気になるのは、色とおいしさ。



 食文化研究家のスギアカツキです。『食は人生を幸せにする』をモットーに、食トレンド、スーパーマーケットスタバ、ダイエットフード、食育などの情報を“食の専門家”として日々発信しています。


 2024年2月21日イタリアンレストランチェーンの「サイゼリヤ」がグランドメニューの改定を行いました。


 主な内容としては、具材たっぷりのパスタや全粒粉ペンネを使用したグラタンパスタが新たに登場するなどでしたが、その中で大きな注目を集めたのが、「イカ墨スパゲッティ」のリニューアル。テレビやSNS上でニュースを観た人は少なくないでしょう。そうです、“黒くなくなった”のです。


 そこで今回は、サイゼイカ墨スパゲッティ問題について考えてみたいと思います。気になる味や、汚れにくさはどの程度なのか? 本場のイカスミパスタはどんなものなのか? など、知っておいて損はない話をお届けしたいと思います。


◆黒色からセピア色に変更!?



改定された「イカの墨入りセピアソース」 500円



 新しいメニュー名は、「イカの墨入りセピアソース」で、価格は変わらず500円。


 改定の大きな理由は、おいしさの追求というよりは食べると気になる口周りの汚れを緩和するためだそう。そもそもセピアとは茶色系のカラーの一つで、イカ墨に由来しています。


 この理由を知り、X(旧Twitter)上では賛否両論が。「セピア色になったとはいえイカも入っていて大満足」、「見た目に一瞬驚いたけどめっちゃ美味しい」という好評価から、「改悪」、「悲報」、「イカスミパスタを名乗ったらあかんではないか」というネガティブな声までさまざま。


 とにかく盛り上がっているので、私も気になって来店することにしました。実は私、むかしむかし小学生の頃からサイゼに通い、鉄鍋にパスタが入っていた時代から元祖イカ墨スパゲッティを食べてきたファンの一人なのです。


 まずは冷静に、改定された「イカの墨入りセピアソース」を食べてみることにしました。


サイゼの本当のねらいは!?



注文して提供されたのがこちら。確かに黒くはありませんでした



 注文して出てきたのは、写真どおりに色が薄めのパスタ料理。岩のりを絡めたような、ジェノベーゼソースをこげ茶にしたような、他のイタリア料理店でも見たことのない色合いでした。


 メニュー名を知らなかったら、これをイカ墨スパゲッティと答えることは難しいでしょう。


 私は昨夏イタリアヴェネツィアに滞在した際、本場のイカ墨スパゲッティを何度も食べました。本場の味はイカ墨ならではの漆黒色。ソースの旨味や甘み、苦味がバランスよく絡み合った濃厚ソースに深く感動したことを覚えています。


 ここからは推測になりますが、おいしいイタリア料理を手軽に味わってもらうことを目指すサイゼリヤにとって、本場の味を目指すという戦略ははじめからなく、もっとシンプルにイカスミソースによって話題性を創出することが狙いだったのではないでしょうか?


 もちろんまずければ本末転倒ですから、押さえるべきところは押さえているはずです。



ヴェネツィアで食べたイカ墨パスタ。漆黒の濃厚ソースは、日本の本格イタリアンでもなかなか食べることができません



イカ墨スパゲッティと認められることがゴールではない!?
 そして実食。想像以上にあっさりした食べ心地でしたが、イカ墨の風味を感じることができ、おいしくいただきました。


 どちらかと言えばアンチョビニンニクが効いた、日本人好みの味わいにまとまっている魚介風味のパスタ料理と説明した方がわかりやすいかもしれません。



ヴェネツィア他店でのイカ墨パスタ。魚介の旨味というよりは、イカスミの甘味とほろ苦さがパスタにからまり、独特の深みのある味わいに。ため息が出るほどおいしかったです



 気になるのは、食べた人がこれをイカ墨スパゲッティだと認めるか? という点。


 本場の味を知る立場としては、あまりに違い過ぎて比較をしようとは考えませんでしたが、認めない人が大勢現れたとしてもまったく違和感はありません。


 だって、そうですよね….。正直申し上げて別物! ネーミングや説明書きから想像するに、おそらくサイゼリヤもわかってやっているのです。


◆確かに、口にも歯にもほぼつかなかった



完食後に口を拭いてみましたが、このレベルは許容できますか?



 本場感への追求ではなく、食事中のエチケットを考えた、口周りが汚れにくくするという配慮重視のパスタであることはわかりました。それでは本当に、口周りが汚れにくいのでしょうか?


 スパゲッティを完食してすぐに紙ナプキンで口をふいてみたところ、気になるような黒や茶色が付かないことに驚きました。


 そしてドキドキしながら鏡で唇や歯もチェック。感じ方には個人差があるでしょうが、旧メニューと比較すれば、他人に見られても恥ずかしくないレベルだと安心する人は増えるに違いありません。


 ちなみに、スーパーなどで売られている市販のイカスミソースを食べてみたところ、しっかり黒くなりました!



飲み物で口内を潤さずに撮影した口周りの写真。無修正で失礼します



 今回のサイゼイカスミ問題。このメニューに大きな注目が集まったという点で話題作りとしては大成功でしょう。


 さあ、皆さんは食べに行きますか?


<文/食文化研究家 スギアカツキ>


【スギアカツキ】食文化研究家、長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを学ぶ。現在、世界中の食文化を研究しながら、各メディアで活躍している。女子SPA!連載から生まれた海外向け電子書籍『Healthy Japanese Home Cooking』(英語版)好評発売中。著書『やせるパスタ31皿』(日本実業出版社)が発売中。Instagram:@sugiakatsuki/Twitter:@sugiakatsuki12



「イカの墨入りセピアソース」 500円