東京都の男性弁護士(30代)が、司法修習生だった時に長時間にわたって文章を手書きするよう指示されたことで精神的苦痛を受けたなどとして国を訴えた。

1審の山形地裁は訴えを棄却したが、男性は控訴した。弁護士になった今もなぜ争い続けるのか。そこには法曹を育てる今の制度にある「大量の手書き」重用への強い疑問があった。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)

●手書き前提の仕組み「文字のきれい、汚いでハードルが変わるのはおかしい」

訴状や判決文によると、男性は2022年4月、司法修習生として実務の研修を受けていた山形地裁で刑事裁判に関する文書作成を指示され、5時間にわたって答案用紙12枚分を手書きした。

数日後、首から右腕に痛みが生じ、約2カ月のけがと診断されたため、精神的苦痛を受けたなどとして国に約140万円の損害賠償を求める裁判を起こした。

オンラインでの取材に応じた男性は、弁護士になった後の業務ではほとんどの場合にパソコンで文書を作成していることから「手書きではなく、もっと実務に近い形でやるべきではないか。今回の訴訟は問題提起をする意味もあった」と話した。

そもそも男性は現行の司法試験に対しても「文字のきれい、汚いでハードルが変わることはおかしい」と疑問を感じていた。論文試験は手書きのため、文字が汚いことは採点で不利に働きやすい。実務に関係ないにもかかわらず「時間内で読める字を大量に書ける人が受かりやすい試験でよいのか」との問題意識だ。

「弁護士はパソコンで書くので、文字がきれいか汚いかは実務には全く関係ない。にもかかわらず、それによって試験で求められるハードルの高さが違うのはおかしいと思います。パソコンに変えた方が合理的でより適正な選抜ができる」

司法試験に合格した後ですら、司法修習で本来実務には必要のない大量の手書きを求められた。そのことに男性は強い疑問を感じ、2022年5月、提訴に至った。

●国が司法試験でパソコン受験に切り替え 「すごく良い方向」

山形地裁は2024年2月、次のように男性の訴えを退けた。

「健康上の理由で手書きが困難な者には事前の申請によりパソコンによる答案作成を認めている」

「法曹の養成過程における試験でのパソコン使用の実現には、 確実な不正防止や職員の負担、予算の制約といった検討を要するが、原告が答案を作成した時点でこれらの検討課題が解消していたことを示す証拠もない」

一審では敗訴したが、提訴した意義を感じる出来事もあった。

裁判最中の2023年6月、国が2026年の司法試験からパソコンでの受験に切り替える方針を明らかにした。男性は「日本の司法試験のパソコン受験切り替えに、私の訴訟がどの程度影響できたかは分からないが、すごく良い方向だと思う」と述べた。

司法修習の「大量の手書き」にNO! 国を訴えた弁護士「文字のきれいさでハードルを変えないで」