ラブホテル街には、さまざまな事情を抱えた人たちが訪れる。特殊な場所であるだけに、そこでは“珍ハプニング”に遭遇することも……。

◆高級ラブホでお泊りすることに

 清水亜里沙さん(仮名・30代)は、はっきりとは付き合ってはいないものの、毎月のように体の関係を続けていた男がいた。ある日、高級ラブホに入ることになったという。

「仕事も忙しいので、それが“ちょうどいい”関係でした」

 岩盤浴とミストサウナ付きの部屋を選び、その部屋の広さにテンションMAXだった清水さん。浴槽にお湯をため、ミストサウナの準備もした。

ミストが出るまで時間がかかるので、先に岩盤浴でラブラブしながら楽しんでいました」

◆部屋で火災発生? 最悪の事態に…

 すると「ビィーーー」と警報機が鳴り始め、その瞬間、透明な扉の先にモクモクと煙が立ち上がっていたという。フロント係が慌てたようすで部屋に駆け付けると、彼は「とにかく、警報音止めてください!」と怒りの声を上げたそうだ。

「普段はすごく温厚な彼が、あんなにブチギレる姿を初めて見てしまい、私は複雑な心境でした」

 どうやらスチームの故障で、ホテル側は別の部屋を用意してくれるとのことだった。しかし、彼は「帰ります」というばかりで、「返金はできかねます」との言葉にも「すぐ帰ります。シャワー浴びて準備するので出てってください」と、なぜか意地を張っていたと、清水さんは話す。

「深々とお辞儀をして出ていくフロント係を睨みつけ、彼1人だけシャワーに向かいました。クールダウンしたのか、シャワーから戻った彼の表情は優しくなっていて、キレたことを謝ってくれたんです」

◆彼から放たれた衝撃の言葉

 しかし、終電の時間が過ぎていたにもかかわらず、彼は「帰る」の一点張り。別のラブホに泊まることを提案した清水さんだったが、断られたそうだ。清水さんもシャワーを浴び洗面所で髪を乾かしていると、彼から耳を疑う言葉が……。

「先帰るね。とりあえずタクシー代も置いたから。俺、結婚してるんだよね。子どもも3人いる。こんなところでお前と死んだら困るしさ」

 清水さんは彼の言葉を心の中で反芻する。

“奥さんがいる?”
“子どもが3人?”

「お泊りしようとして、ボヤ騒ぎがあって、キレて、急にカミングアウト? 挙げ句の果てに、“こんなところでお前と死にたくない?”ってあり得ないですよね」

 彼が帰ると、テーブルには2000円が置いてあった。清水さんは「2000円じゃ帰れるわけないだろ!」と思ったが、気持ちはそれどころではなかったそうだ。

衝撃の事実に帰る気にもなれず、フロントに宿泊する旨を伝え、その夜は別の広すぎる部屋に1人で泊まることにしました」

 それ以来、彼とは会っていないという。あの言葉が思い出される。

こんなところでお前と死にたくない”

「そりゃそうだ、奥さんとお子さんを大事にしていることを願うばかりです」と、清水さんは締めくくった。

ラブホ街で「ハニースポットはどこですか?」

 前田裕子さん(仮名・20代)の実家はラブホテル街にある。学生時代、自宅がラブホ街にあることで、困った経験をしたという。

「たびたび道を尋ねられることがあります。駅でも観光名所でもない、ホテルの場所を、ですよ。私は、道を聞かれたらできる限り、期待に応えられるように努力するタイプなんです(笑)」

 道を尋ねてくる相手は、ラブホに派遣されるお姉さんや送迎のお兄さん、備品の納品に来た業者、宅配業者の人が多く、その都度、丁寧にラブホまでの道を案内していた。

「ほぼ“ネオンがチカチカしているハデな建物です”と言うしかないくらい、同じような建物ばかりで。私は語彙力がなく、案内するのに苦労しました」

 尋ねる側も勇気が必要だろう、と前田さん。「ホテル ホワイト・ミルキィ」「ホテル ハニースポット」「シークレットホテル ZERO」(※ホテル名はすべて仮名)など、口にすることが恥ずかしい名前が多いからだ。

「まあ、尋ねる側も恥ずかしい思いをしているはずです。すんなり教えられる私も、顔から火が出そうでしたけど……。余程のことがない限り、ラブホ街で道を聞くのはやめていただきたいのが正直な思いです」

◆わざと道を尋ねてくる人も

 高校時代には、「オススメのホテルある?」とニヤニヤしながら尋ねてくる人も多かったという。

「そりゃ、ラブホ街を高校の制服を着て歩いていたら、声をかけられることもあります。ギャル系の友だちは、『オススメのラブホどこ? お姉さん込みで』とよく分からない聞かれ方をしたらしいです」

 しかし、それよりも困ったことは、学校や会社に自宅の周辺地図を提出しなければならなかったり、道端で偶然出会った友だちに「どこに住んでるの?」と尋ねられたりすることだった。

「地図を書けば、“ラブホラブホ・自宅・ラブホ”となり……。友だちに場所をにごして伝えると、『あの人、ラブホ街でよく見かける! 大人のバイトでもしてるのかな』とヒソヒソ話をされるんです」

 ただし、案外、ラブホ街の治安はよかったのだとか。

ラブホ街の夜は、ネオンで明るくて歩きやすいんです。あえてラブホ街を選んでウォーキングする人も多いですよ」

 前田さんはラブホ街の住人ならではの、意外な情報を教えてくれたのだった。

<取材・文/資産もとお>

―[ラブホの珍ハプニング]―


※写真はイメージです。