人生100年時代。「人生最後の職場を探そう」と、シニア転職に挑む50、60代が増えている。しかし、支援の現場ではシニア転職の成功事例だけでなく、失敗事例も目にする。シニア専門転職支援会社「シニアジョブ」代表の中島康恵氏が、今回は面接でついキレてしまうシニアの特徴を解説する。

◆転職面接で“キレて”しまうシニアたち

年齢を重ねると脳や身体の機能低下でキレやすくなるのは仕方のないことだ。さすがに多くはないが、転職の面接でキレてしまうシニアも一定数いる。誰しもちょっとしたことでキレてしまう可能性があるだけに、どんな人がどんな場面でキレてしまうのか、現場の実情と対策を紹介する。

少子高齢化が進み、全人口の中でも労働人口の中でもシニアの占める割合が高まる中、多くの方はシニアにどんなイメージを持っているだろうか。

「頑固」「保守的」「キレる」「上から目線」「時代に適応できていない」など、特に若い世代の視点ではネガティブな声も少なくない。40〜50代、場合によっては30代までも若い世代を抑圧する「ソフト老害」が最近話題になったが、シニアによる時代への不適応や迷惑は「老害」としてネガティブに捉えられる。

今回はその中でも「キレる」傾向について考えたい。キレるとは、怒りの感情を大きく爆発させることをいうが、シニア、中でも男性は、感情的になりやすい、イライラしやすい、激しい言動を取りやすいといわれる。もちろん認知症などの疾病によるものや、脳や身体の機能低下にともなってキレやすいというだけで、誰もが年々キレやすくなるということではないだろう。それぞれが置かれた状況や元の性格の違いもある。

なので職場や採用の現場で「シニアだからキレやすそう」と決めつけるのはよくないが、例えば、就職活動をしているシニア自身は、不用意に感情的にならないように一呼吸置いて冷静さを心がけたい。シニアの転職支援をしていると、ものすごく多いわけではないが、キレてしまって不利になるシニアを目にするからだ。

◆本人はキレたつもりがないのに……

当然だが、採用選考の面接の場でキレた場合、内定獲得は難しい。

シニア本人は「キレた」という認識でなく、「ちょっとムッとしただけ」「面接官が間違った箇所を訂正しただけ」「条件の交渉やすり合わせをしただけ」というつもりのことも多い。しかし、「キレやすそう」というイメージが定着していることもあって、ちょっとした強い言い回しやムッとした表情でも「今キレた?」と受け取られかねないので注意が必要だ。

実際にどんなシニアが面接でキレてしまうのか、その特徴はあとで詳しく解説するとして、「さすがに面接でキレるわけないでしょ?」という方に、面接の前段階で、人材紹介・エージェントにキレたら不利になるのか、解説しよう。

私たちはシニア専門の人材紹介サービスを提供しているが、キレる、乱暴な言葉を使う、不機嫌な応対をするという求職者の方は一定数いる。もちろん、求職者の方が多少キレたからといって、紹介会社がそうした方をぞんざいに扱ったり、それだけで仕事の斡旋を止めたりすることはない。

ただし、紹介会社は、求職者にも条件に合った求人企業を紹介する一方、求人企業にも条件に合った求職者を紹介する責任があるので、キレ具合が過剰だったり、または繰り返す求職者については、当然ながら企業に勧められなくなる。また、派遣会社の場合は雇用して派遣するので、求職者が目の前でキレた場合、一発不採用となっても不思議ではない。

◆キレていると思われてしまう人の特徴4選

では、面接でキレやすいシニアの特徴と、キレないための対策を紹介しよう。

1. マナーに厳しい方
2. 同じ話を何度もする方
3. マウントを取る方
4. 苦しい状況にある方


まず、マナーに厳しい方は、相手からキレていると思われやすい。

マナーは守るのが常識であり、守っていないほうが悪いと思うかもしれないが、コロナ禍でのマスク警察のように、状況や立場によって変わるものや、一概に違反かそうでないかを判断できないものもある。自分が守るだけならばよいが、それを他人に強く指摘すると揉め事に発展しやすく、キレていると判断されてしまう場合がある。

相手にとってはマナーですらなく、単に「自分ルール」を押し付けようとしていると映ることもあるので、手順や対応などは、重大な行き違いがない限り、面接の場では指摘を避けるようにしたい。

2パターンめは、同じ話を何度もする方だ。

シニアになると同じ話を何度もしたり話が長い方は増えるが、こうした方も結果的にキレやすい。なぜなら、面接で同じ話をしたり話が長かったりすると、面接官に遮られる可能性があるからだ。面接官は聞きたいことを的確に聞きたいだけなのだが、相手は話を遮られたことに不満を持ってわだかまりが残ってしまうことがある。

話がつい長くなったり繰り返してしまったりすることは仕方ないが、遮られてもすぐ切り替えられるように注意しておきたい。あらかじめ話をコンパクトにまとめる練習も効果的だ。

◆本人は悪くない!でも注意が必要な場面

マウントを取る方も要注意、というよりも、このパターンはそもそも年代や場面に関わらず嫌われやすい。

ただ、シニアが面接を受けに行く場面では、自身が培った知識や経験をアピールしたいという思いが強すぎて、結果的にマウントを取ってしまう方もいる。その道のベテランであれば実際に面接官以上の知識を持つこともあるし、時代にともなって知識の範囲が変わることもあるので、「そんなことも知らないのか」のような態度は厳禁だ。

このパターンでも、相手に専門知識がない想定で、事前に面接の練習をしておくと防ぎやすくなる。

最後に、現在、生活や経済、家庭などが苦しい状況の人の中からも、キレてしまう方が出るので注意を喚起したい。

何らかの苦しい状況に置かれていて、その解決のために就職を目指す方は就業時間など働き方にも影響する場合がある。そのため、働く際の重要事項として、しばしば面接で苦しさを強調することがある。しかし、面接官にとってはそれほど重要だと捉えられないことも少なくない。

そうした時、「自分の苦しさをわかってくれない」と嘆くのは避けたい。もちろん、就業時間などは事前にすり合わせるべきだし、面接官の中には情に訴えることが有効な人もいるが、それ以外の場合、応募者の苦境と採用の合否は直接関係ないのだ。まずは、スキルや経験などのアピールに時間を使うべきだ。

紹介してきたように、「キレやすいシニア」と言っても様々な背景があり、必ずしも本人だけに原因があるわけではなく、面接以外の場面であれば、むしろ配慮があってよいような背景も多い。面接官によっては、シニアに限らず応募者全員に十分な配慮をして、相手を感情的にさせず、気持ちよく本音を引き出す人もいるだろう。

だが、残念ながら面接官全員が配慮に長けているわけではないし、前述のとおり、社会的な配慮と採用の合否は別だ。シニアの応募者が「自分が悪いわけではない」と感じるのは理解できるが、面接の場では感情を抑えて上手に応対したいところだ。

【中島康恵】
50代以上のシニアに特化した転職支援を提供する「シニアジョブ」代表取締役。大学在学中に仲間を募り、シニアジョブの前身となる会社を設立。2014年8月、シニアジョブ設立。当初はIT会社を設立したが、シニア転職の難しさを目の当たりにし、シニアの支援をライフワークとすることを誓う。シニアの転職・キャリアプラン、シニア採用等のテーマで連載・寄稿中

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