中年男性のなかには「薄毛」や「顔のシワ・たるみ」が気になり始めた人もいるでしょう。しかし、「老化にあらがうのは恥ずかしい」と老化現象をそのまま放置していると、健康上のデメリットが生じるケースもあるといいます。本記事では和田秀樹氏の著書『老化恐怖症』(小学館)から一部抜粋し、詳しく解説します。

薄毛の原因はストレス、栄養不足、男性ホルモンのバランスなど

中年以降の男性に多い「薄毛」の悩み。髪の毛が一気に薄くなってきたと感じるような場合、ストレスなどいろいろな原因が考えられますが、割と多いと考えられるのが、栄養不足による薄毛です。

体内で毛髪の原料となるタンパク質の摂取量が足りないと、栄養が行き渡らず、髪がやせたり、弱くなって抜けやすくなります。その場合、肉や魚などのタンパク質が豊富な食材を意識的に増やしたり、サプリなどで摂取したりすれば改善することがあります。

男性の場合、もう一つ考えなければいけないのが、男性ホルモンのバランスです。テストステロンという男性ホルモンは、子孫を残すための生殖機能のほか、筋肉や骨の形成、内臓脂肪を溜め込まない脂質代謝などに関わります。脳にも直接働きかけて活発にしたり、判断力や記憶力などの認知機能を高めて頭の働きをよくし、やる気を出す作用もあります。

そして、テストステロンが5αリダクターゼという酵素と結合することで生成されるのがジヒドロテストステロン(DHT)と呼ばれる〝悪玉〞の男性ホルモンです。DHTが増えると、髪が抜けたり、前立腺が肥大したりします。

反対に、テストステロンがDHTに変化するのが抑制されれば、薄毛を未然に防ぐことができると考えられます。

20年くらい前から薄毛治療に使われ出したのが、テストステロンと結合してDHTを増やす5αリダクターゼの働きを阻害する「フィナステリド」などの薬です。男性の薄毛は「AGA」という病気の可能性があり、それは薬で治療できると訴えるテレビCMなどを観たことのある人は多いでしょう。

しかし、そうした薄毛の治療薬には副作用としてED(勃起障害)があります。実は男性が歳をとるほどDHTが増えていくのは、テストステロンの不足を補っているため、という側面があります。DHTの男性ホルモンとしての作用は、テストステロンの3倍くらい強力だとされています。

つまり、薄毛治療のためにDHTを抑制してしまうと、男性ホルモンの働きが弱まることになり、EDという副作用につながるわけです。そのため、私のクリニックでは薄毛治療でプロペシアを使う時は、同時にテストステロンも補充できるように飲み薬などを処方しています。

しかし、AGA治療の多くは皮膚科で行われるため、副作用までカバーする処方がされないケースが目立ちます。プロペシアはもともと泌尿器科系で使われる前立腺肥大症の薬として開発された経緯があるため、慣れていない皮膚科では見過ごされる傾向があるのかもしれません。

私自身は、薄くなってきた頭髪が気になる場合は、もちろん植毛でもいいと思いますし、カツラを着けてもいいと思います。外見から若返ろうとする、そうした男性の努力を揶揄するのは世界で日本くらい。実にくだらない風潮です。

外見を若返らせると「心」まで変化する

顔のシワやたるみが気になりはじめた時の対策にしても同様ではないでしょうか。ボトックスやリフティングなど、美容皮膚科や美容外科分野で行われる若返りのための努力を「反則」と思っていては、見た目が老けていくのは当たり前です。

外見を若々しく保つ目的で、そうした美容皮膚科や美容外科的なアプローチをすることについては、各人の生き方次第です。ただし、たとえば顔の形を変えるような美容整形手術に対する好悪、正邪は別にして、外見を若く保つことのメリットは、多くの人が想像する以上に大きいと思います。

「髪を増やしたいけど、急に増えたら陰口を言われるかも」「シワがいきなり減ったら、周りの注目を浴びそう」──などと気になるかもしれませんが、いざ清水の舞台から飛び降りてみると、心境が一変し、何事に対しても前向きになっている自分に気がつく人は少なくないようです。

男性ホルモンの減少やその他の理由による老化現象に抗うことなく、そのまま放置していると、様々な健康上のデメリットを生じさせます。

外見に関わる頭髪や顔のシワ、たるみに対しても、老け込んでいく自分の見た目に落ち込むことがあるかもしれないし、少なくとも若々しい気分でいるのは難しいと思います。

なお、日本の保険診療は「病気になったとき」は有効ですが、「今より元気になるため」の医療には使えないことがほとんどで、美容皮膚科や美容外科などは自費診療が基本です。歳をとって「今より元気になりたい」人は大勢いるのに、それが医療の対象になっていない現実があるのです。

しかし、「患者を幸せにする医療」「患者を若返らせる医療」という観点から考えると、内科などよりも美容皮膚科や美容外科のほうが優っているのではないか、とさえ私は考えています。

和田 秀樹

精神科医

※本記事は『老化恐怖症』(小学館)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。

(※写真はイメージです/PIXTA)