初期宇宙の片隅で、きわめて珍しい赤いブラックホールが発見された。NASAのジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡によって発見されたその超大質量ブラックホールは、ビッグバンからわずか7億年後の宇宙で見つかったという。
赤と言えば赤い彗星「シャア」を思い出してしまう昭和のお友達は私だけではないはずだ。
なぜこの巨大ブラックホールは赤く見えるのか?その謎に迫ってみよう。
この極めて赤い巨大ブラックホールは、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による「Abell 2744」の観察データから発見された。
地球から40億光年離れたAbell 2744は、少なくとも4つの銀河団が玉突き衝突を起こして作られたと考えられており、銀河団の複雑な衝突過程により、多くの珍しい現象が引き起こされたことから、「パンドラ銀河団」とも呼ばれている。
可視光とX線でとらえた「Abell 2744(パンドラ銀河団) / image credit:r NASA, ESA, J. Merten (Institute for Theoretical Astrophysics, Heidelberg/Astronomical Observatory of Bologna), and D. Coe (STScI)
今回、研究チームにとって幸運だったのは、「重力レンズ」(巨大な天体が周囲の空間を曲げることで、レンズのような効果を発揮する現象)のおかげで、その向こう側にあるさらに遠くの銀河を観察できたことだ。
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それは3つの赤いコンパクトな天体で、ほんの7億歳の宇宙に隠れていた。その姿から3つの天体は「クエーサー」だろうと考えられ、その後いずれも同じ天体であることが明らかになった。
クエーサーとは遠方にある非常に明るい天体のことで、その正体は超大質量ブラックホールが近くのガスや塵を吸い上げることで膨大な電磁波を放っている、「活動銀河核」の一種だろうと考えられている。
そして今回のクエーサーも、その色や小ささを踏まえれば、星が形成されているありふれた銀河ではなく、超大質量ブラックホールであることを告げている。
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なぜブラックホールが赤く見えるのか?
このブラックホールが赤く見える理由は、厚い塵(ちり)の層が光を遮っているからと考えられている。
宇宙の塵は放射される光の中でも、特に波長が長い(赤い)光を通過させやすく、短い波長の光を吸収、散乱させる性質がある。これにより赤く見えるようになるのだそうだ。
さらにクエーサーの「赤方偏移」も、ブラックホールが赤く見える要因の1つと考えられる。
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赤方偏移は、天体が遠ざかることで放出される光の波長が伸びる現象で、これが光をより赤っぽく見せる。
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銀河が先か?ブラックホールが先か?
また、クエーサーの赤方偏移から、その質量も推測されている。
それによると、ブラックホールは非常に巨大で、それを宿す銀河の質量のかなりの部分が狭い範囲に詰め込まれている可能性があるという。
このことはブラックホールとそれを抱えた銀河の成長について興味深い疑問を浮かび上がらせている。
ネゲブ・ベン=グリオン大学(イスラエル)のアディ・ジトリン教授は、それを「卵が先かニワトリが先かの問題」だと説明する。
「今のところ、銀河とブラックホールのどちらが先で、最初のブラックホールがどの程度の質量で、どのように成長したのか、わからないままです」
この研究は『Nature』(2024年2月14日付)に掲載された。
References:Astronomers detect an extremely red supermass | EurekAlert! / written by hiroching / edited by / parumo
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