女優の杉咲花が主演する映画「52ヘルツのクジラたち」が3月1日、全国339館で封切られた。杉咲は共演の志尊淳、宮沢氷魚、小野花梨、桑名桃李、成島出監督とともに東京・TOHOシネマズ六本木ヒルズで初日舞台挨拶。満場の観客に向けて、「皆で議論を重ね、骨が折れそうになる日々でしたが、この現場に関われる幸せを感じながらつむいできました。少しホッとしています」と感慨深げに話した。

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2021年の本屋大賞を受賞した同名ベストセラー小説が原作。親から虐待を受けた傷を抱えた主人公の貴瑚、トランスジェンダーであることを打ち明けられずにいる安吾、母親のネグレクトに遭っている少年らの悩み、葛藤が交錯しそれぞれが希望を見いだそうともがく姿が描かれる。

成島監督は全キャラクターの人生年表を用意し、撮影前に1週間をかけてほぼ全シーンのリハーサルを敢行。宮沢は「皆さんの熱量をコンスタントに感じ、もっと高みを目指そうと自然とモチベーションが上がった」と強調。志尊も、「居酒屋に入るシーンでも、監督からなぜそこに座ったと言われ身が引き締まる思いだった。貴重な経験だった」と振り返った。

小野は原作のファンで、10年来の親友である杉咲との共演に「杉咲花主演ということにビックリしたけれど、原作の素晴らしさを残しつつ、映像として新たな魅力を加える一部になれるようにした」と笑顔。小野から小説を薦められたタイミングでオファーを受けた杉咲も、「いつか花梨と深く交わる共演をしたかった。こんな巡り合わせにご縁を感じました」と喜びをかみしめた。

今月5日に29歳の誕生日を迎える志尊に、バースデーケーキと花束を贈るサプライズ演出も。「公共の場ですいません。命を懸けなければ向き合わなければできなかった作品。僕が歩んでいく中でも背中を押してくれる作品になると思う」と決意を新たにした。

杉咲にとっては、毎日映画コンクールの女優主演賞を受賞した「市子」に続く主演作。再び難役に挑んだが、「すがすがしくやり切ったとは手放しでは思っていない。議論が起こると想像しているし、皆さんの声を真摯に受け止めたい」と決意。その上で、「人の痛みを全て分かることはできないからこそ、その人を知りたい、優しくしたいと思える。この作品が時代を乗り越え、将来見直した時にこんな悲劇が描かれた時代があったと思われたい。私たちは責任を持って届けますので、一瞬でも光を感じていただければうれしい」と訴えた。

覚悟をにじませた主演の杉咲花