3年余りにわたって逃亡しながらも犯行を重ねていた金澤容疑者。裏社会には彼を英雄視する向きもあるというが、若い組員からは煙たがられているという
3年余りにわたって逃亡しながらも犯行を重ねていた金澤容疑者。裏社会には彼を英雄視する向きもあるというが、若い組員からは煙たがられているという

殺人未遂容疑で重要指名手配を受け、3年余りの逃避行の末に逮捕された指定暴力団・絆會ナンバー2の若頭である金澤成樹容疑者(55)。逃亡生活の道中に、別の殺人事件を起こしたとして逮捕状が出ていたことも明るみとなり、極刑が視野に入る事態になっている。取り調べには完全黙秘を貫き、本人の言葉は漏れ伝わらないが、関係者への取材から血塗られた凶状旅の全容が見えてきた。そこには、「悲しきヒットマン」とも言うべき悲壮感が漂っていた――。

【写真】「絆會」の本部事務所

■ラーメン店主殺害の理由

絆會とは、六代目山口組を離脱して登場した神戸山口組の主力部隊だった面々が、さらに組織を割って出て結成した団体である。金澤容疑者は2020年9月、長野県内で自軍に属していた組長が敵方の六代目山口組へ移籍するのを思いとどまらせようと説得したがかなわず、脇腹に向けて発砲。重傷を負わせて逃亡したとされている。

しかし今月に入って、仙台市内の潜伏先のアパートで逮捕された。そのうえ、逃避行中だった22年1月には水戸市内で、六代目側の組幹部を事務所内で襲って射殺したとして茨城県警が逮捕状を取っており、今後、捜査が進められる。さらには――。

「23年4月22日神戸市内のラーメン店で、店主で六代目側の中核組織・弘道会の直参組長が射殺され、現場の防犯カメラ映像から金澤容疑者が実行犯として浮上しています。現場となった神戸市長田区は、金澤容疑者が忠誠を尽くす絆會の織田会長の自宅がある地域。宿敵の弘道会が自分のボスの家の近くでラーメン店を営んでいるとなれば邪魔です。

ガードが厳しいとされる弘道会の中では、この直参組長は狙いやすかったのでしょう。用意周到に狙われた可能性が指摘されています。」(全国紙社会部デスク

大阪市中央区にある指定暴力団「絆會」の本部事務所。玄関のドアには暴力団対策法に基づく使用差し止めの仮処分について記載された公示書が貼られている
大阪市中央区にある指定暴力団「絆會」の本部事務所。玄関のドアには暴力団対策法に基づく使用差し止めの仮処分について記載された公示書が貼られている

六代目側からすれば仇(かたき)であるはずの金澤容疑者だが、"敵ながらあっぱれ"といった肯定的な声すら聞かれるという。暴力団事情に明るいA氏が絶賛する。

「絆會は、立ち上げ当時は500人以上の構成員がいると息巻いていたが、結成メンバーの主だった幹部連中は旗色が悪くなると去り、解散説が幾度も浮上して、いまや数十人程度と風前の灯だ。

そんな中、組織のために若頭でありながら、死刑を覚悟でシゴトを重ねた。これ、一般企業に例えたら専務クラスが我が身を省みずに敵に突っ込んでいくようなものですよ。貧乏くじを引かされていると分かっていても、男として行く道を突き進んだヤクザの鑑(かがみ)みたいなヤツだと思っている人間は、六代目側にもいるのではないか」(A氏)

■仇敵を狙って潜伏か

定説通りに神戸の事件にも関与しているのなら、2件の殺人と1件の殺人未遂を犯した勘定になる金澤容疑者。この逃避行の足跡から、「どうせ極刑なら何人殺しても同じ。自分の組織の邪魔となる人物は道連れにする」という金澤容疑者の明確な意思すら感じられると関係者は口を揃える。

そんな金澤容疑者の覚悟は、逮捕時の潜伏先が仙台であったことに現れているとA氏は言及するのだ。

「仙台には、六代目側の有望な若手がおり、分裂抗争勃発直後に金澤らが対峙して、繁華街で双方が数十人単位で睨み合ったり、互いに襲撃を繰り返して懲役者を出した経緯がある。金澤の潜伏先のアパートの近くには、この組織の関係者のヤサ(住居)があったという情報もある。

金澤は恐らく、因縁のあるこの組織を次の的にしようと潜っていたのではないか。実際に、アパートからは拳銃と実弾10発が見つかっているからね。この組織が、長田にある織田会長の自宅近くにも本部事務所を構えていていることも、金澤にとっては動機となりうる」(前出A氏)

■極刑覚悟で仲間の奮起を促した見方も

ヤクザが1人射殺すれば概ね無期懲役。2人ともなれば死刑は免れず、実際に執行されたケースもある。そんな危ない橋を、金澤容疑者はなぜ渡ったのか。暴力団事情に明るい別の関係者のB氏はこう語るのだ。

「長野の殺人未遂事件でフダ(逮捕状)が出て、捕まれば20年近い長期服役が待っている。それならば、素直に出頭するよりも、死刑覚悟で自らカラダを懸けて抗争相手に一矢報いる姿をみせることで、後輩たちを奮い立たせ、逆風続きの抗争局面を一転させたかったのだろう。

絆會には、金澤以外にもケンカができる若手がいる。例えば、いまは銃刀法違反で刑務所に服役していて、数年でシャバに出てくる人物などだ。こうした面々が自分の後に続くのを期待したのではないか」(B氏)

組織のために体を張るヒットマンだが、連座するリスクを嫌う若い組員からすれば迷惑な存在であるようだ
組織のために体を張るヒットマンだが、連座するリスクを嫌う若い組員からすれば迷惑な存在であるようだ

後進の奮起に期待を込めて、極刑も辞さずに汚れ仕事を一身に請け負ったとみられる金澤容疑者。しかし、その結末ははかなかった。B氏が同情交じりに打ち明ける。

「金澤のヤサを警察にうたったのは絆會の若いモンで、その名前も飛び交っている。これ以上、金澤や抗争に関われば、報復や殺人容疑の共謀で逮捕されるリスクがありますから。若い衆に自分の後姿を見せて、立ち上がってもらいたくて手を汚したのに、それが逆に裏切りにつながったのだから、金澤は浮かばれないよ」(B氏)

昔であればヤクザ抗争史に名を残す武勇も、若い世代の目には「時代錯誤」と映ったのだろうか。いずれにせよ、一般社会にとっては物騒な話に他ならない。捜査当局による犯行の全容解明が待たれる。

文/大木健一 写真/長野県警、時事通信社、photo-ac.com

3年余りにわたって逃亡しながらも犯行を重ねていた金澤容疑者。裏社会には彼を英雄視する向きもあるというが、若い組員からは煙たがられているという