トイレも男女別々になりました。

30ノット以上の快速性を付与

海上保安庁は2024年2月29日、巡視艇「ゆめかぜ(CL-206)」の引き渡し式を、東京都江東区にある墨田川造船で実施しました。配備先は東京海上保安部(第三管区)。海上において犯罪や船舶遭難などが発生した際には、いち早く現場に駆け付けられるよう30ノット(55.6km/h)以上の高速を発揮することが可能です。

現在、海上保安庁は密輸や密航などといった海上犯罪の取り締まりや、救難および防災などといった業務基盤の充実・強化を図るため、巡視艇の代替整備を進めています。

今回、引き渡された巡視艇「ゆめかぜ」は1992(平成4)年に1番船が竣工し、海保最多の隻数を誇る、ひめぎく型巡視艇の通算第200番艇で、2022年度補正予算で建造が決まりました。

船体サイズは長さ20m、幅4.5m、26総トンで、ディーゼルエンジン2基を搭載しています。固有武装はありませんが、拡声器や暗視装置、フルカラーの停船命令等表示装置などを備えるほか、船尾には小型汎用クレーンを装備しています。

同船は2月まで東京海上保安部に配備されていた先代「ゆめかぜ(CL-34)」と比べて、船体幅が広がったほか、船体の塗装も他の巡視船艇と同じ白色になり、側面には「Japan Coast Guard」という英字表記と「S字章」と呼ばれる船体表示が描かれるようになりました。

また、コロナ禍後に計画された新造船ということで、ブリッジ後部にビニールカーテンで仕切ることができる「隔離区画」を設置しているのも特徴のひとつ。ほかにも、女性海上保安官の乗船を想定して個室が設けられるとともに、トイレも男女別で分けられるよう2か所設けられています。

ジブチでも活躍する「ゆめかぜ」姉妹船

式典では第三管区海上保安本部の松居伸明船舶技術部長が石井昌平海上保安庁長官の訓示を代読。「本船はこれから重要臨界施設が多数存在し、多くの船舶が運航する東京湾をはじめ、この優れた捜索監視能力と情報伝達能力を生かし、海難救助、海上犯罪の取り締まり、海上交通の安全確保など、さまざまな海上保安業務に就くことになる。地域の皆様はもとより、国民の皆様の安全安心に大きく寄与できるものと確信している」と述べました。

さらに乗組員に向けて、「海上保安庁に課せられた任務の重要性を改めて認識し、本船の持つ優れた能力を発揮できるよう研鑽に努め、地元関係者の期待はもとより、国民の皆様の負託に応えるべく、安全運航を大前提に業務に邁進していただきたい」と激励するとともに、「乗組員諸君は、我が国周辺海域を巡る情勢が緊迫する中で、海上保安庁に課された任務の重要性を改めて認識し、本船の優れた能力を遺憾なく発揮できるよう研鑽に務めると共に、国民の負託に存分にこたえられるよう業務にまい進してほしい」と訓示していました。

なお、ひめぎく型は汎用性の高さから放射能調査艇「きぬがさ」型などのベースとなっています。日本だけでなく海外でも活躍しており、国際協力機構(JICA)が設けた無償資金協力「海上安全能力向上計画」の一環として、墨田川造船で建造された同型船2隻が、2015年にジブチ沿岸警備隊へ引き渡されています。

墨田川造船株式会社から引き渡された海上保安庁の最新巡視艇「ゆめかぜ」(深水千翔撮影)。