この世に想いを残して旅立ってしまった人と、遺されて生きていく人――。藤井道人監督によるNetflixオリジナル映画『パレード』(配信中)は、生者と死者のそれぞれが抱く喪失感に寄り添い、愛と希望の物語へと昇華させた、せつなくもやさしい1作として完成している。 “死者たち”を演じる面々に豪華キャスト陣が集結したことでも話題の本作。主人公の美奈子と、彼女に励まされて一歩踏みだしていく映画プロデューサーのマイケルという、特別な絆を育んでいく2人として共演を果たしたのが、長澤まさみリリー・フランキーだ。旧知の仲でもあり、「同志であり、もはや家族のよう」という彼らが、お互いに感じている信頼や、俳優としての魅力、死生観までを語り合った。

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『余命10年』(22)や『最後まで行く』(23)など、次々と話題作を世に送りだしている藤井監督が手掛けた本作は、旅立ってしまった人の目線で、遺された人への想いを描く壮大な愛の物語。瓦礫が打ちあげられた海辺で目を覚ました美奈子(長澤)が、離れ離れになった息子を捜す道中で小説家志望のアキラ(坂口健太郎)や元ヤクザの勝利(横浜流星)、元映画プロデューサーのマイケル(リリー)らと出会い、息子の手がかりを探し求めながら、その過程で各々の心に触れていく様子を映しだす。

■「藤井監督の脚本には、河村さんと育んできた時間が込められていた」(長澤)

――本作のオファーを受けた感想を教えてください。

長澤「人生の“その先の世界”という設定や、自分のやり残したこと、そして自分でも気づいていなかった想いに気づいていく美奈子の感情に、とても興味を惹かれました。『MOTHER マザー』という作品でお世話になったスターサンズさんとまたお仕事ができるということも喜びでしたし、以前から藤井道人監督と一緒にお仕事をしてみたいなとも思っていました。さまざまな役者さんが、どのようにこの登場人物たちを演じるのかということも、とても楽しみでしたね」

――旅立ってしまった人を演じるメンバーには、坂口健太郎さんや横浜流星さん、寺島しのぶさん、田中哲司さん、さらに途中からは森七菜さんが加わるなど、豪華な俳優が顔を揃えました。

リリー「このメンバーと、この世の先の世界を描く作品ということで、それは本当におもしろそうだなと。ぜひ参加したいなと思いました。旅立ってしまった人を演じるメンバーとは、実際に一緒に過ごす時間も長くて。朝から吹きさらしの遊園地にメンバーと一緒にいて、映画のなかのようにどうでもいいような話を空き時間もずっとしていました。撮影が終わると1時間かけてホテルに戻るんですが、また同じメンバーで近所のおでん屋に行って、また、作品やバカ話をしていた(笑)。どこからどこまでが撮影なのかわからないくらいでしたが、おでんを食べていた時間も、メンバーの空気感を作っていたのかなと。意外と映画って、撮影が始まると共演者とコミュニケーションを取る時間が少なかったりするものなんです。でも本作は、彼らと一緒にいるシーンがほとんど。撮影が同時に終わって、映画のことを話し合う時間も持てた。ちょっと合宿のようなものがあったように思います」

長澤「わかります。久しぶりに、子どものころに行っていた映画の地方ロケを思いだしました。映画の撮影って、こういう感じだったよなって。すごく懐かしくもあり、こういう時間ってやっぱりとても大事だな。俳優同士で話す時間って、いい映画を作る空気感につながるものなのかなと感じることができました」

――もともと本作は、スターサンズのプロデューサーである河村光庸さんが2020年ころから企画開発していた作品です。その準備期間に河村さんが急逝し、藤井監督は「河村さんと作ってきた作品をしっかり完成させたい」との想いで本作の脚本に取り掛かり、再構築する形で本作が完成しました。藤井監督が河村さんへの想いや、映画づくりへの情熱を受け継ぐようにして臨んだ作品となりましたが、脚本を読んでどのような印象を持ちましたか?

長澤「私は脚本が少しずつ変わっていく過程も見ていました。藤井監督の書かれた脚本には、ご自身やカメラマン、プロデューサー陣たちの、河村さんと育んできた時間がたくさん込められていて。彼らの結束力を感じるとともに、その想いはとても強く、美しいなと思うようなものでした。そういった河村さんへの弔いの気持ちが込められた作品であると同時に、お客さんに届けるものとしてしっかりと希望を与えられるような、感動的なドラマが生まれたと思っています」

リリー「誰もが愛する人と死別しながら、長く生きていかなければいけないわけで。その重みにずっと潰されている人や、なかなか向き合えない人もいるなかで、ひとつある見え方を提案するような映画になるのではないかと思いました。『旅立ってしまった人は、見えなくてもちゃんとそこにいるんだよ』と思えたり、『常にその人のことを思いだすことが大切なんだ』と感じられたりね。でもさ、劇中でまあちゃん(長澤)演じる美奈子が、生きている人のそばに行ったりするじゃない?うちの母親のことを考えても、自分が見られたくないようなところにも、もしかしたら母親がいたりするのかなと思うとねぇ(苦笑)」

長澤「あはは!わかるなあ。死んだあとに、自分のものをいろいろと見られたくないなという気持ちもありますね。ある程度の年齢になったら、見られたくないものは全部捨てようかなと思っています(笑)」

リリー「もしなにかあったら、まあちゃんに俺のものは捨ててもらいたい。逆にまあちゃんが『これは見られたくないだろうな』と思うようなものを見られそうになったら、部屋に誰か入る前に俺が『入らないで!』と言って阻止する。まずは携帯やパソコンをハンマーで潰すね(笑)」

長澤「水に浸けたり(笑)。いいですね!」

リリー「そろそろ僕は、死んだあとに見られたくないものを処分し始めましたよ。書きかけのポエム的なやつとかね」

■「まあちゃんは、なかなか自分に丸を付けようとしない」(リリー)

――そういったことを任せたいと思うくらい、お二人の仲が良いことが伝わってきます。自分の死をなかなか受け入れられずにいたものの、次第に周囲をやさしさで包んでいくようになる美奈子。飄々としていながらも、映画への情熱を燃やし続けていたマイケル。どちらも観客にとって忘れ難いようなキャラクターとなりましたが、お互いの目からご覧になって、長澤さん、リリーさんが演じたからこそ、これだけ血の通ったキャラクターになったと思われることはありますか?

長澤「この物語のなかで、マイケルさんは楽しみを与えながら、みんなのまとめ役になっている人です。みんなを束ねているという感じではないんですが、『しょうがないな。マイケルさんのためならどうにかしよう』という形で、周囲を動かしていく人。マイケルさんの想いが純粋だからこそ、周りが放っておけなくなるような人なんです。リリーさんもいつもみんなの中心にいて、それぞれに寄り添いながら、控えめにまとめてくれる方。そういったところで、マイケルさんとリリーさんには相通ずるところがあるように思います。リリーさんがいるから、みんながオープンになったり、心が温かくなったりする。それってリリーさんにしかできないことだし、だからこそ制作陣もリリーさんにマイケルさんを演じてほしいと思ったんじゃないかなと感じています」

――長澤さんが感じる、リリーさんの俳優としての魅力とはどのようなものでしょうか。

長澤「リリーさんは、生活をするようにお芝居をしていて。ライフワーク的に芝居に取り組んでいる感じがして、とてもすてきだなと思っています。私はなかなかお芝居に対してそのように向き合えないので、リリーさんに会うといい意味で自分の角が取れて、リラックスした状態でお芝居に向き合えるんです。いい気づきを与えてくれる方であり、同じ立場になって物事を考えてくれて、いつもありがたいなと思っています。もちろん先輩として尊敬していますが、それ以前に頼れる同志みたいな気持ちを持てる。一緒にお芝居をしていても、とても楽しいです」

リリー「美奈子さんとまあちゃん自身にも、似たところが結構あって。“不器用な真面目さ”と言うのかな。まあちゃんは、すごく自己評価が低いんですよ。僕は、まあちゃんが大女優になっていく過程を『うれしいな』という気持ちで見ていて、長澤まさみファンとしても彼女の映画をいろいろと観るわけですよ。『この間やっていたあの演技、すごくよかったね』と話しても、まあちゃんは『全然そんなことないです』となかなか自分に丸を付けようとしない。いまだに、『昨日撮影したシーンがうまくいかなかった』と泣ける人なんですよ!そういう時、僕は『マジですげえな』と思ったりします。でもやっぱり、その真面目さやみずみずしさが人に伝わるんだと思うしね。そういう人だからこそ、長澤まさみのお芝居が輝いているんだと思います。この人のものづくりに対する姿勢を見ていると、こちらも襟を正すような気持ちになります」

――リリーさんから、“不器用な真面目さ”というお言葉がありました。

長澤「あまり、立ち振る舞いが上手な人間ではないですからね(苦笑)。その通りだなと思います。言われて気づくこともありますが、そこをうまく変えていくことは難しいなと。こればかりは仕方ないですね」

■「その時ごとに、自分のベストを尽くして生きていく」(長澤)

――マイケルは、美奈子に励まされながら映画づくりに奔走していきます。美奈子がマイケルの手をそっと包み込むシーンもとても印象的でしたが、信頼し合うお二人が演じたからこそ、すばらしい空気感が生まれていたように感じます。率直な疑問として、お二人はなぜこんなにも仲がいいのでしょう。

リリー「ただ、馬が合う。人生においてそういった友だちがいることって、とても豊かなことだなと思います。なかなか女友だちなんてできないのが当然というなかで、そういう友だちができた。まあちゃんには、男友だちと一緒にいるような感覚で『買い物、付き合って』とか言えますからね」

長澤「先ほどもお買い物に行く約束をしました(笑)」

リリー「春物を買わなきゃねって。そしてこの人ね、僕のことを“おばさん”だと思っている傾向がある(笑)。服をくれる時も、ちょっとサイズ感が小さ目なものだったりする」

長澤「あはは!そうですね。“リリーちゃん”って呼んでいます」

リリー「今日はハンカチをもらいました」

長澤「インド土産のハンカチ(笑)。お互いにかわいいものが好きなので、かわいいものをプレゼントし合っています」

リリー「まあちゃんは突然電話してきて、『最近、どうしている?』『元気?』『いま大丈夫ですか?』という取っ掛かりなしに本題に入るんですよ。突然電話をしてくる人なんて、僕にとってまあちゃんとミッツ・マングローブくらいしかいない(笑)」

長澤「俳優として尊敬しているからこそ交友関係を続けたいという想いもありますが、単純に一緒においしいものを食べたり、楽しいものを見たりしているだけで、気が合うなと。いつまでもやり取りをしたい人だし、“人生のなかにいる人”というか、もはや家族みたいな感じです。そういった出会いはなかなかあるものではないので、ありがたいし、不思議だなと思っています」

――旅立ってしまった人と、遺された人。それぞれがお互いの幸せを願っている姿を映しだす本作は、一度きりの人生において大切だと思える人と出会えることの尊さを噛み締めたり、旅立ってしまった人に想いを馳せることのできる映画です。お二人が本作を通して受け取ったのは、どのようなことでしょうか。

長澤「本作を通して『もし自分があと何日かしか生きられないとなったら…』と考えた時に、『まだ死ぬのは嫌だな』という気持ちが湧いてきて、自分でも少し驚いたんです。どことなくだけれど、そういう時が来てしまったら仕方のないことだし、受け入れるしかないだろうと思ったりしていた。でもそこに向かっていく自分を想像したら、まだやり残したことはあるだろうし、生きることを頑張りたいという気持ちが強いんだと気づいて。私は、『生きたい』という想いが強いタイプだったんだなと思いました。そういった意味でも、映画を通して自分自身と向き合ったり、生きることについて考えたりすることがあるんだなと改めて感じています。なかなかきっかけがないと、そういったことに向き合う機会ってなかったりしますよね。それは一生懸命に生きている証拠でもあるし、その時ごとに自分のベストを尽くしていくしかないなとも感じています」

リリー「ここ何年か、周りの人が亡くなることが多くなって。これが歳を取るということなんでしょうね。もし100歳まで生きたとしたら、ほとんどの人と死に別れなくてはいけなくなってしまう。それは相当、タフな人生になるでしょう。劇中で(横浜)流星が演じる勝利が、恋人に会いにいくシーンがありますよね。僕はあそこを観ていて、ちょっと泣けてしまって。生きている人は次に進んでいかなければいけないし、人間はそうやって頻繁に別れを繰り返していくものなんだなと感じています。『海街diary』という映画をやった時に、是枝(裕和)監督が『生きることと死ぬこと、両方を描く必要がある』と話していました。あの映画では、お葬式のシーンがあったかと思うと、四姉妹たちがご飯を食べていたりと、生と死が一緒に描かれますよね。この映画も同じような側面があって、生と死に向き合っている。とはいえ、生きること、死ぬこととはどのようなことだろうと考えてみても、考えれば考えるほどドツボにハマってしまうものでもあって。天国に行くためにはどうしたらいいか、なんて思ってみてもしょうがないですから」

――やっぱりお二人のように気の合う友だちを見つけたりしながら、必死に毎日を生きるしかない気がします。

リリー「そうなんですよね。だからこそ死者を身近に感じたりしながら、まあちゃんが言ったように日々のことを一生懸命にやって、たまに酒を飲んで後悔のひとつもする…というぐらいの生き方がいいのかなと思っています」

取材・文/成田おり枝

Netflixオリジナル映画『パレード』で、特別な絆を育んでいく2人を演じた長澤まさみ&リリー・フランキー/撮影/河内彩