―[シリーズ・駅]―


 ほぼ毎年のように駅や路線の一部区間の廃止が続いている北海道14~23年の10年間でJR北海道管内で廃止になったのは115駅。路線も16年の留萌本線・留萌―増毛間(16.7㎞)をはじめ、19年の石勝線夕張支線・新夕張―夕張間(16.1㎞)、20年の札沼線北海道医療大学―新十津川間(47.6㎞)、21年の日高本線・鵡川―様似(116㎞)、23年の留萌本線・石狩沼田―留萌(35.7㎞)の計232.1㎞が廃止。これは東海道新幹線の東京―掛川間に匹敵する距離だ。

 そうした中、この3月には15日で5駅、さらに31日には根室本線富良野―新得間の廃止に伴い、同区間内の7駅がそれぞれ営業終了を迎える。そこで今回は15日に歴史に幕を下ろす5つの駅を訪問。その様子をレポートする。

◆①初野駅

 最初に訪れたのは、宗谷本線の初野駅(北海道美深町)。同線は近年、“駅の廃止がもっとも多い路線”として知られており、この駅があるのもいかにも利用客が少なそうな田園地帯のど真ん中。訪れた1月中旬は一面が銀世界に覆われ、激しい地吹雪が時折舞う最悪のコンディションだ。

 実際、宗谷本線でも初野駅がある名寄―稚内の区間は、冬場になると大雪による終日運休が頻発。平常運行でも停車するのは上下線4本ずつしかないため、鉄道でのアクセスはかなり大変だ。

 この時は特急停車駅の美深駅からタクシーを利用。運転手からは「最近、お客さんを初野駅まで乗せてくことが多いんですよ」と同じことを考えている鉄道ファンが多いらしい。

 駅は踏切脇にあり、工事現場の詰所のような小さな待合室、列車2両分がやっとの短いホームはいずれも雪で埋まりかけている状況。訪れた日は幸い運休にはなっていなかったが、アプリでこの時の美深町の気温をチェックすると日中なのにマイナス10℃。待合室は二重扉や二重窓の寒冷地仕様になっておらず、まるで冷蔵庫の中に入っている気分だ。

 でも、どこか旅情を誘う、雪景色秘境駅というのは嫌いではない。二度とこの景色が拝めないのは残念だが……。

◆②恩根内駅

 初野駅から10.2㎞離れた隣の恩根内駅(北海道美深町)も同じく15日で営業終了となる。移動の都合上、初野駅からはバスを利用して訪れたが、山に挟まれた地形のせいか美深中心部よりも積雪量は多い。駅前のバス停の標識は、3分の2以上が雪に埋まっていた。

 現在、この地域には約30世帯が暮らしているが、昔は規模の大きい集落で昭和40年代前半までは映画館もあった。独身時代の一時期、美深町にあった保険会社の営業所で働いていた筆者の母親も「休日に恩根内に遊びに行ったこともあるわよ」と語っており、当時はそこそこ賑やかだったようだ。

 そんな恩根内駅の駅舎は築30年と北海道の駅の中では比較的新しく、デザインロゴっぽく描かれた「恩」の文字がひと際目を引く。気密性の高い室内は隙間風もなく、なぜかトイレにだけ暖房が完備。雪国の田舎駅だとお手洗いはあっても冬季は閉鎖している駅もあるため、暖かい室内で用を足せるのはとてもありがたかった。

◆③愛山駅

 続いて向かったのは、石北本線愛山駅(北海道愛別町)。目の前を旭川と北見・網走方面を結ぶ国道39号が走り、車の交通量は地方にしては多い。

 ホームは初野駅同様、2両分程度の長さしかなく、1日に停車するのは上下線合わせて11本。この区間を走る普通列車は本来16本あるのだが、うち5本は通過してしまう。

 ほかの廃止予定駅のように愛山駅も利用客減少に悩まされ、JR北海道が公表する『駅別乗車人員』によると17~21年の1日あたりの同駅の平均乗車人員は2.6人。これは石北本線の駅では2番目に少ない。

 待合室はホームからT字路を越えた25mほど離れた場所にあるが、駅名とJRのエンブレムがなければただの物置小屋にしか見えない。しかも、中には除雪用具が所狭しと置かれており、冗談抜きに物置兼用となっているようだ。

 あと、個人的に気になったのは、通常駅では見かけることがない通過列車の時刻表が待合室にあったこと。鉄道ファンが貼ったものだと思うが、通過列車が多いため、きっと多くの撮り鉄たちが感謝したに違いない。

◆④滝ノ上駅

 そして、次は石勝線の滝ノ上駅(北海道夕張市新千歳空港から40㎞圏内と比較的近いが、1日に停車する列車の本数はたったの5本。そのため、大半の鉄道ファンは昼間に唯一アクセス可能な12時到着の列車で千歳方面から訪れ、新夕張駅始発の折り返しの千歳行き普通列車が来る12時49分まで滞在する。

 筆者もこれを利用したが、訪問したのは快速・普通列車の乗り放題『青春18きっぷ』の利用期間外の1月の某週末。それでも10人以上の鉄道ファンが滝野駅で下車し、全員がカメラやスマホでひたすら写真を撮りまくっていた。

 2つのスノーシェルターの間に位置する滝ノ上駅は、今春廃止になる駅ではいちばん歴史が古く、開業は1897年(※当初は貨物駅。旅客駅となったのは1901年から)。最盛期の1965年の乗車人員は年間6万6156人(※『改訂増補 夕張市史 下巻』より)だったが炭鉱閉山後は利用客は減少の一途を辿り、17~21年は1日平均3人以下(※JR北海道『駅別乗車人員』より)と2万2000分の1以下に激減している。駅に発着する1両ワンマン列車に不釣り合いな長すぎるホームは当時の名残だろう。

◆⑤中ノ沢駅

 最後に紹介するのが函館本線の中ノ沢駅(北海道長万部町。車掌車を待合室に改造した北海道ではよく見かけるタイプの無人駅だ。

 停車するのは1日上下線ともに普通列車8本ずつだが、札幌―函館間を毎日11往復する特急『北斗』や1日平均50本と言われる貨物列車など通過する列車は非常に多い。

 それでも町のホームページによれば、駅のある中ノ沢地区の人口は2月末時点で105人。駅とほぼ並行して走る国道5号線と海岸の間には住宅街が存在しているが地元の人は車で移動し、利用は通学で使う数名の学生に限定されているようだ。

 ちなみに次の駅までは1時間半近くあったため、海鮮たっぷりの『浜ちゃんぽん』が名物という駅近くのドライブインで食事しようと向かうがこの日は生憎のお休み。ほかに飲食店やコンビニもないため、駅に戻るも日が沈んだ途端、大雪に。情緒を感じるレベルの降り方ではなかったが、そういうところも含めて北海道なのだろう。

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 特に冬場は除雪のための人員やコストの問題もあるので仕方ないとはいえ、駅がまた消えゆくのはさびしい限り。せめて記憶の中にはしっかりと焼き付けておきたいと思う。

<TEXT/高島昌俊>

【高島昌俊】
フリーライター。鉄道や飛行機をはじめ、旅モノ全般に広く精通。3度の世界一周経験を持ち、これまで訪問した国は50か国以上。現在は東京と北海道で二拠点生活を送る。

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雪を舞いながら通過する回送列車