南米チリのアタカマ砂漠に住んでいたチンチョーロ族は、紀元前5450年ごろからその地に定住し、世界で最も古いミイラを作り出した。世界的に有名なエジプトのミイラは、紀元前3500年から3200年頃と言われているからそれよりも数千年古いのだ。
チンチョーロのミイラは、乾燥した砂漠地帯という環境と、独特なミイラ化技術によって今日に至るまでその状態を保っている。
チンチョーロ族には独特な葬儀の慣習があった。世界で最も古いミイラを作った彼らの歴史や文化について触れていこう。
ペルーとの国境にある、チリの港湾都市アリカは、世界一乾燥しているアタカマ砂漠の砂丘にある。
16世紀に町ができる遥か以前、ここは先住民チンチョーロ族の土地だった。
2021年7月、ユネスコによって、チンチョーロ族の何百というミイラが世界遺産に登録され、彼らの文化が話題になった。
チンチョーロ族のミイラが初めて記録されたのは1917年、ドイツ人考古学者マックス・ウーレ氏が海岸で人工的に保存された人間の遺体の一部を発見したのがきっかけだった。
だが当時は年代の特定まではできず、実現したのはそれから何十年もたってからのことだった。
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放射性炭素年代測定により、ついにチンチョーロミイラたちは7000年以上前のものであることが判明した。これは広く知られているエジプトミイラよりも2000年以上も古い。
チンチョーロ族の記念碑/ image credit: Yastay / WIKI commons (CC BY-SA 4.0)
チンチョーロの埋葬文化
チンチョーロ族は紀元前7000年から1500年まで続いた先土器文化の狩猟採集民族で、現在のチリ最北端とペルー南部に定住していた。
彼らは、死者を非常に洗練された方法でミイラにして砂漠に埋めた。死者の記憶を絶やさないようにするためにミイラを作り始めたと考えられている。
チンチョーロミイラは、既知の人工的なミイラ化の中で最古の考古学的証拠になる。
チンチョーロ文化の専門家で考古学者のベルナルド・アリアザ氏は、チンチョーロ族は明らかに意図的にミイラ化を行っていたと語る。
乾燥した気候の中、遺体を放置して自然にミイラ化させたのではなく、スキルを駆使して遺体を長期保存するための処置を行ったわけだが、現場からは自然にミイラ化したらしい遺体も見つかっている。
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遺体の体を数か所小さく切開し、そこから内臓を取り出して空洞を乾燥させ、皮膚をはぎ取る。
体内に天然繊維を詰め、支え棒を入れて遺体の体をまっすぐに保つ。それから葦を使って皮膚を縫い合わせる。
チンチョーロ族は大人だけでなく子どもや赤ん坊もミイラにした。
image credit:instagram@delpuertoluces
ミイラの頭に黒い髪の毛をつけたり、顔を粘土や目と口の穴があいた粘土の仮面で覆ったりした。
最後に、鉱物、黄土、マンガン、酸化鉄などの顔料を使って、遺体のボディを赤や黒などはっきりした色で着色する。
image credit:instagram@delpuertoluces
チンチョーロ族のミイラ化技術は、エジプト人とはかなり異なっていたらしい。
エジプト人はミイラ化にオイルや包帯を使い、ミイラにする対象はエリートだけだった。だが、チンチョーロ族は、身分に関係なく男、女、子ども、赤ん坊、胎児さえもミイラにした。
image credit:instagram@delpuertoluces
死者と共に生きる
この100年以上の間に、アリカやその周辺遺跡ではおびただしい数のミイラが見つかっていて、地元の人々は自分たちがミイラの傍ら、ときにはその上に暮らしていることを知るようになった。
建設作業中にミイラが見つかったり、鼻のきく飼い犬が掘り出してきたりといったことは地元の人々が何世代にもわたって経験してきたことだ。
しかし、彼らはこれらミイラがどれほど重要なものであるかをずっと理解していなかった。
子どもたちがミイラの頭蓋骨をサッカーボール代わりにしたり、ミイラの服をはぎとったりしたという話もあったようです。でも今は、彼らはなにか見つけると、手をつけずにそのままにして私たちにちゃんと報告してくれます
考古学者のジャニンナ・カンポス・フエンテス氏は語る。
2021年にユネスコの世界遺産に登録されたことで、地域住民もチンチョーロ文化がいかに重要なのかをようやく理解するようになったのだ。
チンチョーロのミイラを守る
現在、300体以上あるチンチョーロミイラのほんの一部が公開されており、ほとんどはタラパカ大学が所有、運営するサンミゲル・デ・アザパ考古学博物館に所蔵されている。
この博物館は、アリカから車で30分のところにあり、チンチョーロ族のミイラ化プロセスを見ることができる印象的な展示を行っている。
より多くのミイラを収蔵するために、敷地内にもっと大きな建屋を建設することが計画されているが、ミイラが劣化しないよう適切に保存するためにも資金が必要だ。
また、この地域にはまだ発見されていない多くの遺物が眠っていると考えられており、発掘調査にもお金がかかる。
ヘラルド・エスピンドラ・ロハス市長は、ミイラたちが世界遺産に登録されたことで、観光が促進され、文化遺産を保存するための資金が得られることを期待している。
市長は、いかなる開発も地域社会と協力し、遺跡を保護しつつ正しいやり方で行われるべきだと考えている。
「記念碑の上にあるローマの町と違って、アリカでは実際に人々がミイラの上に住んでいるのです。私たちはミイラたちを保護しなくてはなりません」
ここでは都市計画法が制定されていて、建築工事を行うときは必ず考古学者が立ち合い、貴重な遺物が損なわれないようにすることが決められている。
さらに、旅行会社や多国籍企業が観光地から利益をあげるために土地を買い占めているチリのほかの場所とは違って、アリカの遺産は地元の人々の手に残し、地元社会に利益をもたらすようにするべきだと市長は強く主張している。
References:Living with the world's oldest mummies - BBC News / Chile’s Ancient Mummies Are Thousands Of Years Older Than The Egyptians’ | IFLScience / written by konohazuku / edited by / parumo
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