2021年5月には初の潜水艦女性幹部も誕生し、女性海上自衛官の活躍の場はどんどん広がっているといえます。しかし艦艇勤務が男社会であることはかわりません。その艦艇勤務の経験がある元女性自衛官に話を聞きました。

知られざる女性海上自衛官の艦艇勤務

自衛隊でも女性の活躍の場が少しずつ広がっています。たとえば海上自衛官では、水上の艦艇だけではなく、潜水艦の乗組員にも女性を起用できるよう2018年12月に配置制限が解除され、2021年5月には初の潜水艦女性幹部も誕生しました。

とはいえ、いまだに自衛官全体から見たら女性の割合はごくわずかで、男社会といっても過言ではありません。有名な曲に「海は男の仕事場」と歌詞にあるように、海上自衛隊は特に、その傾向が強いのではないのでしょうか。今回は、そんな男社会の艦艇で勤務した経験を持つ元女性自衛官に、どのような生活だったのか話を聞くことができました。

今でこそ海上自衛隊の多くの艦艇には、女性自衛官が乗艦していますが、その割合は1艦艇につき、全乗組員の多くて10%程度であるようです。例えば200人ほどの乗組員のいる汎用護衛艦(DD)で、多くて20人くらいの女性自衛官が乗り組んでいることになります。

「仕事は、基本的に男性自衛官と変わりはありません。船務、機関、給養など自らが学んできた技術をいかんなく発揮し任務を遂行します。ただし、職務は教育隊での適性検査による個人の資質を中心に、本人の希望も合わせて決められますが、陸上勤務もできる通信、経理、給養、補給などに女性隊員が多い傾向が見られました」(元女性自衛官)

任務の前に紫外線との戦闘準備!?

艦艇での勤務は、一度任務で出航すれば何週間も、時には何か月も船の上で過ごすことになります。当然、男女が同じ船に長期間乗ることにはなりますが、訓練や任務などを除く、女性隊員たちの生活はどのようなものでしょうか。

「船内の一角には女性区画があります。その入り口には鍵がかかるようになっており、男性隊員はいかなる時も立ち入りは許されない男子禁制の場所となっています。区画には風呂もトイレも備えられており、女性隊員はそこを艦内の生活におけるホームベースとしています」(元女性自衛官)

艦艇の任務は24時間3交代制で動いているため、その区画に女性隊員たちが勢ぞろいすることはそう多くはないそうですが、それでも男性中心の大所帯の中、数少ない女性たちは、そこで情報交換をし、おすすめの化粧品の話や、ときには、気になる男性隊員の話、仕事の愚痴など話に花が咲くのだといいます。

「男性たちに混ざってバリバリ働く『海の女』なので、お洒落などには無頓着な人も多いように思われますがそんなことはありません。職場は、海の上です。日差しは暑く照り付け、常に海水を浴び、肌はお手入れしなければすぐボロボロになってしまうので、任務に入る前には、自らの肌を守るため強力な日焼け止めや、化粧水、美容液などをしっかりと買い込んでから乗艦します」
日焼け止めなどの使い心地は仲間で共有することもありますね。業務開始前には身だしなみ程度に軽く化粧をし、身を引き締めて業務に入ります。もちろん先輩や上司が眉をひそめるような派手なメイクはご法度ですが」(元女性自衛官)

派手と見られないオフィスカジュアルなメイクが推奨とのことでした。ほかにも、爪を保護するために、透明や淡いピンクのマニキュアを塗っている女性隊員もまれにいるそうで、この辺りは普通の会社と同じ感覚のようです。

しかしOLと違い、一度出航してしまえば、港につくまで休暇はありません。ずっと仕事場にいるのと同じ状態です。休日に少し派手なメイクを楽しむようなことは、艦艇勤務の女性たちにはできないのです。そんな彼女たちが一か所だけお洒落に気合が入るポイントが、足の爪に塗るマニキュア、「ペディキュア」なのだとか。

「普段見えることのない場所ですから、派手にしていてもバレません。お洒落をしたい欲求を足の爪を美しく飾ることで 、楽しんでいますね」(元女性自衛官)

白い制服ゆえに透けることや生理で問題も

さて、自衛隊員といえば、きりっとした制服姿を思い浮かべる人も多いでしょう。実は、この制服というのも女性自衛隊員にとっては特に大きな悩みの種とのことです。

海上自衛隊の夏の制服は、眩しいくらいの真っ白です。白すぎるため、下着の透けはさけられません。下着の上にベージュのキャミソールを着用したり、短いスパッツペチコートを履いたりして、なんとか透けないように努力しています」(元女性自衛官)

また、月に一度の生理のときは、さらに気を使わなくてはなりません。

「制服が白いので経血がついたりしたら一大事です。いつもにも増して、細心の注意を払い気をつけます。しかし、それでも失敗が起こってしまうこともあります。そのときは、同じく女性隊員の同僚や先輩たちが、手早くフォロー し、助け合います」(同)

男性社会の中で、働く女性隊員たち。その数はまだ少なく、彼女たちがどのように考え働いているのかは、あまり知られていません。しかし、彼女たちは小さなコミュニティを作り、情報網を駆使し、協力し合いながら、日々の任務を遂行しているのです。大きな組織の中の、わずかな数かも知れませんが、彼女たちの小さな努力が自衛隊を支えているともいえるでしょう。

護衛艦「あきづき」。2012年に竣工した「あきづき」型以降、計画時から女性乗組員が乗艦することを考えて艦艇が設計された(画像:海上自衛隊)。