副業に勤しむ人々
副業に勤しむ人々

物価高が続く今、賃金動向が日本経済の明暗を分けそうだ。ところが直近の発表では、実質賃金は2年連続でマイナスを記録したという。大手企業を中心に広がる賃上げはどこまで波及しているのか? 徹底的な現場目線でその実態を調査した!

第6回は本業の給料が上がらないなら、別で稼ぐ!と副業でうまく収入を増やす人々を調査。何かヒントは得られないものか!?【みんなの給与明細 2024年春闘真っ盛りver. Part6】

*本特集に出てくる年収やボーナスは、額面の金額です。すべて個人の取材によるもので、職種や業界の平均値ではありません

■引く手あまたの職業だからこそ、安売りしたくない

・IT人材派遣会社 データサイエンティスト(男/20代半ば)

〈年収〉【額面】550万円
〈冬のボーナス額〉80万円(前年比↑)
〈ベアは?〉あり

勤めていた会社で、IT人材に特化した派遣事業が社内ベンチャーとして立ち上がった際、ピンときて手を挙げたのが今の仕事の始まり。

この時代、ウェブマーケティングと無縁でいられる会社はなく、データサイエンティストとして鍛えられれば当面、食いっぱぐれないだろうという計算があった。ボーナスも基本給も増えている。また、会社には内緒だが、本業とは別に知り合いの事業を手伝って月に10万円ほどコンスタントに稼いでいる。

ただ、業界的にはもう少し給与水準の高い企業がほかにあり、本業の転職がちらつき始めている。

■業績は堅調だが、社内の雰囲気は微妙

・IT企業 デザイナー兼エンジニア(男/30代前半)

〈年収〉【額面】700万円
〈冬のボーナス額〉45万円(前年比↑)
〈ベアは?〉あり

業務効率改善ツールセキュリティツールなどを開発している。UXデザインの担当で、簡単に言えばサービスの見た目や体験をデザインし、実装するのが主な役割。

経営面では、数字上は堅調で社内の雰囲気は悪くないが、良いわけでもない。業績の成長とともに、良くも悪くも大企業感が出てきたことが裏目に出ているのかもしれない。オフィスに行かずとも仕事ができ、リモートワーク手当が出る。

もともと終身雇用の意識は希薄で、5~6年前から副業に精を出し始めた。最近はYouTube関連で仕事を請けている。転職を前向きに検討中。

■なぜ歯科医師はバイトに精を出すのか

・大学病院 歯科医師(男/30代前半)

〈年収〉【額面】600万円
〈冬のボーナス額〉71万円(前年比は転職1年目のため不明)
〈ベアは?〉あり

大学病院の麻酔科で研修医として勤務。それとは別に街の歯科クリニックでアルバイトをしている。ちなみにバイトの日給は2万6000円。

本業も副業も、治療に際して全身麻酔や鎮静が必要な部位に麻酔をかけるのが主な仕事。歯科麻酔は少し特殊な分野なので、インプラントや抜歯など、外科的な治療のときにしか自分の出番はない。

また、終業時刻の読めない仕事である上、緊急手術などでその日の予定が変わることが頻繁にある。さらに、基本的には土曜日も毎週出勤して、患者の術後の経過を確認しなければならない。そう考えると、一応5000円アップのベアはあったが、もう少し労働時間に見合った報酬が欲しいのが本音ではある。

だから副業を求める人が多いともいえるが、卒業した大学病院や研修元にちゃんと筋を通さなければ何もできないので最大限の注意が必要。そのために当該職場でタダ働きすることもある。教授や学閥のつながりがなければバイト先がなかなか見つけられないし、もし勤め先に迷惑をかけて辞めたりすると、今の専門分野を続けていけなくなることも珍しくない。

なお、大学病院などの医局に属することなく、バイトだけで収入を得るフリーランスの医師も多い。

■本は好きでも、出版不況の荒波には逆らえない!?

・書店 経営企画(女/40代前半)

〈年収〉【額面】500万円
〈冬のボーナス額〉40万円(前年比↓)
〈ベアは?〉あり

子供の頃から本が大好きだったので、書店は憧れの職業ではあるのだが、ここ数年の出版不況で業績も給与もイマイチ振るわない。

長らく会社に交渉し続けた結果、評価のタイミングでベースアップしてもらったにもかかわらず、業績連動のボーナスが減額されたため、結局年収は減ってしまった。そのため、知人の会社のコンサルティングをして、副業で年間120万円ほど稼いでいる。

店舗ではなく本部勤務なので、土日や祝日が確実に休めるのはメリット。この時間を生かし、生活のために副業をさらに増やすべきではないかと思案している。だったらいっそ転職してしまおうかと思わないわけではないが、本が好きという思いに変わりはなく、社内の人間関係も良好なので迷ってしまう。

おそらく同僚に同じことで悩んでいる人は少なくないと思うが、業界では名の通った書店であるため、退職に二の足を踏む人が多い印象。

それでも業績の悪さは明らかで、おそらく復調の兆しもないことから、優秀な人材から先に辞めていっている傾向あり。

自分も給料には大いに不満なので、そろそろ考えなければならない。いっそ、独立も視野に入れてみようかと真剣に考えている。

取材/井澤 梓 奥窪優木 友清 哲 西田哲郎 橋本愛喜 東田俊介 室越龍之介 文/友清 哲 イラスト/服部元信

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