自分の毛髪や体毛を抜き続ける「抜毛症」と呼ばれる病気があるのをご存じでしょうか。SNS上では「抜毛症になったけど、原因がよく分からない」「最近、抜毛症が悪化している」という内容の声が上がっており、この病気に悩む人は意外と多いようです。

 なぜ抜毛症を発症してしまうのでしょうか。治す方法はあるのでしょうか。「みぞぐちクリニック」(東京都中央区)の溝口徹院長に聞きました。

女性が発症しやすい病気

Q.そもそも、「抜毛症」とは、どのような病気なのでしょうか。発症する原因や症状について、教えてください。

溝口さん「抜毛症は『トリコチマロニア』とも呼ばれており、自分の髪の毛やまつ毛などを抜いてしまう症状のほか、抜いた髪の毛を食べてしまう症状を指しますが、正式な病気として確立されていません。ある統計によると、発症した人の約8割が女性で、そのうち10代の女性が4割近くを占めるということです。

人によって異なりますが、学校内でのいじめや孤立のほか、家庭内での問題による心理的な不安やストレスが原因で発症するケースが多いです。最近では、発達障害があり、人とのコミュニケーションがうまく取れない人が、抜毛症を併発しているケースもあります。

不安やストレスを感じている現状から回避するために、何となく触っていた髪の毛を抜いてみると、そのときの痛みやぷつんという感触が現実から回避できたように感じ、それが習慣化していきます。その場合、不安に感じることやストレスに感じることが起きたり、起きそうになったりするたびに、してはいけないと自覚していても、抜毛しないと気持ちが落ち着かない状態になってしまいます」

Q.では、どのような人が「抜毛症」を発症しやすいのでしょうか。

溝口さん「先述のように、抜毛症は心理的な不安やストレスが原因で発症するケースが多いため、次のような人は特に発症しやすいと言えます」

【抜毛症を発症しやすい人の特徴】
・精神的に落ち込みやすい
・周囲の反応が気になってしまう
・思っていることがあっても、自分の中にため込んでしまう
・真面目で周囲の期待に応えようと無理をしてしまう
・自分を否定されることが多い環境で育ったため、「自分の考えに自信がない」など、自己肯定感が低い
・幼い頃からおとなしく聞き分けがよい

Q.自分が「抜毛症」かどうかを判断する目安はありますか。

溝口さん「日常生活でイライラしたときや緊張したときに髪の毛を触ってしまうことはよくあると思います。その程度であれば、特に問題はありません。ほとんどが一過性で、時間の経過とともに落ち着いていきます。しかし、頭髪や体毛がまだらになってしまったり、ある部分が完全になくなってしまったりするなど、生活に支障が出た場合は、抜毛症を疑ってもよいでしょう」

Q.「抜毛症」の治療は可能なのでしょうか。受診すべき診療科や治療方法について、教えてください。

溝口さん「抜毛症は精神疾患の一つに分類され、強迫性障害に関連する症状の一つといわれています。抜毛症はプレッシャーや気持ちの不安定さが原因で発症するため、治療のためにSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)や抗不安薬などの向精神薬が使われることがありますが、副作用の心配もあり、慎重な調整が必要です。

抜毛症を抱えている人は、抜毛行為のみではなく不安感や抑うつ感、睡眠トラブルを併発していることも多く、抜毛行為は不安や緊張を感じていることを周囲の人に言えず、自身の中にためてしまい、解消しきれない気持ちが行為に現れていると考えられます。抜毛行為は、本人からのSOSのサインなのです。そのため、治療にはご家族や周囲の人の理解や協力が不可欠であり、非常に重要です。

また、同じ環境下にいても、ストレスや不安を感じるかどうかは人によって異なります。また、はたから見れば気にするほどではないことも、必要以上に不安やストレスに感じてしまう人もいます。その差には、栄養の不足が関係していることがあります。

日本の精神科医療機関の多くは、DSM(精神疾患の診断・統計マニュアル)という診断マニュアルに準じて診断しますが、精神疾患の診断基準になっているDSMのガイドラインでも、栄養障害と精神症状については評価しなくてはいけないことが記載されています。

実際に、抜毛症の治療に使用される抗不安薬SSRIは、脳の中でつくられるリラックス感を調整するホルモンである『GABA』のほか、リラックス感や幸福度、睡眠のリズムを調整するホルモンである『メラトニン』に作用する薬ですが、本来は材料となる栄養素を十分に摂取していれば自分で作ることができます。

他にも、不安感や自己肯定感の低さは、脳の神経に必要なビタミンB不足のほか、自律神経に関係する糖質の過剰摂取の可能性もあります。受診する際は、精神科や小児科のほか、カウンセリングや栄養療法を取り入れている医療機関を検討するとよいでしょう」

Q.自分の家族や知人が抜毛症を発症している場合、どのように対処すればよいのでしょうか。

溝口さん「抜毛症の症状を改善するには、まず家族や周囲の人がそっと寄り添って大きく受け止めてあげたり、本人の話を聞いてあげたりすることが大切です。1人でため込まず、我慢しなくてよいことを伝えてあげましょう。

毛を抜いてしまう行動を注意したり止めたりするのは、抜毛を通して表しているSOSを否定することになるため、本人は『自分を否定された』『理解してもらえていない』と感じてしまいます。

抜毛してもそっと見守ってあげ、『悩んでいることはないか?』『どのようなときに毛を抜きたくなってしまうのか』などを丁寧に聞いてあげましょう。また、どんなときに抜毛したくなってしまうのかを書き出してもらったり、手袋などを使用してもらい、髪をつかみにくくし、無意識の抜毛行為を防いだりすることも、抜毛症の改善に効果的です」

オトナンサー編集部

抜毛症とは?(写真はイメージ)