能登地方を震源とするマグニチュード7.6の能登半島地震で被災したのは人間だけではない。共に暮らす動物たちも窮地に立たされている。動物のため、その飼い主のため、被災地を駆け回る人たちを取材。困難極まる現状に迫った。

◆「動物は家族」だから辛い

 ’24年1月1日に発生した能登半島地震。241人が亡くなり、今も7人が行方不明だ(3月1日時点)。石川県輪島市内に住む水田美菜さん(仮名・30歳)は元日から愛猫のチビを捜し続けている。

「風邪をひいて辛いですが、猫も家族。弱音は吐けない。あの子は心の支えです」と話す。

「地震が起きたとき、私は離れの祖母の家にいました。大きく揺れた直後、認知症の祖母と、祖母の猫を捕まえて外に逃げたんです。木造の家が密集している地域で、倒壊した周囲の家の隙間から父が逃げてきて『チビちゃんが逃げちゃった』と。私は急いで母屋から、チビの移動用のケージと毛布を摑みました。自分の荷物はどうでもいい。チビが帰ってきたら、暖かい場所で迎えてあげたいですから」

 水田さんの自宅は輪島市の朝市通りの近く。大規模な火災により自宅は全焼した。

「今思うと、チビが外に逃げてくれたことがせめてもの救いかもしれません。1月7日に、近所の方から目撃談があったんです。今も生き延びてくれていると信じています」

◆ペットの受け入れができない避難所も

 水田さんはSNSを通じて動物の保護団体と繋がり、捕獲機を借りることができた。

「私たちの避難所はペット受け入れ可能なところでしたが、地域や場所によっては厳しいところも多いです。混乱した状況では、ペット可の避難所の情報が出てきません」

 1995年阪神・淡路大震災や、’11年に起きた東日本大震災では、ペットを連れた被災者が避難所に受け入れを断られるケースが続出した。このような事態を踏まえ、’13年に国は「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」を策定。飼い主とペットが一緒に避難する「同行避難」を推奨している。

◆「同伴避難」ができる避難所はいまだ十分ではない

 ペットと飼い主が避難所で生活できる状態を「同伴避難」というが、その受け皿の“ペット可の避難所”は、いまだ十分ではないのが現状だ。

 発災後すぐに、災害救助犬の捜索班と、被災ペット支援班が共に現地入りをした、認定NPO法人日本レスキュー協会の辻本郁美さんに話を聞いた。辻本さんは現在、珠洲市を中心に活動を続けている。

「避難所ごとに事情が異なりますが、珠洲市でペットと共に“同伴避難”ができているのは聞き取りしたペット世帯のうち2割弱ほど。ペットがいる被災者と、そうでない人々用に部屋を分けている避難所もあれば、小規模の避難所は場所を区切れずに、同じ空間で過ごしている例もあります」

 石川県獣医師会と日本レスキュー協会が連携し、てんかんや関節炎など持病のある犬の薬を遠隔で処方する取り組みも行っている。

◆“ペットと車中泊生活”を選ぶ人々も

 トラブルを避けるために避難所を出て、“ペットと車中泊生活”を選ぶ人々や“見えない避難者”が多いという。

「犬が糖尿病なので車で過ごす」という家族もいる。

「『自宅にペットを残し、避難所から毎日通っている』という方もたくさんいます。飼い主さんにとって、ペットは大事な家族です。だから『家族のお世話をするのは当たり前だから』と、半壊したり歪んだりした建物にも平気で入ってしまう。愛情が先行して、“今いるのは危険な場所”という認識が欠けてしまう。それが怖いんです。こちらは話を聞きたくても、日中ご自宅に戻られてしまうと、なかなかお会いできない。このような“見えない飼い主”は、想像以上に多いです」

 辻本さんは今、少しでも多くのペットを受け入れ可能な施設を増やすべく、被災地で奮闘している。

「物資の支援や、避難所での飼育環境の整備の支援と同時に、関係各所に直接交渉を続けています。被災者の方も、行政のみなさんも、心身共にギリギリの状態で、今できることを頑張っているんです」

◆聞こえないSOS。過酷な環境を選ぶ人も

「被災者は想像以上にSOSを出してくれない」と語るのは、認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパンが運営する、ピースワンコ・ジャパンの岸下塁さん。

 団体は発災すぐに現地入りして避難所を丁寧に巡り、捜索活動や物資支援を行っている。さらにペット支援のニーズを調査し、ペットの一時預かりや、相談を受ける支援活動も続けている。

「混乱の中でペットが受け入れ可能かどうか曖昧なところも多いので、飼い主さんが自ら『周囲に迷惑はかけられない』と言って、吹きさらしの寒い玄関や軒下などでペットと過ごす例が増えています。誰に相談することなく、過酷な環境を選んでしまう」

 一方的に、「ペットを連れて避難所には行けない」と思い込んでいる人も多い。「犬がいるし」と極寒の避難所の玄関で過ごす人も。

「相談なしに、最初から車中泊を選んでしまう人がかなりいます。ほかにも、機能していないコンビニの中だったり、半壊している建物などに避難したり。助けたいのに、助けられない。とてももどかしいです」

 ペットの捜索でも、同じ気持ちになることがあるという。

「街で迷い犬や猫を見かけるのですが、首輪が外れていると、野良と判別できない。SNSを見ると必死に我が子を捜している方がいるのに、捕獲できない。動物の捜索活動の難しいところです」

石川県獣医師会の新しい取り組み

 いまだ混乱が続く中で、石川県獣医師会では県内の動物病院と連携し、犬や猫などを当面1か月、無料で預かる取り組みを始めている。

車中泊では寒さとストレスに悩まされていた」と、3匹の猫を抱え一時預かりを利用する人もいる。環境省によると、一時預かり中のペットは、猫60匹、犬49匹、鳥10羽、ウサギ2匹だ(1月25日時点)。

 このほか、石川県によって、ペットを収容するトレーラーハウスが、金沢市のいしかわスポーツ総合センターに計2台設置された。1台で犬が10匹、猫が18匹まで収容可能で、飼い主が直接世話をすることができる。

 だがこれで十分なのか。今回の能登半島地震や、東日本大震災などでもペット救援を行ってきた、NPO法人日本動物介護センターの山口常夫理事長に、今後の被災ペットの支援について聞いた。

「今後は、二次避難に向けて、よりペットの一時預かりの需要が急増するはず。国は同行避難を推奨しているのに、受け入れ場所が少ない。行政と民間が連携して、受け皿の重要性を議論してほしいです」

 疲弊していく飼い主や動物を救うべく、今日も被災地で闘い続ける人々がいる。

取材・文/週刊SPA!編集部 写真提供/ピースワンコ・ジャパン 日本レスキュー協会 日本動物介護センター

―[[被災ペット]を救え!]―


石川県獣医師会と日本レスキュー協会が連携し、てんかんや関節炎など持病のある犬の薬を遠隔で処方。飼い主に届けた