ニコン3月1日に、同社の子会社である米Nikonが、アメリカ航空宇宙局NASA)とスペース・アクト協定を締結し、有人月面探査「アルテミス計画」で使用される手持ち型ユニバーサル月面カメラ(HULC)の開発を支援すると発表した。

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●月で使用する「Z 9」を開発



 「アルテミス計画」は、長期的な科学観点での月面研究と探査の基盤を確立すべく、乗組員を月に送って最終的には火星への旅を可能にすることを目指す、人類にとって壮大かつ重要なプログラム。

 今回のスペース・アクト協定締結によって、ニコンのフルサイズミラーレス一眼カメラ「ニコン Z 9」が、同計画の第3段階となる有人月面着陸ミッション「アルテミスIII」において、月で活動する乗組員によって使用されることとなった。同ミッションではNikonNASAの協業を通じて、ニコン最先端のフルサイズミラーレスカメラが月の環境に耐えられることを確認するとともに、ミッション中の写真と動画撮影のための効率的で最適なプラットフォームを開発する。

 「アルテミスIII」は、2026年9月にオリオン宇宙船を搭載したNASAのSLS(スペース・ローンチ・システム)ロケットによる打ち上げが予定されており、1972年以来となる人類の月面着陸を果たすことになる。また、史上初となる女性宇宙飛行士が月面を歩くという歴史的なミッションを担っている。同ミッションは30日間を予定しており、乗組員はオリオン宇宙船で月軌道に入った後、2人の宇宙飛行士が月面着陸船(スペースXスターシップ・ヒューマン・ランディング・システム)で月面に降り立ち、約7日間をかけて月面でさまざまな調査を実施した後に、オリオン宇宙船に戻って他の乗組員とともに地球へ帰還する。

 月の過酷な環境においてカメラを使用するには、技術的・工学的な課題が多く、月面の温度はマイナス120℃~プラス75℃と大きく変化するほか、宇宙放射線が絶えず降り注ぐことでカメラのすべての電気系統がダメージを受ける可能性があることから、ニコンNASAと密接に連携して膨大な宇宙放射線に耐えられるよう、カメラ内のさまざまな回路と制御シーケンスを再設計するなど、過酷な環境下で使用する際の信頼性を最大限に高めるソリューションを開発している。また、地球から約38万3000km離れた月でもカメラが動作可能な状態を維持できるよう、さまざまなテストやシミュレーションを実施し、熱真空試験のサポートも行う。

 さらに、月面歩行中や宇宙空間での滞在時といった船外活動でもカメラを使用する必要があるため、乗組員が宇宙服の分厚い手袋を着用していてもカメラを快適かつ簡単に操作可能にすべく、NASAはシャッターレリーズ、画像再生、静止画と動画のモード切り替えなどの操作ができる「ニコン Z 9」用のカスタムグリップを開発している。カスタムグリップは、10ピンターミナル用ケーブルでカメラ本体と接続され、専用のカスタムファームウェアを用いて使用される。また、船外活動中にカメラボディーやレンズ、ハウジングを保護すべく、国際宇宙ステーション(ISS)にて宇宙飛行士が船外活動中に使用しているものと同様の、特別な熱保護カバーもNASAによって製作されている。あわせて、「NIKKOR Z」レンズもミッションに使用されることから、月の過酷な環境に耐えられるように改良が施される。

 そのほか、ファームウェアにも再設計された電気回路に対応するとともに、乗組員や機材が常に浴びる宇宙放射線を考慮したノイズリダクション適用範囲の高速シャッターへの拡張といったカスタマイズを実施する。さらに、保護カバーに包まれた状態での使用を最適化するための、ファイル名の付与ルールや初期設定、操作性に関わる変更を行っているほか、宇宙飛行士のワークフローを簡素化し宇宙から地球に画像を送信する際の効率を高めるとともに、消費電力を削減すべくカメラ内のFTP通信制御にも変更を加える。また、シャッターシールドの最適化やHDR機能の強化、メニュー項目の初期設定の変更なども行われるという。
米Nikon、NASAと「アルテミス計画」支援に関する協定を締結。「Z 9」を有人月面着陸ミッションで使用