場でされるきっかけになったらいいなと思っております。


な:そこはセットで議論が深まってほしいと私も感じています。我が国は子どもの権利条約も批准は早かったのに実情は長い時代こどもの権利が軽視されてきたというところもありますし。性教育に関しても、タブー視されてきたところがあるかなと思います。それらをふまえて、私たち実践の場レベルで日頃気をつけていかないといけないことで、日常に落とし込まない限り、制度がいくら整ったとしても同じことを繰り返すと思いますし、似たような別の形の案件で出てくるかなとおもいます。犯歴のある方の人権ももちろん考慮しないといけないんですけれども、小児わいせつに関しては、 犯歴のある方よりも子どもの人権を上に持ってきてもいいんじゃないかなというのは個人的に思っております。


ふ:一般論として、やはり子どもの人権に対する意識の低さが日本社会にはありますね。


く:暴力や性暴力は、被害を受け心に傷を負った人間が「私はやられたから、私もやっていいんだ」となりかねないと思いますし、しっかり根元を断つためにも、非常に厳しい制度を作って欲しいです。1回でも他人を傷つけてしまったら、こういう目にあうのだなっていうのを、抑止力としてしっかりと作っておくことが、犯罪に手を伸ばさないきっかけになるように、しっかりと重たいものを作っていただきたいと本当に思っています。そして、決して簡単なことではないですが、そのことを社会に普及させるために一番効果的に発揮するには、放課後児童クラブも学校や保育園と同じタイミングで導入できるように、子どもの立場に寄り添い、勇気ある政府の判断・対応が必要だと思います。


【株式会社コドモン 会社概要】


◆所在地:東京都港区三田3丁目13−16 三田43MTビル 3F
資本金:68,250,000円
◆代表者:代表取締役 小池義則
◆WEB:https://www.codmon.co.jp/
◆事業内容:子どもを取り巻く環境をより良くするための事業を手掛け、働く人にとっても働きやすい組織づくりを体現。子育てに優しい社会に変わるよう多角的に環境整備を行い、社会に貢献する。
◎こども施設職員の労働環境を整え、保育・教育の質向上を支える子育てインフラとしての保育・教育施設向けICTサービス「コドモン」の開発・提供。2022年度のサービス継続率は99.7%。2024年1月初旬時点で、全国約17,000施設、職員約35万人が利用。全国約482の自治体で導入および実証実験の導入が決定。導入施設数・自治体導入施設数・契約自治体数でシェア1位(2024年1月株式会社東京商工リサーチ調べ)。
◎保活中の保護者や求職者と保育・教育施設をつなげる採用・園児募集支援サービス「ホイシル(https://www.hoicil.com/)」の提供。こども施設が簡単に施設の魅力を発信でき、保育学生や再就職希望者が採用情報にアクセスしやすいような情報提供を行う。
その他、保育園向け写真ネット販売「コドモンプリント(https://www.codmon.com/print/)」こども施設を対象とした専門のECサイト「コドモンストア(https://store.codmon.com/)」、現場で働く保育者の資質や専門性向上を目的としたオンライン研修サービス「コドモンカレッジ(https://college.codmon.com/)」、こども施設職員への福利厚生サービス「せんせいプライム」などを展開。


<<お問い合わせ・ご質問等>>


株式会社コドモン 広報
press@codmon.co.jp
070-5594-4554
TEL: 03-6459-4318
FAX: 050-3737-7471


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