「ジャケ買い」や「パケ買い」、「表紙買い」という言葉が浸透して久しい。それはひとえに、パッケージや表紙が購入する動機として大きな要素を占めているからだろう。当然ながらどんな商品であっても意図をもってデザイナーによって作られており、漫画の表紙もその例に漏れない。

さて、日々漫画の単行本が生み出されているなかで、多くの読者の心を掴んで離さないデザイン会社が「株式会社円と球」である。このマンガがすごい!2022」オンナ編第1位を獲得した『海が走るエンドロール』や、文化庁メディア芸術祭 第25回 マンガ部門 新人賞を獲得した『転がる姉弟』など数多くの人気作の装丁を担当する同社。今回は、代表を務める白川さんに、読者の心を掴むデザインについて話を伺う。

◆「漫画の表紙」はどのようにして作られるのか

――まずは、漫画の表紙ができるまでの流れについて教えてください。

白川:作品にもよるのですが、本文の内容を読んで作ります。作家さんにイラストのラフをいくつか出してもらい、「どれがいいか、もっと良くするにはどうしたらいいか」などを話し合うパターンが多いですね。その後、デザインのイメージを編集さんと漫画家さんとで決めていく方法が多いです。

――デザインを作り上げていく過程の中で、漫画家・編集者以外に話す人はいるのですか?

白川:基本的には3者が多いです。「作家さんがやりたいこと」と「編集さんがやりたいこと」が嚙み合ってなかったりする場合もあるので、このくらいの規模が一番きれいにまとまるのかなと思います。

――普段どのようなものを参考にしているのか気になりますが、いかがでしょうか。

白川:デザインだったりアートだったり、街の広告だったりバラバラです。ジャンルは特定せず色々なものを参考にしているというか、影響を受けていると思います。

◆「紙と電子」でデザインを変えている

――作品を読んで浮かんだイメージを装丁に落とし込む作業はどのように行われているのですか?

白川:第一に、その作品の光る部分を読者さんにどうやって伝えたらいいか、どういった表現が適切なのかを考えます。その際に大事だと思うのは、簡単に説明すると明るい話・暗い話・面白い話、のような方向性を基本的に抑えながら、その作品を好きな層はどういう人なのかを想像することが多いです。ライト層なのか、ある程度漫画を読んできた層なのか……そういった深度のようなものは意識しています。

――作品を作る際に、紙の段階から選んでいるのですか?

白川:出版元によって異なりますが選べることが多いです。こちらからいくつかご提案して進めることが多いですが、デザインに合った紙を選ばせていただいています。

――紙の書籍と電子書籍でのデザインに違いはあるのですか?

白川:電子書籍の場合、スマホでサムネイルが横に三つとか並ぶとすごく小さくなってしまうので、なるべく「文字が大きい」「イラストが大きい」「色を目立たせる」という、アイコン的考え方になっていきます。『光のメゾン』では、デジタル用に紙コミックスと異なるデザインにしており、先ほど挙げた考え方に基づいていると思います。

◆“読んでみないと面白さが分からない”からこそ…

――漫画の表紙の役割についてどう考えていますか?

白川:どんなに内容が面白い作品であっても、まずは手に取って、めくっていただかないと読者さんには伝わらない。ですので、作品の世界観を表紙でパッとわかるように、なおかつ魅力的に表現しないといけないと考えています。

――書店では基本的に背表紙が並びますが、この部分はどのようにされているのですか?

白川:作品のタイトルが引きのあるタイトルだとガッツリ読ませて、そうでなければ、読めなくても面白そうなものに見えるようにしています。

――白川さんにとっての良いデザイン・悪いデザインとは何ですか?

白川:良い悪いという表現は好きではないのですが、好ましく思うデザインはコンセプトがしっかり伝わるデザインかと思います。学生時代は広告のデザインなどを見るのが好きでした。コンセプトがしっかり伝わるのに、パッと見た時の印象もインパクトがあるデザインというのは見ていて本当に気持ちがいいです。逆にいうと伝わらないデザインというのは、悪いというか、役割を果たしていないとは思っています。

◆「作家が一番大切にしていること」を引き出したい

――仕事をする上での一番大事にしていることは何ですか?

白川:上記でもお話ししていますが、作品ごとの魅力はどこなのか、どういったアウトプットがいいのかを考えるのはもちろんのこと、この仕事を続けていて昔より強く思っていることとしては、「作家さんがその作品で一番大切にしていること」をもっと引き出してあげたいと思っています(多くの場合、それが作品の魅力と直結しているのですが)。弊社はデビュー作をやらせてもらう機会も多いですし、それが最初で最後の一冊になる場合もあるわけなので、作家さんにとっても大切な一冊になっていただきたいと思っています。

――今後、やってみたい仕事はありますか?

白川:動画はやったことがないのでやってみたいです。仕事でなくとも、モーションロゴなど今年は作ってみたいなと漠然と思っています。

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膨大な数の漫画作品が存在する現代において、手にとって読んでもらうだけでも容易くはない。どんなに内容が面白い作品であっても、読んで貰わなければ意味がない。だからこそ、漫画の顔である表紙は重要な役割を担っている。今回の取材を通じて、私たちが何気なく読んでいるその一冊の裏側には、デザイナーの数多の工夫や努力が詰まっていることがよくわかった。今後、漫画を読む際には意匠をこらした装丁にも注目してみるというのはいかがだろうか。

<取材・文/日刊SPA!取材班>

『海が走るエンドロール』(秋田書店)