新生活を迎える春は、引越しの動きが活発となる。しかし、トラブルもつきもので、「引越し業者のせいで自宅や家財道具に傷がついた」という相談が弁護士ドットコムに複数寄せられている。

引越し後、新居の扉に「ヘコミ」を発見した相談者は、家財にも傷があったことから、運搬中に家財が扉とぶつかったのではないかと考えている。

しかし、業者から「扉の傷は元からあった」「事前に傷がなかったことを証明できない限り、補償はできない」と言われたという。

新築戸建に引越した別の相談者も、外壁塗装に傷を見つけた。引越しを頼んだ大手業者に問い合わせたところ「作業員に確認したが、誰も接触していないと言っている」として、責任はない考えを示されたそう。だが、「引越し前には間違いなくなかった」と憤る。

SNS上でも、引越しで新居に傷が付いたとして、"告発"するユーザーが現れている。

自宅や家財が引越し作業で傷が付いたのに、業者側が「責任はない」という立場をとった場合、泣き寝入りするしかないのだろうか。依頼者が気をつけるべきポイントについて上田孝治弁護士に聞いた。

●【重要なポイント】引越し作業前に動画や写真でできる限り記録しよう

——引越し作業で建物や家財に傷が付いたと考えられる場合、依頼者は業者に賠償などを求められますか

引越しについては、国が定めた「標準引越運送約款」というものがあるので、引越し作業に伴って損害が発生した場合には、基本的に標準約款の定める内容に従うことになります。

この標準約款において、引越し業者は、荷物の受け取り(荷造りを含む)から引渡し(開梱を含む)までの間にその荷物その他のものが滅失・損傷し、また、滅失・損傷の原因が生じたときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負うと定められています。

「荷物その他のもの」とあることから、荷物の損傷にとどまらず、引越し作業中に家の壁や床を傷付けるような行為も損害賠償の対象となります。

ただし、引越し業者が、荷物の荷造り、開梱、受取、引渡し、保管および運送について注意を怠らなかったことを証明したとき、要するに、引越し業者の作業に落ち度がなかったことが証明された場合は、引越し業者は責任を負わないとされています。

そもそも、自宅や家財道具に傷が付いたことについて引越し業者の責任が認められるためには、(1)引越し作業によって、自宅や家財道具に傷が付いたこと、(2)それが引越し業者の落ち度によるものであることという2つの要素が必要になります。

そして、標準約款の定めによれば、(2)については引越し業者のほうで自らに落ち度のないことを証明する必要がありますが、(1)の引越し作業によって傷が付いたことは依頼者が証明しなければなりません。

したがって、引越し作業中に業者によって傷が付いたことが明らかで、落ち度がなかったことを引越し業者が証明できなければ、依頼者は引越し業者に損害賠償を求めることができます。

他方で、引越し業者が、「この傷は引越し作業前からあったものだ」などと言って(1)の要素を理由に責任を否定してきた場合、依頼者側で、引越し作業によって付いた傷であることを積極的に証明できなければ、損害賠償請求は認められないことになります。

そのような事情があるので、引越しを依頼する際には、引越し作業前の部屋や家具の状態を動画や写真などでできる限り記録しておき、作業終了後はすぐに傷が付いていないかを確認したうえで、新たな傷を見つけ次第、引越し業者に申し出ることが重要となります。

【取材協力弁護士】
上田 孝治(うえだ・こうじ)弁護士
消費者問題、金融商品取引被害、インターネット関連法務、事業主の立場に立った労働紛争の予防・解決、遺言・相続問題、不動産・マンション管理法務に特に力を入れており、全国で、消費者問題、中小企業法務などの講演、セミナー等を多数行っている。
事務所名:神戸さきがけ法律事務所
事務所URL:https://www.kobe-sakigake.net/

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