北朝鮮には数多くの教員大学、師範大学が存在する。教員養成機関だけあって卒業生は学校の教師になるのだが、在学生は一様に深い悩みを抱えていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋は、間もなく師範大学を卒業する娘の進路について、頭を抱えている。

朝鮮労働党咸鏡北道委員会(道党)は先週、師範大学と教育大学の卒業生を一人ずつ呼んで面接を行った。娘は、「いずれ両親の世話をしなければならないから」と、実家から近いところの学校に行きたいと訴えたが、道党の幹部に「元帥様(金正恩総書記)の意図は、あなたが農村の学校に行くことだ」と言われてしまった。

金正恩氏の名前を出されると、辞令を拒否することは全く不可能になる。可能ではあるが、そうすると最高指導者の権威に反抗したと見なされ、大学卒業と同時に人生も「卒業」することになりかねない。

慢性的な経済難の中にある北朝鮮では、都市でも不便な生活を強いられるが、それと比べても農村の生活インフラは劣悪だ。中には電気も水道も通っていない「陸の孤島」のような所もある。

また、農村の職場に配属されると戸籍が農村戸籍に書き換えられてしまい、現地に永遠に縛り付けられ、貧困から抜け出せなくなってしまう。配属された若者たちもどうにか逃げ出そうと、カネとコネを総動員して悶絶しているという。

陸の孤島」行きのリスクは、エリート学生にもついて回る。3年前には咸鏡北道(ハムギョンブクト)の清津(チョンジン)師範大学の史跡科を卒業した女性5人とその家族が、同様の問題に直面した。彼女らの配属先は、隣接する両江道(リャンガンド)の白頭山(ペクトゥサン)地区だったからだ。

北朝鮮で「革命の聖地」とされる白頭山への配属なら申し分ないように思えるが、彼女らとその家族が強い不満をいだいているのはそれなりに理由がある。

いずれも美貌で評判だったという彼女らはもともと、「5課対象」だった。中央党(朝鮮労働党中央委員会)5課は、いわゆる「喜び組」など金正恩総書記の身辺の世話をする要員の選抜・管理を行っている。

しかし、彼女らは一度は選ばれたものの、何らかの理由で不合格となった。その代わりにあてがわれたのは、清津から遠く離れた極寒の地の白頭山。ここもまた、他の地域との行き来も不自由で、「陸の孤島」とも言える土地なのだ。

「美人卒業生たちとのその家族は、こんなやり方があって良いのかと、面談を一回も行わず、党の権限で勝手に配属されたとして大騒ぎした」(情報筋)

党委員会が何らかの不正行為を行ったわけではなく、遠くて寒い革命の聖地に娘を送り出したくないと、親たちが騒いでいるわけだが、行き先が行き先だけあり、配属を拒否するとなれば、反動分子にされかねず、親たちは「美しさは罪」だと嘆いていたという。

朝鮮人民軍の女性兵士(資料写真)